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王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


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クライマックス・決着

本日2話目です。お気をつけて。

 アルマの背筋が震えた。


 それはヴィンスに気圧されてか、いやそれもあろうが、気温が急降下する冷気ゆえだ。


 ヴィンスが魔力の才は温度の操作にある。

 彼は魔力を放出できない。温度を上下できるのは自らの身体のみ。だがそれによる物理的な現象としては別だ。超低温のものがあれば、その周囲の空気は冷える。当然のことだ。

 急激に冷やされた空気中の水分が凍り、細氷ダイヤモンドダストとなって虹色に煌めく。二人の吐息が白く染まる。


 何が冷たい?アルマは思考する。彼女が跨るヴィンスの身体は闘いの熱で火傷しそうなほどだ。

 冷気は足元から……ヴィンスの流した血か!彼の術理を理解し、身体は即座に動く。


 アルマは手にし、突きつけていた剣をヴィンスの首に押し込まんとした。……斬れない。一瞬のうちに剣に付着していた血が剣を、剣を持つ彼女の手を凍らせる。氷が剣を、手を覆っているのだ。


 物理的現象による速度ではありえない。

 下位の術式でもありえない。まだ術式を起動する前からここまで周囲に影響を与えるなど……!

 ヴィンスの唇が動く。彼の魔力が流れる。


「……儀式級魔術リチュアル氷の棺(アイスコフィン)〉アレンジ。〈凍れる荊姫(アイスブライアローズ)〉」


 アルマがヴィンスの上から飛び退いた。あまりにも巨大な魔方円から飛び出した彼の血液がその周囲に氷を纏わせ、凍てつく蔦となりつつ彼女へと迫る。


「なるほど、いばら……!」


 〈氷の棺〉とは氷の中に対象を閉じ込める魔術。対象は仮死状態となり、氷が解けぬ限りその中で永遠に眠り続けるという術式。

 南極は永久凍土に住まう氷河王は、何百年もの間、不死の病に冒された美しき恋人をこの術式に閉じ込めて抱えて彷徨っているという。


 ヴィンスは儀式魔術のアレンジと言った。

 複数名で長時間をかけて詠唱するレベルの術式をアレンジ。その言葉を決闘士が使う場合は通常、大魔術を決闘用にするため、詠唱時間の短縮や消費魔力を減少させる代わりにその術式の一部を使うようにすることを意味している。


 だがこれは違う。

 倒れ、天を仰ぐヴィンスの唇が動く。


「〈氷の棺〉に……自動追尾ホーミング性能を付与した」


 儀式魔術を超える術式を個人で発動とかする……!


 今や闘技場の砂地は無数の氷の荊に覆われている。〈念動〉で上空へと逃げるが……。


 ヴィンスが流した血の全て、それらが赤い糸のように上空へと舞い、それが氷を纏って荊となって伸びてくるのだ。


 なるほど人間たちの古い物語。荊姫、またの名を眠れる森の美女。かつてトゥーリアにせがまれて読まされたことがあり、アルマもまたその話を知っている。

 糸紡ぎの錘に指を刺されて長い眠りについた王女が城ごと荊に包まれ、100年の眠りの末に王子のキスで目覚める話だ。

 ヴィンスの血の糸に触れると荊に抱かれて眠りにつくという演出か。

 古きうたや物語にはそれだけ強い想いの力が宿っており、それは魔術と相性が良い。それを術と成したのだろう。


 そして彼自身の想いもまた分かる。この魔術は植物系術者ではないヴィンスの、魔力放出能力のない彼の、そしてもはやローズウォールではない彼が示す薔薇の大魔術なのだ。


 逃げ場などない。宙を駆けつつもアルマは悟る。

 結局のところ闘技場の決闘は砂地の上という区切られた場所での戦い、上空も闘技場の5階席より上は場外。

 ヴィンスの術式は間違いなくそれを全て埋められるはずだ。


「来い、炎帝!」


 ヴィンスの脚に刺さっていた剣が抜け、彼女の手に収まる。空中で剣を振りかぶった。

 そして、ヴィンスの想いには逃げるのではなくぶつかってやるべきだ。そう思う。


「全力解放!」


 剣が赤く輝く。剣を持つアルマの手が焼け、煙を上げる。


「燃やし尽くせ!」


 炎帝を振り下ろした。橙色の炎が雪崩のように天から落ちる。


 アルマの残った魔力を、魔導剣の機構と中の魔石で最大限に増幅した一撃。鉄をも溶かし斬る斬撃である。


 だがその炎すらも物言わぬ氷は静かに侵食し、氷の荊はアルマの身体をその内に閉じ込める。そして高く、高く天へと伸びていった。




 闘技場は静まりかえっている。


 観客たちの前には無数の荊が絡み付くことで構成される大樹の如き柱が屹立していた。

 その幹が太さは直径にして30m以上はあるだろうか。地面付近では広がって、砂地アリーナの大半を覆っている。

 見上げれば闘技場の5階席よりも遥かに高い。複雑に絡み合った荊は頂点で広がり、まるで花を咲かせているかのようだ。


 もはや観客からはヴィンスの姿もアルマの姿も見えない。


 流れる冷気。


 観客の誰かがくしゃみをした。


 その音をきっかけにざわめきが戻る。


 審判が砂地へと降りようとして、あまりの冷たさに入るのを断念した。靴が一瞬で凍りつき、地面と接着したのだ。


 その時であった。


 氷の大樹の根元の一部が樹のうろのように広がっていくと、その奥からゆっくりと、全身を霜で白く染めた少年が歩み出る。


 その姿が見えた側の観客たちから歓声が上がり、それは広がっていく。


 審判の声が高らかに闘技場に響いた。


「A級昇格戦、勝者ヴィンス!」

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i521206
― 新着の感想 ―
[良い点] サラッと出てきた氷河王の設定が、そしてヴィンスがこの術式を選んだことがエモ過ぎる!!
[一言] おおおおおお!!ヴィンス!ヴィンス!
[一言] これが昇格戦? A級優勝者決定戦じゃないの?
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