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王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


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決闘士の誓い

 調教師がなぜ決闘士ではなく別の組織として存在するのか。

 それはもちろん、調教師たちの組合が極めて特殊性が高い技術集団であるからだが、調教師はその性質上、自分と獣や魔物という2人での戦いという扱いになるからでもある。

 決闘の中で基本となる順位戦は1対1の戦いなのだ。


 また、このため決闘士の中で使い魔を有する者はほとんどいない。

 例えばブリテン王国では魔術ウィザードリィ学校スクールにおいて必修として生徒たちに使い魔の召喚をさせているのとは対照的である。


「ばかな、決闘の賞品が戦いに出るなど……」


「物扱いしないで!あたしは物でも奴隷でもない!それに決闘として公正じゃない!」


 ブリジッタが激昂する。


 つまり決闘であると言っているのにヴィンス対インノチェンテと竜の1対2になるのは問題であるといっているのである。

 ラファエーレが声をかける。


「そうですね、通常の竜への挑戦ならともかく、インノチェンテ卿は決闘を宣言されています。2対2にする必要があるでしょう」


「だが、コイツが出る必要はあるまい。身柄を掛けて戦うというのに、コイツが死んだら話にならん」


 ヴィンスも声をかける。


「危険だ。ブリジッタ」


「バカにしないで、あたしは決闘士よ。自分の運命を他人任せにするなんて許されないわ」


「……そうか。そうだな」


 ヴィンスはそれが彼女の原動力なのだと、彼女にとっての決闘士(オースオブ)の誓い(デュエリスト)なのだと感じた。

 それはヴィンスが挑戦から退かぬのと同様に。命を懸ける必要が、価値があるものなのだ。


「ただまあそうね、決闘の敗北条件はヴィンスが死ぬこと、それでいいわ。

 その段階であたしは降伏する。それなら文句ないでしょ?」


 ラファエーレが言った。


「決闘士として、良き覚悟あるお言葉です。

 インノチェンテ卿?あなたがこの組合に圧力をかけていたのです。黄金の野牛の決闘士は3名、うちチェザーレ氏は長期に渡り従軍中。他に選択肢が無いのですよ。

 あるとしたら後援者であるローズウォール家に急ぎ連絡し頼むことですね。もしユリシーズ伯が出場してくれるならば闘技場も大いに湧きますが」


 インノチェンテは断念した。

 こうして細かい話が詰められ、118年の開幕戦は決闘士ヴィンスとブリジッタがインノチェンテの使役する竜に挑むという、竜への挑戦から始まることとなったのであった。




 インノチェンテ達が帰った後、天幕の中で彼らは車座になる。

 ダミアーノが尋ねた。


「竜を相手取って勝ち目はあるのか?」


 ヴィンスは首を傾げた。


「あるわけないだろ。何を言ってるんだ。

 どうやってあんな馬鹿でかいのに勝てっていうんだ」


 大きさとは最大の武器である。

 魔術や武器を使わない拳闘などでは階級制があるが、下の階級が上の者に挑戦することはあれど勝利は困難である。

 体重に20kgも差があれば、まず間違いなく重い方が勝つであろう。

 ヴィンスと竜の体重差。およそ1000倍以上あるだろう。


「馬鹿っ……!いや当たり前、当たり前だよな」


「ああ、おそらく素手は竜狩りに最も向かないのでは?」


 人と獣との戦いはどうであろうか。

 獣とは野にいる天性の狩人だ。牙、爪、強靭な筋肉、俊敏さ。

 あるいはそれらから身を護る術を有する。角、蹄、丈夫な皮膚、機動力。

 鍛えていない通常の人間は無手だと猫や小型の犬程の強さしかない。

 大型の闘犬や猛禽類、猿に勝てる者は稀であろう。熊を追い返したという話を聞くこともあるが、それはごく一部の出会い頭の幸運な例だ。殺意持って熊が襲いかかってきた場合、それに抗することは不可能である。


「それはお前でもか?お前の魔術を以ってもか?」


「俺が使っている魔術は肉体強化の術だ。

 俺の拳が地竜の堅牢な鱗をも割れるとしよう。だがどこまで刺さる(・・・)

 俺の拳が二の腕まで竜の身体に刺さったとして、竜にとっては針が刺さったほどに感じるかどうかだろ」


 これはヴィンスが近接格闘士ストライカー強化術士エンハンサーである以上、仕方ない事であった。


 獣に相対するのが格闘技の達人ならどうか?

 それでも虎には勝てまい。伝説の中で虎狩りの話がない訳では無い。それでもごく僅かだ。

 ラツィオの闘技場でも素手で虎に勝った闘獣士や奴隷はいない。


「じゃあなぜ受けた?」


「そもそも決闘と竜への挑戦。王の名が絡む、つまり伯爵家の名を以っても覆せないという話なのだろう?断っても意味があるまい。

 実際、シーズンの開幕を飾る催し(イベント)としてはこの上ないだろうしね」


 ヴィンスは他人事のように淡々という。

 エンツォが尋ねた。


「言い方を変えよう。決闘でどう振る舞うつもりだ?

 調教師テイマー狙いか?」


 支配している魔物を倒さずに調教師を攻撃するのは見世物として褒められた行為ではない。

 だが他に打開策が無さそうに見えた。


「一昼夜くらい粘ってれば、インノチェンテも支配の魔力が枯れるだろ。

 インノチェンテを竜自身に食わせる気だった(・・・)のさ」


 ヴィンスはちらりとブリジッタの顔を窺った。

 ブリジッタの顔が青ざめる。


「あ……、ひょっとしてあたしが出しゃばったせいでヴィンスの勝ち筋を潰した?」

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i521206
― 新着の感想 ―
[一言] パーティーの場面では、「これ、完全に異世界恋愛やん……♡」と思うのと同時に、「ここまで支援が盤石になると、無限の複合獣はもう何も出来んやろ……」と感じていたのですが、インノチェンテさん、合法…
[一言] 時間制限は無いのですね。一昼夜戦うと明言しているヴィンス、恐ろしい子。熊ぐらいならヴィンスを見たら逃げ出しそう。(-_-;)
[一言] ブリテン王国の魔術学園キターーー!!!!(大歓喜) >「あ……、ひょっとしてあたしが出しゃばったせいでヴィンスの勝ち筋を潰した?」 でも小説的にはこっちのほうが面白いぜ( ˘ω˘ )
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