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私の愛する人は、私ではない人を愛しています。  作者: ハナミズキ
第四章 〜乙女ゲーム開始直前 / 盲目〜
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始動


「お兄様!ロイド!出来たよ!」



ヴィオラは1枚の紙を執務机の上に広げ、二人に見せた。

それは和紙に似た白い紙で、ヴィオラの前世の記憶を頼りに作り出した植物性の紙だった。


隣国に行っている間にヴィオラは紙を作るための材料手配をロイドに頼んでいたのだ。



この世界の紙は貴族達が使う羊皮紙が一般的で、とても高価な文具だった。平民たちは薄い板などに書いたりしている。


前世を知っているヴィオラはこれが書きづらくて仕方なかったのだ。処方や診察に使うならもっと書きやすくて安価な紙が良かった。


そこで記憶を頼りにロイドが集めてくれた材料を使って新しい紙を作ってみたのだ。


和紙みたいに網で繊維を取り出して乾燥させるイメージしかなくて、たったそれだけの記憶を頼りに試行錯誤しながら、何とか書きやすい紙を作り出す事に成功した。



「どうかな?試しに何か書いてみて?」



ヴィオラがそう言うとロイドとクリスフォードは二人でサラサラと文字を書き連ねた。


滑らかに滑るペンに二人は驚く。



「すごいよヴィオラ!めちゃくちゃ書きやすい!」


「確かに…多少インクが滲む気がしますが羊皮紙に比べて白く滑らかで書きやすいです。薄いのにしっかりした素材ですね。まさか木から紙ができるなんて知りませんでしたよ」


「インクの滲みが今の課題なの。やっぱり溶かした蝋でコーティングしてみようかな。インクを弾いちゃって書けなくなっちゃうんじゃないかと思って、何もせずに作ってみたの」


「これはこれで味があると思うけどね」


「でもこれ…、実用化できたらすごい事になりそうですけど…、しかも材料はうちの領に腐るほど生えているアルスの木ですよね?材料コストもかなり抑えられますよ」


「アルスの木の苗木ってある?木を伐採し続けたらいつかなくなるでしょ?そしたら薬草の育ちが悪くなる気がするから、環境保全はちゃんとやっておかないとダメだと思うの。だからこれを事業化するならアルスの木の苗木も欲しいな。伐採した所に植樹していかないと」



ヴィオラが今後の事業展開について話すとロイドがこめかみを手で押さえ、唸った。



「本当に11歳ですか?とても子供が話す内容とは思えませんね。さっきから驚かされてばかりです」


「だからヴィオには前世の記憶があるって言ってるじゃん。見た目は子供でも中身は成人してるんだよ」


「そういえばそうでした…。今までは半信半疑でしたけど、こうして新しい技法を目の前で見せられると納得してしまいますね」



「この紙が市場に出せるモノになったら商会と製紙工場を作りたいの。いずれカルテや処方箋の紙に使ったり、加工して薬の包装に使ったりできたらなと思って。これならお父様も許可して援助してもらえるかなと思ったんだけど、どうかな?」


「それはもちろん!当主がごちゃごちゃ言ってきたら私がどれだけこの紙に価値があるのか四六時中説いてやりますよ。私が断言します。この紙はオルディアン領の一大産業になりますよ」



(良かった…目利きの聞くロイドが太鼓判を押してくれるならどうにか実現できそう)



「あと…、これはジル様とノア様に相談しないとできるかわからないけれど、最終的にはこの紙に鑑定の魔法陣を書いて実用可能にしたいと思ってるの。この紙に書いた魔法陣に患者さんの手を置いたら、どこに疾患があるのか紙に詳細が文字で浮かび上がるようにしたい。そしたら誤診が減って助けられる命がいっぱい増えると思うの」



この世界には検査機器が一つもない。


診察も医者のさじ加減で全て決まるので、当然診断結果は医者の経験値によって変わってしまう。残念ながら誤診も多かったりするのだ。


だからせめて、誤診が減るように医者なら誰でも鑑定魔法で診察できるようにしたい。


機械を作れないなら、魔法でなんとかするしかない。



お金持ちの貴族と違って平民は治癒魔法士に治癒してもらうことなんてできない為、せめて正しい診断と、正しい薬の処方ができるよう、ヴィオラはオルディアン領の医療体制の仕組みを変えていきたいと思っていた。



そんな事に考えを巡らせていると、目の前でクリスフォードとロイドが目を見開いて固まっている。



「…?二人ともどうしたの」



ヴィオラが首を傾げると、兄に両腕をガシっと掴まれ、



「すごいよヴィオラ!!天才!!」


「え?」


「なるほど。その為に紙の制作と鑑定魔法の修行をされていたんですか。確かにそれが実用されればものすごく便利ですね。というかこの国の医療に革命すら起きそうですよ!旦那様も飛びつくと思います!」



「そ、そうかな?」


「はい!」


「ヴィオラ!僕もジル様の手伝い頑張るから待ってて!早く医療向け鑑定魔法の魔法陣が完成できるよう、もっと勉強しなきゃな。あ~ワクワクしてきた」




この後、ジルにも鑑定魔法による診察方法の仕組みを話すと、大興奮してまた研究室に引きこもりの日々が始まった。



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