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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
89/128

P-089 オルゴルコイは薬になる


 10日も過ぎると、俺達のリビングに新たに2人のご婦人が増えた。サルマンさんの娘さんの年代位に見える。

 そんなおばさんのやっていることは、刺繍のようだ。前に作った絹の布の切れ端をハンカチ程の大きさの四角な布にして、俺達が染めた糸を使って端の方に小さな野の花を刺繍している。娘さんだった時代にそんな事でオシャレを楽しんでいたんだろう。

 ファーちゃんが、ジッと目を凝らして見ているから、シグちゃん達が始めるのも時間の問題のような気がするな。


 半月程過ぎると、背負いカゴ2つ分の繭が紡がれて、織機にセットされた。

 朝から、単調なおさで横糸を叩く音が聞こえてくる。

 更に娘さん達が増え、交代しながら絹が織られていく。


 新しい番屋の裏手の建物も段々と形になってきた。横幅が12m、奥行きが5m程の建物が織り場になっており、隣に同じ奥行きで横幅が半分の紡ぎ場が出来ている。


「どうだ。立派な建物だろう。嫁さん連中を30人以上雇えるぞ。婆さん連中の織機を改造すれば都合3台が揃えられる。夏が過ぎる頃には更に増やせるだろうな」


 建物を見ていた俺の肩を叩いたのはサルマンさんだった。

 そんなことを自慢げに話してくれるところを見ると、毎日進捗状況を確認しているんだろう。

 誰にも増して、この計画を喜んでいるのがサルマンさんだからな。困窮している村人を見て何とかしたいと思っていても、それを形に出来ずにずっと悩んでいたに違いない。

 

「古い番屋の織機もその頃には移動できますね」

「そうだな。今織っているのが終わってからで良いだろう。王都に届ければ金貨1枚になる。嫁さん連中がさぞ喜ぶに違いない」

 

 漁師のおじさん達も、たまに皆で眺めているから漁にも張り合いが出るに違いない。

 一気に、村人の所得が倍増することにもなりかねないが、そうなると参加できない村人からの妬みも出るだろう。富の不均衡が村人の心が離反することにもなりかねないところがあるんだよな。

 メルさんが同年輩のご婦人を参加させたのは、その辺りの心配りを考えてのことだろう。細かな作業を少しずつ、村人に割り振る考えに違いない。


 村の通りに出て、ギルドに向かう。俺達に手伝える作業があまりないから、レイナスと狩りに出掛けるつもりだ。

 ギルドの扉を開けてミーメさんに挨拶すると、ホールの奥から声を掛けられた。


「リュウイじゃないか。ちょっと来てくれないか?」

 振り返ると、ローエルさん達のパーティがテーブルでくつろいでいる。

 ローエルさん達のテーブルに空いていた椅子に腰を下ろすと、ローエルさんが手伝ってくれと言いだした。


「山犬はどうにか狩ることができたから、森はしばらくは静かだろう。第3、第4広場の先に行かなければ初心者ハンターは安心だろう。そこでだ、オルゴルコイを狩るのを手伝ってくれないか?」

「初めて聞く名前ですが……」


 ローレルさんがバッグから取り出した図鑑は、俺達が持っているものと表紙が違う。革で表装された分厚いものだだった、

 付箋ふせんのあるページを開くと、身開きでオルゴルコイの姿と説明文が書かれている。

 その図鑑を俺の前に出してくれたので、ざっと読んでみた。


 直径は1D(30cm)長さが15D(4.5m)位で、見た目はずんぐりしたミミズのようにも見える。

 頭部をすっぽりと覆うように硬い嘴が4つ付いており、その中に丸い口があるようだ。2m程の触手を数本伸ばして獲物を捕らえるらしい。丸呑みしてゆっくり消化するんだろうな。


「グロい形だが、頭の後ろにある小さな袋に毒を持っているんだ。触手の棘から毒液を出すから、あまり近寄るのは問題だな。もっとも、その毒は獲物を眠りに誘う効果がある。だから、薬用として1匹倒せば銀貨10枚にはなる」


