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王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


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22/111

新人戦

「ロドリーゴ、こいつは通せねえ」


 決闘士新聞(デュエリスツタイムズ)編集長であるヤコポはロドリーゴが書いた原稿を突き返す。

 机の上に原稿用紙が散らばった。


「なぜだヤコポ」


「初戦で番狂わせがあった程度じゃねえか。そんなんであー、ヴィンスと言ったか。全く無名の奴をそんなデカい記事に推せるかよ」


「セノフォンテを推せってのか」


「ああ、あのオッキーニ子爵のとこの四男だぞ。氷術士としてかなりの腕と言うじゃないか。今回はたまたま負けてしまったが、これからまた勝てるだろう」


 ロドリーゴは舌打ちする。

 間違ってはいない。だがそれに勝ったヴィンスを評価しないというのは道理が通らない。


「ヤコポよ。確かにセノフォンテはこの後勝てねぇということも無いだろう。だが、精々5分程度の男だよ」


「新人で5勝5敗なら優秀だろう」


「ああ、だがそれ止まりだろうよ。一般の話題になるような選手には育たねぇ」


「なぜそんなことが言える!」


 ロドリーゴはため息をついた。

 先々代の編集長が辞めたとき、彼は現場にいたくて昇進を蹴った。その時昇進を受けた同期のヤコポが今は編集長だ。

 ロドリーゴは分かっている。自分が編集に向いていないことを。

 一方のヤコポは編集に向いている。だが現場の魂を失っている。


「決闘士の良し悪しなんざ目を見れば分かる。おやっさんはそう言っていただろう」


 ヤコポは苦いものを噛み潰したような表情を見せた。


「……だが、それは今このヴィンスとやらを推す理由にはならん」


 ふん。

 ロドリーゴは鼻で笑う。

 どこか裏で金か権力が動いていやがるんだろう。あるいはその流れに忖度しているのか。黄金の野牛が無限の複合獣の不興を買って干されてるのは有名だからな。

 彼はそう言ってやろうかと思ったが、結局口には出さず、ただ「そうかよ」とだけ言った。


「特集はザイラの書いた記事をメインで行く」


「ほんとですか!」


 デスクの向こうで彼女が立ちあがる音がした。


「ああ。ロドリーゴ、お前のB級の観戦記は使うが特集は没だ。誰か別の奴に記事を書かせる。いいな」


 特集のメインが新人の書くものであることはロドリーゴに否やはない。そもそもA級決闘士絡みの記事をそちらに回してるのだ。最初からそのつもりではあった。だがこのヴィンスの記事が日の目を見ないと言うのも癪ではあった。


 ヤコポはデスクから立ち上がると、コートを羽織る。

 今日は新聞社の会合があると言っていたか。


「ヤコポ」


「なんだ」


「ヴィンスがC級で優勝したら、この記事を使う気はあるか」


「ああ」


 ロドリーゴは原稿用紙を纏めて踵を返し、それを自分のデスクの引き出しに突っ込むと、コートを羽織って帽子を乱雑に頭の上に乗せた。

 そうして部屋を出ていった。




 結局、決闘士新聞は淡々と新人戦初戦の結果を伝えるに留めた。


 また王都で最も流通する王都新聞(ラツィオタイムズ)の決闘士欄は、セノフォンテを推す記事を上げた。

 つまりその見出しは『セノフォンテ・オッキーニ、無名の新人に破れる』というものであり、この先のセノフォンテの活躍を確信しているという内容であった。

 またヴィンスに関しては、『強いかもしれないが見栄えがしない』『我々は拳闘士の試合を見に行ったのではない』などという論調であった。これが他紙へも波及し、この年のヴィンスの観客からの評価を決定づけることとなる。




 だがその後、ヴィンスは順調に勝ち続ける。

 第2セクションから第5節まで相手を寄せ付けず圧勝したと言って良い。



第2節。


セント白陽ホワイトサン組合所属、長杖士クォータースタッフ炎術士フレイムスロウアー、オレステ。


 ヴィンスは火球の連弾を避け、対戦相手が次の術式を詠唱している間に近寄って殴って勝った。



第3節。


死者への灯火(トーチフォーザデッド)組合所属、ロッドアンドバックラー死霊術士ネクロマンサー、ルイージ。


 呼び出された骸骨スケルトンを延々と殴り倒していたら対戦相手が魔力切れで昏倒して勝った。



第4節。


暁の(ランサーズ)槍士アトドーン組合所属、投槍士(ジャベリナー)、念動士、ニンファ。


 宙に浮く投槍と手に持つ槍で攻めかかられるが、全ての突きを打ち払って殴って勝った。



そして第5節。


黒檀の塔(エボニータワー)組合所属、長杖士、操砂術士(サンドコントローラー)、ポンペオ。


 闘技場の砂が砂人形(サンドゴーレム)となり襲い掛かられるも全て殴って吹き飛ばし、再構成しようとする隙に近寄って殴って勝った。


「黄金の野牛所属、近接格闘士ストライカーヴィンス!これで5連勝!新人戦優勝だーっ!」


 アナウンサーの声が闘技場に高らかに響き、ヴィンスが拳を突き上げる。

 観客席からは歓声と悲鳴、どよめきが湧き上がった。


 ラツィオの闘技場における決闘士が必ず戦わねばならないのが、C級、B級、A級に別れて行われる決闘、順位戦である。

 春から秋にかけて、王都に貴族たちの集まる社交ソーシャルシーズンを中心に戦いは行われ、1人につき年に10戦を戦うのだ。

 これさえ出れば、他の決闘は出ても出なくても問題はない。例えば王国南部の都市、ネイプルズの闘技場は逆に冬の方が決闘が盛んである。

 中にはラツィオのオフシーズンにそちらの決闘に参加する決闘士もいる。


 C級には30人少しの新人が含まれていて、最初の5戦、新人は新人同士での決闘が組まれる。ここで全勝すると新人戦優勝となるのだ。

 今シーズンの新人の中での優勝候補であったセノフォンテを初戦で下している以上、相手になるものはいない。

 ヴィンスはここで優勝し、月桂樹の冠と賞金を受け取ったのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 下馬評が低い中、着々と勝つヴィンス。ロドリーゴがにやりと意味ありげに笑い、ヴィンスと顔を合わせる日が楽しみです。 15万字越え…これが例の仕様(笑)。了解しました。追いかけます!(`・ω・…
[一言] 20万字いっても良いのよ、むしろ越えろ下さい。
[一言] ヤコボはそのうち手のひら返しやる気がします。 ロドリーゴ、早いうちにヴィンスとの繋がりを深めるのが吉かと。
感想一覧
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