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王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


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新聞屋

ξ˚⊿˚)ξ <唐突な閑話。この作品は王都の決闘士で合ってます。

「……つまらん決闘だ」


 日曜の夕方、117年のシーズン開幕戦、初日のトリを飾るA級決闘士同士の決闘。

 ラツィオの円形闘技場(アンフィシアター)は満席、全ての観客が2人の決闘士の戦いに興奮する中、ロドリーゴは呟いた。

 草臥れたコートにハンチング帽、手にはペンとメモ帳、闘技場の発行する記者向けのパンフレットに各社の新聞。


「いやあ、すごい戦いですね、ロドリーゴ先輩!」


 ロドリーゴの隣、まだ子供にしか見えないような、背の低い女記者が大きな声でロドリーゴに呼びかけた。

 彼女の袖にはぴかぴかの記者を示す腕章、ロドリーゴも同じものをしているが、コートと同じように古びて皺だらけだった。


「……新人、面白いか」


「新人じゃありません、ちゃんとザイラって名前があります!

 最高です!A級決闘士の戦いをこんな最前列で見られるなんて!」


 まあ、確かにそれは記者たちの役得ではあるな。ロドリーゴは呟いた。


 彼らの眼前、こちらに背を向けて砂地に立つ男が無数の火球を放つ。

 闘技場の逆の端に立つ男が地面に杖を突き立てると闘技場の砂が大量に浮かび上がり、竜を模した姿をとった。

 火球と砂竜は闘技場の中央で衝突。轟音と衝撃波、爆炎と飛び散る砂。

 そして湧き起こるどよめきと歓声。

 決闘士たちは再び次の魔術の詠唱に入る。


「これじゃ宮廷魔術師の戦略級魔術火力演習と変わらねえんだよ……」


「何か言いましたか?ロドリーゴ先輩!」


 男は緩く首を横に振って椅子に座った。


 昔の決闘は面白かった。ロドリーゴは思う。

 年々決闘士の魔術の腕前は上がっている、魔力容量が増えているという話がされている。確かにそうだろう。戦いも派手になった。観客も新人の女も喜んでいるよな。

 だがそれは本当に強いのか?

 高火力の魔術をぶっ放すだけなら、決闘士なんかよりも宮廷魔術師や辺境防衛の魔導伯の方が絶対に上だ。

 逆に武器の腕前なら剣闘士グラディエイターや戦士・騎士たちの方が上だろう。

 決闘士ってものは武術と魔術を兼ねて、時に剣で、時に魔術でと戦うそのバランス・独創性が面白いし強みなんじゃねえのか?


 彼にも分かっている、それが時代遅れの趣味だろうという事は。もしかしたら過去を美化しているだけなのかもしれない。


閃光フラッシュガストーネ、斬城スラッシュキャッスルチャールズ、北斗七星セプテントリオンアルマ……」


 呟いたのはどれも軽く10年以上は前の決闘士の名前だ。

 だが彼らが今のA級と戦ったとして、今みたいな魔術と魔術の間の大きな隙を見逃すだろうか?

 それとも高位魔術になすすべも無くやられてしまうのだろうか?


 ロドリーゴはため息をつき、手元のパンフレットに目をやった。紙面の隅に小さく書かれている新人戦の組み合わせに目が止まる。


 今季の新人の有望株とされるセノフォンテの初戦の相手に知らない名前を見つけたからである。


黄金の野牛(ゴールデンバイソン)所属、打撃系格闘士ストライカー強化術士エンハンサー、ヴィンス』


 黄金の野牛、あそこは調教師組合に睨まれてたが、何とか出場する決闘士を用意できたか。それはまあ良い。

 問題はその後、打撃系格闘士で強化術士である。つまり、至近まで寄って殴るか蹴るかするという戦闘スタイルだということだ。

 この魔術火力が高まっている時代に、そのような原始的プリミティブな戦い方をする決闘士が出てくるとは思えなかった。

 そして聞き覚えのないヴィンスという名前。彼の頭には決闘士訓練生の上位の名前は全て入っている。だがその名はそこにない。


 ロドリーゴは思う。俺の知らないところに、こんな素人受けしなそう(・・・・)な面白い決闘士がいるとは許せんなと。

 彼はにやりと笑みを浮かべて立ち上がり、ポケットにペンやメモ帳をしまった。


「おい、新人」


「ザイラです!」


「明日の朝までにこの決闘の記事を書いて俺の(デスク)に置いとけ」


「は、はいっ!あれ、ロドリーゴ先輩は?」


「帰る」


 ロドリーゴは記者用の部屋から出て行った。


「え、えっ!?」


 ぽかんと見送る彼女に声がかけられる。


「ザイラちゃんっていうの?」


「は、はい!」


 隣で観戦していた別の記者が尋ね、ザイラが答えた。


「俺、王都新聞ラツィオタイムズのピーノ、よろしくね」


 ピーノと名乗った男はキザにウィンクを決めてみせた。

 ザイラは慌てて報道用の名札を取り出そうとする。


「いいよ、聞かせて貰ってたし。専門紙の決闘士新聞デュエリスツタイムズのザイラちゃんだろ。ロドリーゴさん有名だからな、まあもう時代遅れだけどさ」


「そう……なんですか?」


「ザイラちゃんだってあの人の感性が古いって何となく気づいてんじゃないの?」


 どきり、とした。

 ロドリーゴは尊敬できる新聞記者だと思う。その文書力、取材への姿勢など。だが今の決闘に不満を抱いているのは明らかであった。

 ピーノは続ける。


「でも良かったじゃん、A級決闘士の決闘の記事任せて貰えるなんて」


「はい!でもこんな大役、ちゃんと書けるか自信が……」


 ザイラはピーノを見上げる。


「この決闘終わったら(ワイン)でも飲みながら教えてあげるよ。

 モツ煮(トリッパ)の美味い居酒屋(オステリア)があるんだけどどう?」


「はい、ありがとうございます!」


 ザイラはそう言うと再び決闘に集中した。ピーノもデートを取り付けて緩んだ口元を閉じると決闘を見るのに戻った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誰だ?わからない!読み込みが足りぬ……
[良い点] こういう時代遅れと言われながら、誰よりも慧眼も持つ渋い男のキャラはやはり魅力的です。 第三者視点でその可能性を示唆されるのもかっこいいのです。
[良い点] ……ロドリーゴ……いいねぇ、実にいい。 一話から楽しく読んでますが、閑話である今回、いやぁ、色々と分かり味深い回でした♪
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