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王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


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25/111

インノチェンテとの因縁

 ヴィンスにもある程度、背景の想像がついた。

 無限の複合獣が連れてくる魔獣は南方の亜人達の土地、新大陸から連れてきたものだ。

 彼らは新大陸北部の人類の橋頭堡たる3都市の1つ、イフリキヤに拠点を置き、魔獣や新大陸との交易品をそこから王国へと輸送して巨万の富を得ている。


 新大陸の亜人、エルフや獣人たちを人間が奴隷化すること、あるいはその逆は大同盟グレートアライアンスによって禁じられている。例えばローズウォール家で働き、彼の師でもあったアルマも奴隷ではない。もちろん、法の目の行き届かないところではそういった事例もあるとは言うが。

 だが人間は人間を奴隷とできるのだ。王国内では〈隷属スレイブ〉術式は禁じられているものの、イフリキヤは自由都市、王国法の及ぶところではない。豪商達の合議により動く都市と聞く。


 一攫千金を目指して新大陸に向かった者、ブリジッタの母は獣闘士となったというから、おそらくは実力のあった冒険者が身を持ち崩して剣奴となったのであろう。


「ダミアーノに買われたのか」


「うん、5年前くらい前」


 ヴィンスは考える。ダミアーノはなぜ彼女を買った?

 その行為が慈善であるにせよ、それのみではないことは明らかだ。この闘技場にはそんな使い捨て(エクスペンダブル)の奴隷など掃いて捨てるほどいるのだ。


「……念のため聞いておくが、ダミアーノが小児性愛者ペドフィリアって訳じゃないよな?」


 ブリジッタは笑みを見せる。


「ふふ、大丈夫。闘技場の受付でね、ダミアーノはこう言ったの」




 5年前、ダミアーノは闘技場の受付で選手の試合登録をしていた時、ふとインノチェンテが連れている子供を目にした。

 ずたぼろの貫頭衣を身に纏う、薄汚れた、黒髪の、死んだような目をした少女だった。

 見世物で殺すためだけの子供だ。わざわざ決闘士受付の方まで来たのは、たまさか彼女が魔法の素質を有していたために、処分するにしても許可が必要だったからとダミアーノには分かった。

 散々見た光景だ。


 当時まだ険悪な仲ではなかったインノチェンテと軽く挨拶を交わし、唐突に少女へ声を掛ける。


「おい餓鬼がき、声は出せるか」


「え……」


 彼女が呟き顔を上げると、ダミアーノは屈み込んでブリジッタの顔を掴んだ。インノチェンテが怪訝な顔をする。


「おい、ダミアーノ、汚れるぞ」


 ダミアーノはそれに構わずじっと少女の濃紺の瞳を見つめ、前髪を摘んだり頬を摘んで歯並びを見てから言った。


「親は死んだか」


 少女は頷く。


「お前、蠅の集ってない飯が食いたくないか。鼠の糞の浮いてない水が飲みたくないか。……お前はここで死んで満足か」


 少女は首を横に振った。


「声を出せ!」


 ブリジッタの目から涙が溢れる。


「たべ、たべたい。い、いや……しにたく、ない」


「名乗れ!」


「ブ、ブリジッタ!」


 わんわんと泣く少女の声が受付に響いた。

 ダミアーノは良し、と頭を撫でて立ち上がると、新人の受付嬢を呼ぶ。


「ジュディッタ。決闘士見習いの登録用紙に代理記入しろ。名前はブリジッタ、所属は黄金の野牛組合だ」


「は、はい!」


 ジュディッタが慌てて机に用紙を用意した。

 インノチェンテが怪訝そうな表情を浮かべる。


「ダミアーノ?うちの奴隷を勝手に持っていくとはどういう了見です?」


「インノチェンテ、お前それが不法行為だという自覚はあるか?あれは奴隷じゃない、奴隷の子だろ?」


 む、とインノチェンテは答えに窮する。


 児童を奴隷化するのは違法だ。つまり公的には誰かが所有することはできない。親が奴隷であり、奉公先で産んだ子供がそのまま奴隷のように扱われることは往々にして存在するが、それでも本来その子供は奴隷身分ではないのだ。


 ダミアーノはインノチェンテの肩を抱き、声をひそめる。


「どうせお前、この餓鬼を魔獣に喰わせるために連れてきたんだろ?それだったら俺に譲らないかっていうただの商売ビジネスの話だよ」


「彼女にそれほどの価値があるとでも?魔法の素質はあるが、10歳になっても基礎魔術すら使えない出来損ないですよ?」


「ああ、いいぜ」


「金貨10枚」


「……てめえで魔法使えないって言ってんのに吹っかけてきやがったな。だがいい。なら金貨20枚で買ってやる。その代わり後でぐちぐち文句言うなよ?」


 こうしてブリジッタは黄金の野牛組合の見習いとなった。

 当時は何人も決闘士が所属しており、皆に大切に育てられたという。


「つまりあれか、ダミアーノはブリジッタの才能を見抜いたと。……だがどうやって?」


 彼は魔術師ではない。魔術師の才能が見抜けるということは無いはずだ。

 ブリジッタは前髪を摘む。漆黒の髪に一条走る金の髪。


「これ。身体の一部に異色や異相が入るのって、特殊な魔術師や魔法使いに多いんだって」


 ヴィンスは唸る。子供の奴隷、金貨20枚はぼったくりだが、C級デビューできる決闘士の卵として考えれば高くは無いに違いない。

 だがまあ、それはあくまでも将来への投資・賭けであり、さらに言えばダミアーノがこちらから多めに払っている以上、恨むような筋合いではない。


 もちろん金貨20枚は大金だが、最大手ギルドの幹部が惜しむような額でもない。それと今の言葉を合わせると……。


「つまりブリジッタは普通の決闘士よりもっとずっと価値がある。そういうことか、魔法使い?」

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i521206
― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法使い! そりゃ金貨20枚じゃ買えませんな。 どんな力を隠し持ってるんでしょ。 [一言] しかしインノチェンテもダミアーノとあんな会話しておいて 女々しいったら!
[一言] ダミアーノがかっこいい…渋い。(*´Д`*)❤︎
[一言] 仲違いはブリジッタが原因でしょうか。
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