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私の愛する人は、私ではない人を愛しています。  作者: ハナミズキ
第四章 〜乙女ゲーム開始直前 / 盲目〜
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消えない傷 sideルカディオ


その日は、朝から低い雲が一面に広がり、今にも雨が降りだしそうな空だった。



早朝のフォルスター侯爵家に女性の悲鳴が聞こえ、邸の者が一斉に一つの部屋に集まる。


そこは女主人であるセレシアの私室だった。



ルカディオも急いで母親の部屋に駆けつけ、目の前に広がる光景を見た瞬間、体を硬直させた。




そこには、床に倒れたセレシアを抱えて泣き叫んでいる父の姿があったのだ。




母の表情は青白く、その瞳は固く閉じていて、唇の色も血の気が引いて白っぽく色が変化しており、口の端から首にかけて吐血した跡が残っている。



一目で死んでいる事がわかった。




父は母の胸元に顔を埋め、「なぜだ・・・っ、セレシア!」と繰り返し嘆いていた。




「母上・・・、どうして───」



数時間前に抱きしめてもらったばかりなのに、今は変わり果てた姿で横たわっている母を見て、ルカディオの顔からも血の気が引いていく。


心臓がバクバクと大きな音を立て、全身の血がすごい勢いで駆け巡っているような感覚になり、頭がクラクラする。



そして母が倒れている近くに、小さな小瓶が落ちているのを見つけた。




『ごめんね、ルカ。弱い私を許して────』




あの時の言葉の意味をルカディオはようやく理解した。




──────母は自死したのだ。







「奥様・・・っ、奥様ぁ!!」



侍女のアメリが両親の側に跪き、母の死を嘆いて涙を流している。



その姿を見て、ルカディオの胸に激しい怒りが湧き起こった。



「・・・・・・ぇに、・・・・・・るな」




全身が怒りで震える。


人を殺したいと思ったのはこれが初めてだった。




「母上に!!触るなー!!!」




ルカディオは全体重をかけて父に体当たりし、母の亡骸を奪い取った。そして近くにいるアメリの事も突き飛ばし、2人と距離を取る。




「ルカ!何をする!一体どういうつもりだ!」



驚いたダミアンは再び妻の亡骸に手を伸ばすが、それをルカディオに思い切り叩き落とされた。



「うるさい!!その汚い手で母上に触るなクソ親父!!」


「な、何を言っている…っ」


「ルカディオ様っ、旦那様になんてことを」


「慣れ慣れしく俺の名を呼ぶなこのアバズレ!!」


「ルカディオ!!さっきからお前は何をしているんだ!」




ルカディオの暴言に怒鳴り返してきた父を、ルカディオは殺気を込めた目で睨み返した。


初めて感じる息子の殺意にダミアンは驚いて息を呑む。




「この人殺し・・・っ、母上はお前らのせいで死んだんだ。父上とそこのアバズレのせいだ!この人殺し!!」



ルカディオの慟哭に、周りにいた使用人たちがざわつく。人殺しと言われた2人は青ざめた顔をして固まっていた。



「坊ちゃま・・・?それはどういうことですか?」



近くにいた家令のデイビットがルカディオに問う。




「父上とそこのアバズレが浮気してたんだよ!」


「何を言っているんだルカディオ!そんな事あるわけないだろ!」



ダミアンは青ざめた顔のまま首を横に振って否定する。

隣のアメリも青ざめたまま体を震わせていた。


 

「嘘つくな!俺と母上は昨日の夜、父上の部屋の前にいたんだよ。お前らそこでヤッてただろうが!!母上は・・・母上は泣いてた。泣いて俺にゴメンて・・・、弱い私を・・・許してって・・・っ」



ルカディオは耐えきれずに嗚咽をもらす。



「俺が・・・っ、俺があの時母上を一人にしなければ・・・っ、ずっと・・・ずっと一緒にいれば良か・・・っ、・・・うああああああああっ、母上ー!!」





もう冷たく、死後硬直が始まった母親の亡骸を強く抱きしめながら、ルカディオは泣き縋った。そして母を救えなかった自分を責めた。


どうしてあの時、『もう寝なさい。子供が夜更かししちゃダメよ』という言葉に素直に頷いてしまったのか。



逆らってでも母の側にいれば良かったと悔やんでも悔やみきれない。




息子と死んだ妻を呆然と見つめるダミアン。


そして先ほどまで青ざめた顔をしていたアメリは、無表情だった。




セレシアの異変に気付いていた周りの使用人達は、その原因が主人であるダミアンだという事実を知り、二人を見る目は冷ややかなものとなった。



ダミアンはこの後、妻の死因が社交界に一気に知れ渡り、窮地に立たされる事となる。



そしてルカディオは、この日の出来事が人格形成に影響が及ぶほど、深い傷となって胸に刻まれた───。


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