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私の愛する人は、私ではない人を愛しています。  作者: ハナミズキ
第四章 〜乙女ゲーム開始直前 / 盲目〜
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堕ちる④ side イザベラ



それからイザベラは、二人の幸せの象徴である双子にターゲットを変えた。


2人を確実に引き裂くにはマリーベルだけをターゲットにしてもエイダンの執着が強くなるだけで意味がない。



ならば、あの双子を不貞の末に出来た子供にしてしまえばエイダンも流石にマリーベルに興味を失うのではないだろうか?




不貞の相手にちょうど良い駒がいるのだ。


使わない手はない。




「ねえ、いるんでしょ?」



イザベラが誰もいない部屋で声をかけると、イザベラの影の中から自称神の美しい男が姿を現した。



「お呼びかな?邪悪な魂のお姫様」


「その変な呼び方やめてちょうだい」



男はクスクスと笑い声をあげながらイザベラに歩み寄る。




「で?俺に何の用だ?」


「貴方、神なのよね?だったら赤子の魔力を消してくれないかしら?出来る?」


「本来持って生まれた魔力を消すと言う事は殺すという事だぞ?それなら俺が魔力を吸い取ってやればいいことだが、邪心のない赤子の魔力は苦手でな。かといって魔力を取り上げるのは俺にしか出来ない。さて、どうしたものか。困ったなぁ」



全然困ってなさそうな上に、楽しんでさえいる男にイザベラはイラついた。その様子を感じ取った男は吹きだして更に楽しそうにしている。



「お前本当に性格が悪いな。心の醜さが顔に出ているぞ」


「うるさいわね!魔力を消せるの!?消せないの!?出来ないなら用はないわ!さっさと消えてよ!」



イザベラが男にそう怒鳴った瞬間、離れていたはずの男との距離がゼロになる。



「!?」



気づいたら男に唇を塞がれ、魔力を吸われる。

体から一気に力が抜けて膝から床に崩れ落ちた。



「ふっ、やっぱりお前の魔力は欲に塗れてどこまでも黒くて美味だな。また俺の力が戻った。いいだろう。俺が直接手を下すのは無理だが、手駒を使って魔力を封印してやろう」



イザベラは床に座り込んだまま男を見上げる。封印という聞きなれない言葉に不安を覚えた。



「・・・それは確実なの?魔力判定で絶対に感知されないの?」



男はイザベラの元にしゃがみ込み、思い切りその髪を掴み上げた。ブチブチっと鈍い音が肌の振動で直接耳に伝わる。


痛みでイザベラの顔が酷く歪んだ。




「人間如きが疑うのか?俺は神だぞ?出来ないことなど何もない。願いを叶えてやるんだ。お前は黙って俺に魔力を提供していればいいんだよ」




その人外的な美貌の男は冷酷な笑みを浮かべ、イザベラの前で黒い煙となって姿を消す。


神の威圧に触れ、イザベラはガタガタと震えてしばらく床に伏せたまま動けなかった。とんでもない男に目をつけられたと改めて恐怖を感じる。









そしてこの後すぐ、



あの男によってイザベラの希望は叶えられた。











*****************







王宮の地下牢。



赤黒く染まり、ズタズタに裂けた囚人服を身に纏ったイザベラが石畳の上に横たわっている。


逮捕されてから数日間、自身がヴィオラに課した鞭打ちの拷問を休みなく受け、背中は傷が出来ていない所など無いのではないかというほど無数の鞭打ちの跡があり、所々皮膚が避けて血が流れ出ていた。


自分が受けて初めてその痛みを知る。ヴィオラの背中が裂けて血が流れるのを自分は清々した気持ちで見下ろしていた。その自分が今、背中をボロボロにして汚い床に倒れている。なんという皮肉か。



