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私の愛する人は、私ではない人を愛しています。  作者: ハナミズキ
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊の愛し子〜』
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入学式①


ざわざわと周りが騒がしい。



『おい、あの4人どこの家の者だ?初めて見る顔だな』


『お茶会やパーティで見たことないぞ』


『男性のお二人、とても素敵だわ……』



『私は褐色肌の方が逞しくて凛々しくて好みですわ……ああ、クラス同じにならないかしら、お近づきになりたいわ』


『ええ~、私は黒髪の男性かしら。とても綺麗な方ですわ。王子と言われても信じてしまいそうなほどの美形ですわね』



『あの男女は双子なのか?顔がそっくりだな。なんか見覚えのある顔なんだが……』


『女の子2人綺麗だなぁ。背の高い子は女王様っぽいし、背の低い子は妖精みたいだ……あ~、恋人いるのかな?仲良くなりたい』






クラス表の前で周囲のザワつきと共に注目を浴びているのは、やはりヴィオラ達4人だった。



「おおおお兄様……どうしよう、すごい見られている気がするんだけど……」


「うん、見られてるねぇ。既に数人不埒な者を見つけたよ」


「俺もだ」




ヴィオラの事を欲の篭った目で見つめる男共を確認したクリスフォードとノアは、すぐにヴィオラを背に隠して周りの男達を牽制した。


その鋭い眼光に数名の男子生徒が俯き、女子生徒からは恍惚としたため息が漏れ出る。


(自分達と年の変わらない子供達が沢山いる……っ、ていうかむしろ同年代を見るのはカリナ以外は初めてかもしれない、すごいヒソヒソ話されてる……)



コミュ障過ぎてヴィオラがあわあわしていると、クリスフォードが手を繋いできた。すると周りから『キャア!』という悲鳴が聞こえる。



「え⁉︎ 何⁉︎」


「ヴィオ落ち着いて、キョドり過ぎ」


「だ、だって人がいっぱいいる」


「まあ、ウチの領地は田舎だからねぇ。こんな人混み歩いた事なかったね」


「大丈夫ですよヴィオラ様。私達全員同じクラスですから、私がしっかりお守りします」


「ジャ……ジャンヌ……ありがとう」


「俺も守るから、安心しろ」



ノアがヴィオラの頭にポンと手を置くと、またもや悲鳴が上がってヴィオラがビクついた。




「僕らは北校舎みたいだね」


「そうだな」




再びクラス表に目を通すと魔法士科は北校舎になっていた。


この王立学園は南側に正門と事務局、東側に貴族科、西側に騎士科、北側に魔法士科の校舎があり、中心部はイベントホールと庭園が広がっていて、全校生徒が利用できるようになっている。


そして各学生寮は校舎に隣接するように建てられていた。


あまりに広大な土地なので、式典などでイベントホールに集まらない限り、各学科の生徒達が会う事はあまりない。 



クラス発表の掲示板で入学式の座席表と北校舎の案内図を確認したヴィオラ達は、その場を後にしてイベントホール会場に向かった。


広い会場の中、自分達の座席に座るとどよめきが起こる。




『おい、あの席ってオルディアン伯爵家の双子じゃね?』


『おお、あの深窓の令息と令嬢か!俺らの年代で誰も見た事のない謎だらけのレアキャラになってたよな。実物めっちゃ美形じゃんよ、妹超可愛い~』


『確かお兄さんがクリスフォード様で、妹さんがヴィオラ様だったかしら?お二人とも綺麗ね』


『あのエリアに座ってるという事は魔法士科よね?流石オルディアン家の方達ね~』




(またヒソヒソ話されてる、こんなに大勢の人に見られた事ないから落ち着かないわ)



「何だか落ち着かないなぁ。サーカスの見せ物にでもなった気分だよ。とりあえずヴィオラを狙ってそうな男共の顔は覚えたかな」


「俺も覚えた」


「私はクリスフォード様の事を狙っている女狐共までバッチリ覚えましたよ」


「それは頼もしいね。あのクソババアみたいなタイプは近寄りたくもないから後で教えて」


「かしこまりました」


「え?え?なんの話?」




緊張のピークにいるヴィオラを除いた3人で危険人物の特定をしていく。


話について行こうと兄の袖を握ると、一際大きな歓声が上がり、周りの視線が一斉に入り口に向かった。



ヴィオラ達も同じ方向に視線を向けると、5人の青年が会場入りする。



「あれは……第二王子だな」


「そうだね──……それから……」


「お兄様……お兄様……っ」


「分かってるよヴィオ」




自分の袖を掴む手が震えている事に気付き、クリスフォードはその上から落ち着かせるように自分の手を重ねた。


ヴィオラの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。



入場してきたその5人の中に、会いたく会いたくて仕方なかった人物がいた。




「────ルカ」



それは本当に小さな呟きだった。


歓声の中に掻き消される程の小さな呟きだったにも関わらず、ヴィオラの声に反応したかのようにルカディオの視線がヴィオラを捉える。



そして目を見張り、一瞬2人の時が止まったように感じた。


ヴィオラがもう一度ルカディオの名前を呼ぼうとしたその瞬間、ルカディオの視線が鋭いものに変わり、ヴィオラの心を突き刺した。



それは、明確な拒絶だった。




「ヴィオ……」


「…………」




衝撃で、兄の声は聴こえていない。

硬直したままヴィオラの表情から血の気が引いていく。



ルカディオにあのような敵意の篭った目を向けられたのは初めてだった。



「ルカ……どうして……」




5年ぶりの愛する人との再会は、


ヴィオラの心を深く抉った。

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