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私の愛する人は、私ではない人を愛しています。  作者: ハナミズキ
第四章 〜乙女ゲーム開始直前 / 盲目〜
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意識① side ノア



ノアから見て、ヴィオラはとても不思議な少女だった。



見た目は11歳の幼い少女なのだが、纏う空気が子供のそれではない。


時折見せる仕草や何かを考えている時、そして先を見通す意見を持っており、現在進めている製紙工場の建設や商品開発に励んでいる姿は大人顔負けの仕事ぶりだ。



たまに自分よりも年上なのではないか?と錯覚を起こすことがある。


裏皇家のトップである自分が、ヴィオラの本質を掴めないのだ。マルクに話しても同じ見解だった。



「でも、あの婚約者君と一緒にいる時はいつも真っ赤になって慌てふためいちゃって、そういう時は年相応の女の子って感じですけどね」



ノアは2人の仲睦まじさを思い出して、何となく胸の内がモヤモヤしていた。



「まだ11歳なのに口付けとか早いんじゃねえ?あのエロガキ手が早すぎだろ。エイダン様とクリスにもっと気をつけるように言った方がいいな」


「え?誰目線で言ってんですか?保護者?友人?それとも嫉妬ですか?」


「は?なんで俺が嫉妬すんだよ」


「いや、やたらあの子の貞操を気にしてるなと思って」


「俺らは護衛なんだからお前も気にしろよ。普通に考えて11歳はアウトだろーが」


「まあ、そうですかね…」




今年17歳になったノアも、己の上司とはいえマルクから見たら子供に変わりないのだが、そこにはあえて触れない。


そして基本的に他人に興味がないノアが、ヴィオラの動向に興味を示していることがどれだけ珍しいことなのか、むしろ初めての事ではないか?とマルクとジルを驚愕させている事に、当の本人は気づいていない。








◇◇◇◇



「じゃあ、この辺にアルスの苗木埋めるの手伝ってくれますか?」


「了解」




邸の裏手にある森の中、植物性の紙のサンプルを作成する為に伐採した場所を整え、ノアとヴィオラは2人で苗木を植えていく。



全て植え終わった後に、ヴィオラは手をかざし、体内の魔力回路を開いた。



「そうだ。そのまま手のひらに魔力が集まるようイメージしながら魔力を巡らせるんだ」



ノアはヴィオラが訓練通りに魔法が使えるようサポートする。この数か月でクリスフォードとヴィオラはそれぞれの属性魔法をだいぶ使いこなせるようになってきた。


精霊を召喚できない為、魔力の底上げが出来ず、魔法士であるノア達ほどの魔法は使えないが、11歳の子供の中では間違いなくトップレベルの新米魔法士である。



「ヴィオラなら大丈夫だ」


「はい」



魔力暴走を起さないよう細心の注意を払う。


ブロンズカラーのキラキラした土属性の魔力がヴィオラの体を包み、その輝きを増していく。



「…………」




ノアはその姿に見惚れた。


ウェーブがかったプラチナブロンドのフワフワした髪に白い肌。閉じた瞳は豊かなまつ毛がかかり、影を映している。


スッと通った鼻筋と潤んだピンク色の小さな唇。


儚げなその横顔がキラキラ揺れる土属性の魔力に包まれ、事情を知らない人間がこの姿を見たら森の妖精だと勘違いしても仕方ないくらい、ヴィオラがとても可愛らしい容姿をしている事に、今初めて気づいた。



自分と同じ17歳になる頃にはきっと美しい令嬢になっているだろう。



グロース(成長)




ヴィオラの詠唱と共に、土が光りだし、目の前の苗木達が成長して見上げる程の高さになる。急成長させると質が落ちる為、ある程度の若木まで成長させた後は自然の力に任せる。



若々しい樹木と葉に、ヴィオラは自分の出来栄えに満足しているようだ。かつて、ヴィオラの母が王都の邸の庭園を作る際に使っていたとされる植物の成長促進を促す魔法。


ヴィオラが唯一、母から受け継いだ力だ。




「私にも出来ました!ノア様」




満面の笑みで後ろを振り返り、その喜びをノアに向けた。






初めて向けられたヴィオラの心からの笑顔に、ノアは目を瞠り、息が止まった。



その笑顔が、ヴィオラの纏う空気が、ノアの胸を熱くさせた。




ノアにとってそれは、初めての感情だった。

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