王太子の尋問は容赦がなかった。恐らく彼はイザベラが子供達にしていた虐待の事まで知っているのだろう。


だから拷問方法を鞭打ちにしたのだ。



「性格の悪い男・・・っ」



イザベラはどんなに拷問されても父親と邪神教の事は言わなかった。


魔力判定の偽証も、マリーベルの毒殺も、ペレジウムの毒の精製も、すべて自分とバレットがした事だと供述したが、王太子は信じなかった。



イザベラをしつこく拷問しながら、背後にいる組織を吐けと何度も聞かれた。


北の森の魔物を暴走させた組織についても聞かれたが、イザベラは何の事かわからない。



何も答えないイザベラに容赦なく鞭が振り落とされる。



何度吐けと言われてもイザベラは答えない。()()()()()()のだ。



イザベラはとっくの昔に父に見限られ、王宮魔法士の自白魔法すら効かない程の隠蔽魔法を父にかけられた。


公爵家にずっと出入りしていたあの黒いローブの男達に、イザベラは術をかけられたのだ。あの美しい邪悪な神に分け与えられた神力で。



だから王宮魔法士の魔法も通用しない。



父は最初からイザベラを切り捨てるつもりで魔力判定偽証の尻拭いに手を貸し、ペレジウムの精製に関わらせた。



万が一の時、全ての罪を娘に擦りつける為に。





ギリギリと歯軋りの音が鳴る。


溺愛されていると思っていた自分は結局は父の手駒でしかなかったのだ。




憎い。何もかもが憎い。


イザベラをこんな目に遭わせた奴らの背後にエイダンがいると聞かされた。



自身の罪を暴いて牢にいれる為に、ずっと秘密裏に動いていたのだと。





(愛する人が、私を罪人にした)








『ああ、そうだ。お前とエイダンは正式に婚姻解消になったよ。2人の結婚生活は全てなかった事になった。同意のない婚姻は無効だし、婚姻を強行した方は罪に問われる。残念だが、詐欺罪と脅迫罪も追加だな』


『婚姻無効・・・?じゃあ・・・私はもうエイダン様の妻じゃないの?』



『そうだ。エイダンの妻は後にも先にもマリーベルただ1人だ』



『嘘よ!!嘘!!私は10年も彼の妻だったのよ!あんな女よりずっと長く彼の側にいたのよ!』


『10年も白い結婚だったクセに妻だなんて笑わせるなよ。お前はただエイダンに取り憑いてただけだろうが。エイダンが言ってたぞ?奴にとってはお前は疫病神でしかないらしい』


『・・・や・・・疫病神・・・?』



『ああ。お前に出会わなければエイダンは愛するマリーベルを妻とし、可愛い双子と末永く幸せに暮らせていたのに、お前と言うクズ女が横恋慕したせいでその幸せが壊された。疫病神と思われても仕方ないだろう?来世でも二度と会いたくない程お前が嫌いらしいぞ』




冷酷な笑みを浮かべながら王太子は容赦のない言葉をイザベラに浴びせる。だがこれは嘘でもなんでもなく、本当にエイダンが王太子に言った真実の言葉だった。



それを聞かされたイザベラは打ちのめされ、顔から血の気が引いてそれ以上言葉を紡げなかった。












***************




牢の中に、何処からかネズミの鳴き声がする。



「なんでこんな事に・・・」




いくら考えても、答えは一つしか出てこない。

あの邪悪な男のせいだ。



(嘘つき・・・神に出来ない事なんて何もないって言っていたくせに、あっさり解呪されたじゃないのよ。嘘つき!!)



本当は声を出して思い切り罵りたいのに、神力のせいで父と邪神教に関わる情報はどんな形であれ一切表に出せない。



「悔しい・・・っ、憎い・・・っ、私をこんな目に遭わせた奴らを全員許さないわ。皆死ねばいいのよ・・・っ。私が死んだら、全員呪い殺してやる・・・っ」



イザベラの力のない掠れた声は扉の前の看守には届かない。だがあの男には届いてしまった。イザベラの耳にあの男の笑い声が聞こえる。



「ああ、完全に堕ちたなイザベラ。お前の魂から負の感情が溢れ出ている。長く待った甲斐があった。これで聖女を消す力が手に入りそうだ」


「嘘つき・・・」



イザベラが恨みがましい目で睨みつけると、目の前の美しい男は愉快そうに笑った。



「アンタのせいで私は処刑される事になったわ!何が神よ・・・っ、アンタが魔力封印に失敗したせいでこうなったのよ!?どう責任とってくれるのよ!」


「どうもしないさ。これは俺の望んだ結果だからな」


「は?」


「全ては必然という名の、俺の計画だ。封印は最初から解かれる前提でわざと壊れた術式を使った。思ったよりも大分年数がかかった事に苛つきもしたが、結果良かったかもしれん。お前の邪心がここまで膨れ上がったからな」



「何で・・・何でそんな事を」




男がイザベラに向かって人差し指を向け、指を上に動かすとイザベラの体が浮かび上がる。



そして美しい笑みで告げた。




「お前をどん底に堕とす為だよ。言っただろ。お前は俺の食糧だと。俺の力が満ちるまで、お前はその真っ黒で邪悪な魔力を生産し続けろ」









その日、国で最も高いセキュリティを誇る王宮の中で、死刑囚のイザベラが忽然と姿を消した───。

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