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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-095 ガイエンさんの思惑

 野犬の群れを1つ潰したところで、焚き火を囲んでお茶を飲む。

 しばらく三節昆を握っていなかったけど、体は覚えていたようだ。シグちゃん達が牙を回収したところで、レイナスが皮を剥いでいる。死体は俺が掘った大きな穴に放り込んでいるけど、いったいどれだけ倒したんだろうな。

 改めてお湯を沸かして皆の帰りを待っていると、最初に戻ってきたのはシグちゃん達だった。


「32匹でしたよ。野犬の方はこれで終わりですね」

「そうなると、ラビー20が問題だな。明日はシグちゃん達が忙しいぞ」

「任せてください!」


 シグちゃんの言葉に、ファーちゃんも頷いている。

「……どうやら終わったぞ」

「ご苦労さま。俺には苦手なんだよな、レイナスがいてくれて助かるよ」

「お互い様だ。リュウイに助けられる方が多いのが問題だ。これ位ならお安い御用だ」


 そんなに手助けしてないような気がするけどな。

 それでも、久しぶりに行った4人揃っての狩りだ。上手く狩れたから互いににこにこと微笑みながら雑談を楽しむ。


 翌日は、レイナスが見つけたラビーを1匹ずつ確実にシグちゃんとファーちゃんが交替で狩っていく。

 俺は全体の見張りを仰せつかったけど、ある意味戦力外通知って事なんじゃないかな? 荒地で危険なのは野犬ぐらいなものだ。ガトルは森に行かなければ見掛けないし……。

 2日掛かりでどうにか数を揃えて村に戻る。

 ギルドのカウンターでミーメさんに依頼の品を渡すと、奥のテーブルで俺を呼ぶ声がする。ローエルさん達が狩りから戻ってたのか。


「呼んでるみたいだぞ。俺達は先に戻るけど、あまり長期な依頼は引き受けるなよ」

「分かってるって。長くて5日なら良いんじゃないか? だけど、狩りの手助けなのかな?」


 俺の疑問の声はレイナスに伝わらなかったようだ。すでに3人ともギルドをさっさと出てしまってた。たぶん風呂にでも行くんだろう。だいぶ冷えてきたからな。

 羨ましそうに扉を眺めたところで、きびすを反すとローエルさん達がお茶を楽しんでいるテーブルに向かった。


「何でしょう? あまり長期な依頼は出来そうにないんですが」

「まあ、座ってくれ。話はそれからだ」


 言われるままに、空いていた椅子に腰を下ろすと、レビトさんがお茶を運んでくれた。ありがたく受け取って礼を言う。


「色々とあるんだが……、俺達も腰を落ち着けようと言う事になった。サルマンさんのおかげで、空き家を2つ手に入れたから、俺達も村の住人って事になる」

「それは、ありがたい話ですね。東の森は良い狩場ですが、俺達では1番、2番広場に向かうのはまだまだ度胸がいります」


 ローエルさんもこの村に根を下ろすって事だな。まだまだ未熟だから、これから色々と教えて貰えそうだ。


「お前達は特別だ。俺達が教えることも少ないだろうが、狩りをする時にはこれまで以上に手伝ってもらう事になりそうだ」

「ついでに、身を固めるってことだな。俺達はそれぞれ夫婦になる。ローエルはレビトと一緒だ」


 とりあえず、目を丸くして答えた。意表を突かれた感じだけど、長らく一緒のパーティで狩りをしていたから気心は知れているんだろう。

 そう言えば、ガイエンさんも結婚してたから、ハンターの結婚はあまり奇異な話でもないのだろう。帰ったらレイナス達に教えなくちゃならないな。


「新たに、ガイエン殿が俺達に2人の若者を託すと言っている。そいつらに狩りを教えることになりそうだが、場合によっては助けて貰うぞ」

「イリスさん達がその任に当たるのでは?」

「イリス達は王国内を飛び回っている。ガイエン殿はその一翼をお前達に託したかったようだぞ」


 それは俺達には重すぎる話だ。この世界の片隅で誰にも迷惑を掛けずに暮らせるだけで十分だと思う。

 こんな世界にやって来ると分かってたなら、格闘技の部活位はやっていたんだろうけどな。そうなれば少しは変わった生活が送れるかもしれない。


「ガイエン殿としては、リュウイ達をこの村の近隣の村や町まで派遣させたいと考えているのだろう。お前達もレベルは上がっているだろう? 本来ならばあちこちの村を回って狩りを楽しむ年頃なんだがな」


