女神の洗礼②
『やっと貴方達と言葉を交わす事ができました。生き延びてくれた事に感謝いたします』
クリスフォードとヴィオラの脳内に直接声が響き、二人は驚いて頭を抱えた。
「クリス!ヴィオラ!」
ノアが二人に近づくがそれを手で制す。
「大丈夫です。今、女神の声が聞こえました。・・・お兄様も聞こえた?」
「ああ、頭の中に直接話しかけられて変な感じだけど・・・」
もう一度水晶に手をかざし、脳内の声に集中する。
『邪神に気づかれてはならないので手短に話します。詳細は光と闇の精霊から聞いていると思いますが、本来加護を与えるはずであった聖女の体に、邪神によって邪な精神を持つ魂を植え付けられてしまいました。そこまで力を回復させていた事に気づかなかった私共の落ち度です。本来ならヴィオラ・・・いえ、ミオ。貴女の魂が聖女の体に宿るはずだったのです』
(前世の私が・・・?)
『聖女とは神の力の依代。世界とは少し外れた存在なのです。異世界より生まれ変わりし貴女の魂は聖女たり得る資質を持っていた。その貴女の心がこの世界の対なる体に宿る事により、聖女が誕生するはずだったのです。しかし魂と対なる器を失い、ミオの魂を消滅させるわけにはいかなかった私は、聖女と同じ時に芽生えた双子に運命を委ねました』
女神の話が進むにつれ、隣にいるクリスフォードの表情がだんだん厳しくなっていく。
怒っているのだろう。完全に兄は巻き込まれただけだ。
兄からどす黒いオーラが滲み出ていて、その変化に後ろにいるノア達は全く話が見えず戸惑っている。
『ヴィオラの体は既に二つの魔力を宿していた為、聖なる力を受け止められませんでした。だからヴィオラに光を、そして双子の兄のクリスフォードに闇の魔力を与えました。そして赤子の魔力判定の時に、精霊の加護を授ける予定だったのです。ですが──』
「偶然にも邪神の力で魔力を封じられていたから干渉が出来なかったということですか」
『そうです。私達神は本来、下界に干渉してはならない。唯一干渉できるのは神の加護を受けた者を通してのみ。その唯一の魔力を封じられてしまった為に、私は貴方達と繋がれなかった』
「そんな事情知りたくもないよ。何で僕らが神の尻拭いしなきゃならないんですか?邪神を消したいならそっちの世界で勝手にやればいいじゃないか。何で人間に迷惑かけるんだよ」
「お兄様!」
「おいクリス!」
とんでもない神への暴言にクリスフォード以外は顔面蒼白になった。
「だって、僕らは運命を託して欲しいなんて頼んでない。加護だって、別に欲しいと思ってない。僕はただ、普通の人生を送りたかった。命の危険もなく暮らして、学園に通って、友達を作って・・・、そんなありふれた毎日をヴィオと過ごしたかっただけだ。それ以上を望んだ事なんかないのに、何が運命だ。何で勝手に僕らを巻き込むんだ!」
クリスフォードは水晶に乗せていたヴィオラの手を握る、
やっと義母の虐待から逃れられた妹。
これからは何も縛られる事はなく、普通の貴族令嬢としての日々を過ごす事が出来たかもしれないのに、今度は勝手に聖女の身代わりにされて大きな試練を与えられようとしている。
何故どいつもこいつも自分達を思いのままに動かそうする奴らばかりなのか。
どうして普通の人生を歩ませてくれないのか。
何故ヴィオラに多くを背負わせようとするのか。
(理不尽だ)
クリスフォードは神にさえも怒りを感じた。
「──お兄様。心配してくれてありがとう」
「ヴィオ・・・」
『クリスフォード・・・貴方の怒りは当然の事です。私に言える事は、神もまた、完璧ではないのです。貴方達に酷な事を望んでいるのは承知しています。その上で、私は貴方達に世界の救済を望みます。貴方達しか邪神を止める手立てがないのです。今この時、私と貴方達は繋がる事が出来た。次は夢の中で会いましょう。夢の中なら邪神の力は及びません。───もう既に、多くの人の人生が狂い始めています。民を救えるのは、貴方達しかいないのです──』
この言葉を最後に女神の気配が消えた。
面白いと思っていただけたら評価&ブックマークをいただけると励みになります(^^)