「シグちゃん達は機織りを頑張ってますから、手伝えるとしても俺とレイナスの2人ですけど……」

「それで十分だ。レイナスと良く相談してくれ。出発は明日の朝だから早めにギルドに来てくれよ」


 直ぐにレイナスに知らせなくちゃ。

 ギルドを出て、真っ直ぐに俺達の番屋へと戻った。

 レイナスは、外で焚き火をしながら、繭を茹でている。どうやら、他の村から繭が届いたのだろう。

 作業を手伝いながら、先ほどの話をレイナスに告げる。


「サンドワームの一種なんだろうな。昔聞いたことがあるぞ。黒レベルの獲物という事だから、俺達を誘ってくれるのは狩りを教えてくれると言う事なんだろうな。俺は賛成だ」

「だが、シグちゃん達は……」

「リュウイが話したとおりで問題ないだろう。せっかくサルマンさんの夢が形になってるんだ。メルさん達と一緒に小屋で糸を紡いでいたほうが俺も安心できる」


 身の丈に合った依頼なら4人で請け負うのも良いが、今度の依頼は少し厄介そうだ。どうやって狩るのか想像も出来ないな。


 その夜、夕食を取りながらシグちゃん達に、俺達がローエルさん達と狩りに向かう事を告げた。

 同行できないことを残念がっているようだったけど、全てをメルさん達に任せるのも問題だろうと言う事は納得しているみたいだ。


「今回だけですよ。それならファーちゃんだって許してくれると思います」

 ファーちゃんも熱いスープをフーフーと冷ましながら頷いている。

「でも、オルゴルコイはリュウイさんは初めてですよね。昔、お母さんから聞いた話があります。最初に胴を槍で貫抜く……、と言っていたのは覚えているんですが」

「ありがとう、その話で狩りの方法が分ったよ」


 シグちゃんの住んでた村はエルフ族の暮らす村だ。長い寿命を持つ種族だから、若い時に村を出てハンターとして暮らす者も多かったに違いない。

 再び村に戻った時に、自分達の狩りの様子を村人に聞かせるのも娯楽の一つだったのだろう。

 シグちゃんのお母さんが実際に狩ったのか、それとも人から聞いた話なのかは確かめることは出来ないが、おおよその狩りを想像できるぞ。

 姿を現したオルゴルコイの頭に気を取られずに、胴を槍で貫くのは意味がある。再び地中に潜られないようにするためだろう。

 そうなると、太くて鋭い槍という事になるな。ウーメラを使う投げやりよりは、杖代わりに使っている槍の方が良さそうだ。

 

「要するに、オルゴルコイが地中に潜らないようにすれば良いって事だ」

 どうするんだ? と俺を見ているレイナスに教えると、なるほどと納得している。

「槍の柄が引っ掛かって潜れないってことか? なら、使う槍は決まったようなもんだ」

 

 食事が終ったところで、俺とレイナスは昔使った短剣を穂先にした槍を研ぐ。

 シグちゃん達は、刺繍枠を取り出してハンカチに刺繍を始めたようだ。メルさん達から頼まれたらしい。ある程度数を揃えたいってことだろうな。

 そんな2人を見て、メモ用紙を正方形に切り取り折り紙を始める。

 向こうの世界では何度も作ったから、指先が覚えているみたいだ。

 完成した鶴を2人の前に置くと、ファーちゃんが目を丸くして驚いている。


「コーレルにゃ。昔住んでた村にたまにやってきたにゃ!」

「不思議です。これって、メモ用紙を折っただけなんですよね」

「折り紙っていうんだ。メルさんにこれを見せて、絹を紙のように使えるならこれが出来ると教えてくれないかな」


 もう一つ折ってくれという事で、素早く折りあげたんだけど、出来上がった鶴を見て2人が同時にため息をついたと言う事は良く分らなかったという事だな。

 後でゆっくり教えてあげよう。


「全く器用な奴だな。ほら、これで良いか?」

 最終の研ぎをレイナスに頼んでいたのだが、どこにも曇りが無く研がれていた。レイナスだって器用じゃないのか?

 

「ありがとう。これで、携帯食料を買えば終わりだな」

「背負いカゴを1つ担いで行くぞ。獲物をがあれば皆に振舞えるからな。ファー、クロスボウを借りるぞ」

 レイナスの言葉に、鶴を手のひらに乗せてジッと見ていたファーちゃんが慌てて頷いている。

 そう言えば2人とも女の子らしいものは、晴れ着を持っているだけだ。何かプレゼントしてあげたいな。

 

 翌日。シグちゃん達が作ってくれたお弁当を持ってギルドに向かう。

 途中で雑貨屋に寄って、携帯食料を5日分買い込んだ。

ギルドの扉を開くと、ローエルさんが俺達に気が付いて片手をあげる。


「来てくれたか。だいぶごつい槍だな」

 俺達が近付くとそんな事を言って笑っている。

「シグちゃんにオルゴルコイの狩りを教えて貰ったんです。昔使ったものですが、これならと」

「エルフの里に伝えられたなら本当の事だろう。俺達も狩りの仕方に迷ってたところだ参考にさせて貰うぞ」


 笑いをおさめて、ローエルさん達が立ち上がる。直ぐに出掛けるようだ。

 俺達も彼らの後ろに付いてギルドを出た。

 北門を抜けて畑を横切り、森の手前で一休み。

 その後、第2広場を抜けて第4広場の手前で昼食を取った。


「オルゴルコイの目撃場所は森を抜けた先にある荒地だ。前に、サラマンダーを狩ったその先だ」

「だいぶ遠いんですね」

 俺の言葉にお茶を飲もうとしていたローエルさんが頷いた。

「あの辺りは黒手前の連中が狩りをしてるんだ。リスティンやサラマンダーだけじゃなく色んな獲物がいる。オルゴルコイはそんな連中にとっては脅威になる」

 

 ローエルさんが話してくれたところによると、どうやらフェルトンの群れに追われて西に紛れ込んで来たらしい。

 フェルトンとオルゴルコイは互いに相手を捕食対象としているようだ。フェルトンの数が少なければオルゴルコイの餌になり、多ければオルゴルコイが捕食されるって事なんだろうな。


「本来ならばずっと東にいる奴だ。俺も狩るのが初めてになる」

「私は聞いたことがあるわ。でも狩りの仕方まではね。シグちゃんと私の育った村は離れていたんでしょうね」

 レビトさんの暮らしていた村にもオルゴルコイの話はあったんだな。

「シグちゃんも詳しくは分からないようでした。それでも、オルゴルコイを狩る時は槍で胴を刺せと……。たぶん、地中に潜れなくするためだと俺には思えるので、レイナスとこんな槍を持ってきたわけです」


 ローレルさんが隣で話を聞いていたネコ族の青年の方に顔を向けると互いに頷いている。俺達と同じような槍を作ろうって事なんだろう。

 都合4本を同時に投げれば、目標が細長くとも1本ぐらいは胴を貫通できるかもしれないな。



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