 そんな事を言って笑っているところを見ると、それが一般的なハンターなのだろう。

 一つの村でじっくりとレベルを上げて、広い世界に出て行く。なんかゲームのせかいのような気がするけど、無理をせずに色んな狩りをするならそんな事になるんだろうな。


「とは言っても、俺達は非力ですしシグちゃん達もいます。この村でのんびりと暮らしたいと思っているんですけど……」

「お前達の実力を他者が認めているって事だ。悪い話ではないっと思う。だが、背伸びをしたくないというお前の考えも分かるつもりだ。ガイエン殿が派遣して来る者達にも、お前達の日常の狩りを教えれば良い。だが、緊急の依頼がいつ何時やってくるか分からない事も確かだ。掲示板に張り出されずに、ギルドから直接お前達に指示が来るぞ。とは言っても、当分は俺達も一緒になるだろうな」


 常に十日分の食料と水筒の水を毎朝換えておくように言われてしまった。レスキュー部隊のような感じになるのかな? そのために、ギルドから一人当たり銀貨三枚が、依頼が全くなくとも支給されるらしい。

 ギルドに雇われてるような感じになるのかな? ちょっと変わった契約だな。後でミーメさんに良く聞いておこう。


「頑張るんだぞ!」と言ってローエルさん達はギルドを出て行った。直ぐにミーメさんがやってきて、明日は全員でギルドにやって来るようにと言うと直ぐに戻って行った。

 俺もそろそろ戻ろうか……。夕食に遅れると、皆に悪いからな。

 

 家に戻ると、すでに夕食が出来上がっていた。

 そんなに長く話をしてきたつもりはないんだけど、ついつい長話になってしまったのだろう。

 簡単な夕食を皆で頂きながら、ギルドでの話を皆に聞かせる。


「すると、イリスさんのような人が2人やってくるのか?」

「リビングに泊まって貰う事になりそうですね。前から比べれば寒くありませんが……」

「イリスお姉さんは強かったにゃ!」


 何か、俺の心配が馬鹿らしくなってきた反応だな。シグちゃん達はイリスさんのようなハンターがやって来ると思ってるのかな? 俺は俺達とそれ程差が無いハンターがやってくるんじゃないかと思ってるんだけどね。


「ギルドの方針は絶対らしいから、俺達が反対しても良いことは無い。ローエルさん達がこの村に家を持つ事で、俺達との連携を図れるようにガリウスさんが手を回したに違いないな。10日分の食料の話は俺にも理解出来る。ファー、明日になったら直ぐに用意しとくんだぞ。いつでも出掛けられるようにしとかないとローエルさん達が他のハンターの笑い者になりそうだからな」

「そこまでのことか?」

「それだけ、リュウイが評価されてるんだ。俺も嬉しいよ」


 冬場のカゴ漁も上手く行っているようだし、絹織物はメルさん達に任せておけば十分だ。春までシグちゃん達はメルさん達と一緒に働けば良いし、近場の狩りを俺とレイナスで行えば良いのかな? 何かあれば、4人でローエルさんのパーティに合流することで何とかなるだろう。

 ガリウスさんが派遣して来るハンターも、新人ではないだろう。かえって俺達が教えて貰う事が多いのかも知れない。


「数年前が嘘のようだな。俺達を邪魔者扱いするような村もあったけど、この村で安心して暮らせそうだ」

「全くだ。何がそうさせるのかは分からないけどな」


 レイナスの言葉に俺達は相槌を打つ。その原因は何だろうと考えるんだが、やはり皆で協力し合って冬を越そうとする事が互いの結び付を強めるのかも知れない。

 シグちゃん達に内職の世話までしてくれたからね。絹織物を初めても、おばさん達は毛糸玉の入った手カゴを持ち寄って来るそうだ。休憩時間に靴下を編んでいるとシグちゃんが教えてくれた。

