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王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


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クライマックス9

 砂地はヴィンスの血をたっぷりと染み込ませ、赤黒く染まっている。踏み込んでもじっとりと水分と粘性を感じさせるほどだ。


 ヴィンスは魔力を全身に巡らせる。

 無尽蔵にも見えるヴィンスの魔力もあと数度の攻防で尽きよう。


 ヴィンスの心にはある種の満足がある。それは師に通用する力を身につけていたことに対する満足か、魔力を体力を振り絞ったことによる心地良い疲労感か。

 相対するアルマの表情も、ここ数ヶ月の焦燥感のようなものが無くなっている。いや、その彼女の不満は何十年にも渡るものであったのかもしれぬ。


 アルマが樹剣・ミストリミエッカに触れる。

 魔力がアルマの身体に浸透するのが見えるが、注視すればその輝きも減じているのが分かる。

 彼女はミストリミエッカを手放すと右手に聖剣・パクス・スティバーレ、左手に魔剣・魂啜りを手にした。


「ではやるか」


「ええ」


 決闘の、終わりが近い。


 ヴィンスが前に出る。


 疲労により力が抜けたのか、満足感によりぎらつく闘志が抑えられたのか、あるいはここに来て八極拳の歩法を完全にものにしたのか。

 嘉睿ジャルイが使用した箭疾歩せんしっぽ、無拍子と言って良い程の動きに起こりのない前進だった。


 武術における歩法とは、近づいているのにそれに悟らせない技法であり、間合いを誤らせる。その上でヴィンスの速度は神速。アルマですら対処が遅れた。

 宙の5剣がヴィンスの通り過ぎた後の空間に刺さる。


 だがそれでもなお、彼女の手には双剣。白と黒の死の軌跡が空間に刻まれる。

 聖剣を避けつつも、それが纏う威に身を削られるほどの紙一重での回避。

 魔剣は避けない。ただ、その刃がヴィンスの身に届いた刹那、防御ではなく魔力を剣に叩き込んだ。


「つあああぁっ!」


 珍しくヴィンスが気を放つ。それは魔剣に封じられた魔族の魂を追い返さんがため。

 ヴィンスの魂に手を伸ばそうとした魔族の魂が逆流する。

 その反動は魔剣を持つアルマへと向かった。

 アルマの左手から骨の折れる異音がし、手の甲の皮膚が裂けて血が舞う。


 ヴィンスは満身創痍だ。身体の腹側は聖剣の光にかれ、皮膚が炭化するかのように剥がれていく。

 首元には魔剣が食い込んでいる。鮮血が噴出した。


 だが、彼女と相対した時、常に防御に使わざるを得なかった右手を温存した。


「〈突き(ランジ)〉」


 彼の貫手に宿る魔力は〈解呪〉、〈貫通〉、〈破砕クラッシュ〉。

 胸の中心を穿つ。

 アルマの白銀の胸当て(ブレストプレート)にヴィンスの指が沈み込む。

 〈解呪〉でアルマの〈念動〉による防御を、鎧に掛けられた防御の付与魔術を無効化し、〈貫通〉で金属をも貫く威力を指に与える。そして〈破砕〉は生命持たぬ無機物を破壊することに特化した術式。

 ヴィンスはそこにさらに踏み込み、至近で術式の浸透した胸当てへと寸勁を叩き込む。胸当ては鎧下の帷子かたびらごと爆砕され、アルマの小振りで褐色の胸が露わとなる。


 衝撃にアルマの口から呼気が漏れた。


 ヴィンスの脚が地を踏みしめると同時に彼の右手が天を向き、アルマの剥き出しの胸にヴィンスの肘が埋まる。

 震脚。万斛の沈墜勁と十字勁。さらにヴィンスの神速がその場で留まることで、全ての運動エネルギーが余すことなくアルマの身体に叩き込まれた。


 ビリヤードを連想した観客もいただろう。

 練達の選手によりかれた白い手球キューボール的球オブジェクトボールに当たった時、手球がその場にピタリと止まり、的球が勢い良く飛ぶ様を。


 アルマが真横に吹き飛んだ。


 ヴィンスの動き、それは完全なる[猛虎硬爬山(もうここうはざん)]であった。


 三打からなる連撃。本来であればヴィンスのような治癒術士でもなければ真に必殺となるであろう絶招ぜっしょう

 ただし、それは鎧など着ていない前提。実際、前の二撃は魔力を、鎧を抜くのに使われている。それでも最後の一撃だけでも尋常な威力ではない筈だ。ヴィンスは肋骨を砕く音を聞いた。


 アルマが地に伏し、倒れている。宙に浮いていた5剣は、砂地に放り出された。

 誰もが初めて見る光景。

 5年間彼女に師事したヴィンスですら、ここまで彼女にまともに一撃を入れた事はない。


 だがそれでもなお。


 アルマの手は剣を手放さない。

 彼女の身体が動く。最初は操り人形のようにぎこちない動きで。


 意識は飛ばした自信がある。だが彼女が動けるのは意識を分割していたからか。〈八重思考〉のうち生き残ったものが彼女の身体を支えているのだろう。そして動かぬ身体を〈念動〉で吊り上げているのだ。虚ろな視線がヴィンスに焦点を合わせる。

 口元から大量に血が溢れた。


 ヴィンスもまた動けない。聖剣で灼かれ、魔剣に斬られ魔力を叩き込んだ上での絶招だ。心身への負担が大きすぎた。〈治癒〉、〈血液増加〉。自らの身を癒しながら油断なく拳を構える。


 立ち上がったアルマの乳房の中央は陥没していた。だがそれは整っていく。

 治っているという訳ではない。

 〈念動〉で砕けた骨の位置、破裂した血管、血流、それら全てを正しく整えているのだ。


 ヴィンスも行うそれは、元々はアルマの技術である。


「……よくぞ……本当に……よくぞここまで至りました」


「アルマ、まだ続けますか」


 ヴィンスの傷は治った。まだ戦闘を続行できると言える。だがアルマはそうではあるまい。

 アルマが笑みを見せ、手招きするような仕草を取った。


「……ああ……すまんな、ヴィンス」


 ヴィンスは背中から腹につき抜ける衝撃を感じた。

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i521206
― 新着の感想 ―
[良い点] シリアスなシーンなのに、意識がアルマのおっぱいに行ってしまっているのは私だけ?
[一言] 猛虎硬爬山キターーー!!!!(大歓喜) からの一転ピーンチ!!!! 勝利が見えて油断しちゃったね( ˘ω˘ )
[良い点] ぬおおおーーー! 必殺技三連発!? でもアルマは立った!? そして!? まさしくクライマックス! [一言] 『小振りで褐色の胸』 だれかFA描いてくれないですかね……
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