表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/111

仕立屋

 両脇に弟妹たちがへばりついたままヴィンスはソファーに座る。

 それが沈み込む感触に、天鵞絨(ベルベット)の手触りに懐かしさと驚きを感じる。

 かつていつも座っていたものなのに。


「良くぞ、全勝でこの1年を乗り越えた。わたしも何度か試合を見にいったが良く鍛えたものだ」


「すごかったです!」

「かっこよかった!」


 父の言葉にウィルフレッドとイヴェットがヴィンスを見上げて言う。

 ヴィンスは2人の頭を撫でると、トゥーリアの背後に控えるアルマをチラリと見てユリシーズに頷いた。


「幼い頃の教育の、師アルマの、そして修行のため彼女と別荘を貸してくれたおかげです」


 ユリシーズは頷く。


「うむ、1週間後にお前をローズウォール家が後援するお披露目の名目でパーティーを行う。今年の社交シーズン最後の大きな催しになるだろう」


「はい、ありがとうございます」


「いや、どのみち王都での社交が疎かになっていたのでな。当家にとっても良い機会だ。ウィルやイヴェットにも社交を教えねば」


 ヴィンスも想像していた展開ではある。だが、思ったよりもさらに大事おおごとであるようだ。


「夜会ですか」


「昼は王宮の庭園を借りてのガーデンパーティー、夜は王室歌劇場を貸し切っての夜会だ」


 タウンハウスは領地の屋敷カントリーハウスとは異なり、大規模なパーティーができるようなものではない。

 だがこの時期に最も権威ある劇場を貸し切るとは。

 そこにトゥーリアが身を乗りだしてくる。


「ねえねえ。ところで……ブリジッタさんとはどういう関係なの?」


 ほら来たぞ……。名前まで知られてるじゃないか。ヴィンスはそう内心舌打ちし、アルマを睨んだがどこ吹く風だ。

 色恋沙汰は女の子の方が気になるものなのか、イヴェットがきらきらとした翠の瞳をヴィンスに向けている。

 ヴィンスは溜息をついた。


「ただの同僚ですよ。期待されているようなことは何も」


「ふふ、でも怪我を治してあげたりしたのでしょう?」


「……まあ、それは事実です」


「わたし、お話してみたいわぁ」


 ヴィンスは再度溜息をつく。

 そんなことを言い出す気はしていた。

 ちらりとユリシーズを見ると、あきらめろとでも言うように首を横に振った。


「ではこれだけは約束してください。彼女は平民です。それも貧しい出で礼儀作法なんてまるで無い。呼び出したとして無礼を理由に決して罰を与えないこと。

 魔術使えるくらいなので頭は良いですから一度言ったことは覚えてくれますが、新入りのメイド未満くらいと話していると思って当たってください」


「ふふふ」


 トゥーリアが口元を扇で隠して笑う。


「それだけ気を配ってあげる存在なのね」


 んぐ、と閉口した。


「さて、時間がない。ノルベルト、仕立屋(サルト)は?」


「は、待機いただいております」


 ユリシーズが手を叩く。


「皆、急ぎ動くこと。ウィルフレッドとイヴェットもヴィンセント……ヴィンスと遊びたいのは分かるが、先にやることを終わらせなさい」


「はい、お父様。ヴィ兄様、後でフェンシング教えてください!」

「はい、お父様。ヴィ兄様、後でワルツの練習しましょうね!」




 ヴィンスがノルベルトに案内されて隣室へと行くと、仕立屋がそこには待機していた。首に巻尺メジャーを引っ掛けた猫背の男。


「ああ、こいつは不味いですね……」


 不味い……?ヴィンスは首を傾げる。


「これはヴィンス殿。初めまして。ラツィオのC級優勝おめでとうございます。あっしは仕立屋のフェリーチェ。

 ちょっと急ぎましょ。無駄口叩く暇は無くなったようだ。脱いで下さい」


 仕立屋は慇懃に頭を下げたかと思うと、返事も待たずに近づいてくる。

 仕立て屋には王侯貴族すら逆らわないものだ。ヴィンスは裸になりながら尋ねた。


「何が不味い?」


 ヴィンスの全身に手早く巻尺を当てて数字を読み上げる。控えていた少年がその数字を手元に書き込んでいく。

 男は目線も上げずにこたえた。


「いやね、あっしも高級既製服プレタポルテに手を加える程度の仕事って聞いてたんですがね。こりゃ無理だ。あんた筋肉が豊かすぎる」


「今から仕立てるってのかい?」


「ええ、首がパツパツで腹がダボダボの服なんて出した日にゃあっしも首吊らなきゃなんねぇ。こりゃあローズウォール伯からたんまり特急料金頂かないと割に合いませんね」


 ノルベルトが黙礼し、その旨をユリシーズに伝えに行った。


「あっしも仕立屋やって長いですし、決闘士の皆様の一張羅を仕立てさせて頂いてますが、ここまで脂肪が少なくて筋肉豊かな方は久しぶりですわ」


 このフェリーチェという男、決闘士の体躯に似合う服を用意することで有名な男であった。だがその彼がそう言うのはなぜか。

 1つに、今の決闘士が攻撃魔術優勢で、強化術士、肉体をここまで鍛えている者が少ないこと。


 次にヴィンスは体脂肪が少ないのだ。

 決闘士、剣闘士は実のところそれなりに脂肪を蓄えているものが多い。

 体重による階級制のある拳闘ボクシングなどであれば脂肪を絞るのが最適解となるが、それが無ければある程度は脂肪があった方が深手を負いづらくなるためだ。

 ヴィンスの場合、治癒術式に長けていてその必要がないことと、訓練が過負荷すぎてそもそも脂肪がつかないのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i521206
― 新着の感想 ―
[良い点] 猫背の仕立て屋! なぜ猫背なのか! 背景を想像してにやにやしてしまいますぜ! いい仕事しそうですね!
[一言] 今の流行りは貧弱決闘士?! 貧乳は良いが貧弱はいかん! つまり、貧乳は良い! 三段論法
[一言] あら、ヴィンスいい体。フェリーチェになりたい。( ˘ω˘ ) ブリジッタが並べば素敵でしょうねぇ…ふふふ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