 少しでも暮らしを良くしたいというのが、この村の住民の共通した願いなんだろうな。そのベクトルが上手く作用しているようにも思える。そこに、サルマンさんの努力があるんだから、計画が出来れば形になるのは間違いない。


 翌日は、狩りも機織りも休みだ。3日働いて1日休むことで俺達の合意ができている。

とは言っても、シグちゃん達はレイナスの指示通りに買い物に出掛けたし、俺とレイナスはシグちゃん達のボルトを研いでいる。

 暖炉の前に布を敷いて、2人でパイプを咥えながらのんびりと研いでいるのだが、数がだいぶ減っている。研ぎ直したところで、2人のボルトケースに入れると11本ずつになってしまった。俺達がクロスボウを使うとボルトの回収が中々できないからな。

 改めて、ボルトを作ろうとレイナスに提案してみた。


「そうだな。20本ぐらいは必要なんじゃないか? どんな依頼が来るか分からないからな」

「俺達で作っても良いが、武器屋で作って貰う事はできないかな?」

「それなら、俺達よりもきちんとしたボルトを作ってくれるはずだ。俺が頼んで来るよ」


 直ぐにレイナスが席を立って外に出て行った。入れ違いにシグちゃん達が帰って来たので理由を話しておく。

 シグちゃん達もボルトの数が心許なく思っていたようだから、新たなボルトが手に入ると聞いて喜んでくれた。


「そうそう、サルマンさんが呼んでましたよ。隣の番屋にいるそうです。これを貰っちゃいましたから、今夜はチリ鍋です!」


 でっぷりと太ったチリをファーちゃんが見せてくれた。

 思わず笑みがこぼれる。しばらくぶりだからレイナスも喜ぶんじゃないか? 40cmを超える立派な奴だから、お代わり自由になりそうな気がするな。


 さて、サルマンさんの用事とは何だろう? とりあえず行ってみるか。

 何といっても漁師の番屋はお隣だ。日頃から行き来してるから、俺達も漁師仲間として付き合ってくれるんだよな。


 隣の番屋に行くと、かなりの漁師達が集まっている。いつもの倍以上いるんじゃないかな。板張りの床は俺達のリビングよりも広いんだけ、どすし詰め状態だぞ。


「おう、来たな。ここに座ってくれ」

 俺を見とがめたサルマンさんの指差した場所は、サルマンさんの右隣だ。本来なら筆頭漁師達が座る場所じゃないのか。

「その席は畏れ多いような気がします……」

「何を言ってる。俺が指示してんだから問題ねぇ。それに、リュウイはそれだけの事を俺達にしてくれた。漁には出ずともお前達は立派に俺達の仲間に違いねぇ」


 サルマンさんの言葉に漁師達も頷いているし、俺の為に身を寄せて席までの道を作ってくれた。ここはサルマンさんに従っておこう。

 サルマンさんの隣に座ると、木の椀で酒が出てくる。朝から飲んでるみたいだけど、嫁さん連中に怒られないんだろうか?

 軽く一口飲んで、席の前に置く。サルマンさん達に付き合ってたら酔っぱらうまで飲まされそうだ。


「ところで、俺に用事があると聞いて来たんですが?」

「そうだ。俺達の冬場の漁は知ってるな? 船でチリを釣るんだが、今年の冬からはエビまで獲れるようになった。ここまでは良い。だが、それ位で満足するようでは漁師はおしまいだ。さらに魚を取ることを考えねばならん」


 サルマンさん達にしては前向きな相談をしていたようだ。

 話を聞くと、船を大きくしたいらしい。船が大きくなれば冬の波にも安心できるし、もう少し深場で漁もできると考えたようだ。


「俺達が使っている船を知ってるな。あれより大きくしたい。出来れば長さを5割増し、横幅を3割増しとすれば、かなりの漁師が乗り込める。だが、この村には港がねぇ。となれば、今まで通りに砂浜から海に出すしかねえんだが、引き上げるのが問題だ」


 少し分かってきたぞ。船の大型化に伴って重量が増すから、その対策を俺に考えさせたいって事なんだろうな。


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