焦燥
「お嬢様!?」
「ヴィオラ様!どうされました!?」
邸に戻ると、ノアに横抱きにされて戻ってきたヴィオラにロイドと侍女のカリナは驚愕する。
「転んで足首を捻ってしまったんだ。俺がいながら怪我をさせてしまってすまない。クリスに知らせてくれないか?」
ノアが申し訳なさそうに事情を話すとカリナは頷いて急ぎ足で二階に駆け上がっていった。
「お二人ともサロンで休んでください」
ロイドは2人をサロンへ促すが、そこではたと気づく。
「あれ・・・?そういえば、ルカディオ様はどうされました?お会いになってないんですか?」
ロイドの言葉にヴィオラは固まった。
(え・・・?ルカディオ・・・?え・・・?会うって何?)
ヴィオラの反応にロイドは目を見開く。
「もしかして入れ違いになりましたか?先程突然ルカディオ様が邸を訪ねて来られてヴィオラ様に面会を求められたのです。カリナがクリス様の元にルカディオ様の訪問をお伝えしている間にヴィオラ様の居場所を聞かれまして、お答えしたらそのまま邸を飛び出して行かれたのです」
「うそ・・・ルカが・・・?ルカが来てるの!?」
(会いたい、どこ?どこにいるのルカ!)
「ヴィオラ!」
ノアの制止を振り切って彼の腕の中から飛び出したヴィオラは、皇族に対して不敬な振る舞いだったかもしれないと考える余裕もなく、ただルカディオの姿を求めて走り出そうとした。
だがその瞬間、足首に鋭い痛みが走り、床に倒れてしまう。
「痛・・・っ」
「ヴィオラ!」
「ヴィオ!?どうしたの!?」
ノアが再びヴィオラを抱き起こしているところに、カリナに呼ばれたクリスがサロンにやって来た。
ノアから事情を聞くとクリスはすぐにヴィオラの足首を見た。そして患部を見て痛そうな表情を浮かべる。
そこには時間が経過して腫れ上がった足首が見えた。
「ヴィオ・・・これじゃ痛くて走れないよ。今治癒魔法かけるからじっとしてて」
「でもルカが・・・!」
ヴィオラはとてつもない焦燥感に駆られていた。
ルカディオがヴィオラ達のいる裏手の森に来たのだとしたら、何故遇わなかったのだろう。
あの森に向かう道は一つしかないのに何故───?
「もしかして、さっき感じた強い視線はその婚約者か?感知した時には既に気配が消えたから確認よりヴィオラの治療を優先したんだが───」
ノアの一言にヴィオラの心拍数が上がる。ロイドは何となく事態を察し、気まずそうに眉を下げた。
「何だアイツ、僕がサロンに来るまで待ちきれずにヴィオラを追いかけて行ったのに、どこ行ったんだ?───はい。治療終わったよ。どう?立てそ───・・・ヴィオ!?」
「ヴィオラ!」
クリスフォードの言葉を最後まで聞く事もなくヴィオラは邸を飛び出した。今すぐルカディオに会わなければならない。半年ぶりに会いに来てくれた。でも顔を合わせていない。声をかけられていない。
理由は既に察した。
───あの光景を見られたのだ。ヴィオラがノアに横抱きにされて運ばれているところを。
嫉妬深いルカディオなら絶対に誤解している。ルカディオの性格上、目の前に現れてノアに怒りをぶつけてもおかしくないのに、それをしなかった。
#その理由を知らなければ取り返しがつかない__・__#。
そんな気がしてならなかった。
ただでさえ王都と領地で離れ離れになり、誤解を解こうにも機会がない。手紙も届かない可能性がある。
実際この半年間いくら手紙を書いてもルカディオから返事がなかったのだから、今後も手紙が有効とは思えない。
王太子直々の命令で王都に帰れない以上、この誤解を解くには領地に来ているルカディオを見つけて直接話すしか方法はなかった。
「ルカ!!どこにいるの!?ルカー!!」
邸の裏手を必死に探し回るが、いくら名を呼んでも返ってくる声はない。焦燥感が増して目に涙が滲む。
「会いたいよぉ、ルカ。どこにいるの?」
「ヴィオラ・・・きっともういない。転移魔法の残滓を感じたんだ。王都に帰ったんだと思う」
「転移魔法・・・」
ノアの言葉に絶望し、ヴィオラは膝の力が抜けてその場に崩れそうになったが、既のところでノアに抱き留められる。
ヴィオラはこれから訪れるかもしれない悲劇の予感に顔面蒼白になり、体も小刻みに震え出す。
「ヴィオラ?大丈夫か?どこか痛むのか?」
ノアの声が入ってこない。
───ルカディオを失うかもしれない予感。
その恐怖がヴィオラの胸を酷く切りつけ、平常心を奪った。
そして、その予感は外れていなかった。
「ヴィオ!」
後からヴィオラを追いかけてきたクリスフォードとロイドが駆け寄ってくる。
「・・・お兄様・・・、ルカ・・・ルカ帰っちゃった・・・。会えなかった・・・、違うのに・・・っ、怪我しただけなのに、説明する暇もなく帰っちゃったよぉ」
ずっと会いたいと焦がれていた婚約者がヴィオラに会わず魔法で帰ってしまった。あのルカディオがだ。
今までにない展開にクリスフォードも戸惑いを見せ、泣きじゃくるヴィオラを抱きしめた。
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