アルベルトの真実 side エイダン
目の前に、10年前に縁を切ったアルベルトがいる。
当然ながら当時の少年っぽさは消え、大人の男へと成長していた。その姿は堂々としているようにも見える。
マリーベルと恋仲だと思っていた相手。
でもレオンハルトから同時期に幻覚草がオルディアン伯爵家で使われた可能性がある事を知らされた。
用意したのはイザベラだろう。
だがイザベラは当時、エイダンとケンウッドが調べる限り邸に接触した形跡はなかった。
だから絶対邸に手引きした奴がいるはずだ。
エイダンは目をすっと細めてアルベルトを見やる。
その視線にアルベルトは逃げる事なく、むしろ挑むようにエイダンの目を見続けた。
「久しぶりだなアルベルト。子爵家に戻ってから勘当されたと聞いて、それ以降行方知れずだったが、帝国にいたのか」
「今は、そうですね。僕はあの後平民に落とされて市井に放り出されました。でも幸いにも、僕には領地運営と商会の経営についての知識があったので、すぐに辺境にある商会で職を得て暮らしてました」
オルディアン家で受けた教育が身の助けになったか。
「ヴィオラ、クリス。ちょっと込み入った話になるからケンウッドの部屋に行っててくれ。ケンウッド、そこに居るんだろ?頼んだぞ」
「承知しました」
「「 ・・・・・・・・・ 」」
アルベルトとエイダンを訝しげに見ている子供達が部屋を出た後、応接セットにテーブルを挟んでアルベルトと向き合う。
エイダンの隣にはレオンハルトが座っている。
侍従に用意してもらったお茶を優雅に飲んでいる姿は未だ貴族然としていて、平民になっても貴族の所作は忘れていないようだった。
「それで?今になって俺の前に現れた理由はなんだ?」
「あれ?レオンハルト様に聞いていませんか?僕が冤罪だったって事。あの双子、魔力持ちだったんですよね?それ以前に、どう見ても兄上の子供じゃないですか。あんなに顔が似てるんですから」
「────それについては・・・・・・申し訳なかったと思っている」
エイダンは、アルベルトに深く頭を下げた。
「・・・・・・そんな軽い謝罪で許されると思ってるんですか?僕は冤罪で貴族籍を失ったんですよ?生きてたのは運が良かっただけだ」
「子供達の事に関して悪かったと思っているのは本当だ。俺がマリーベルの言い分を信じなかったのが悪い。だが、それ以外のことで結局お前は同じ運命を辿っていたと思うぞ」
エイダンは知っている。
例えマリーベルとの逢瀬が幻覚草によるものだったとしても、アルベルトのマリーベルを見る瞳には確かに熱が灯っていた。
浮気を疑ってエイダンを詰める時の目が、義弟ではなく、女を想う男として怒りに震えていたのを知っている。
あの目は、同じ女を愛してた目だ。
そして愛する女の夫であるエイダンに、敵意を向けていた目だ。
エイダンは一切そらさず、アルベルトを見据える。
この考えに間違いはないと思っている。
アルベルトは、マリーベルを愛してた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
2人の間に沈黙が流れる。
そして、最初にその沈黙を破ったのはアルベルトだった。
「────やはり、・・・・兄上には敵いませんね」
そう小さく呟くと、悲しげに眉を下げた。
「兄上が見透かしている通りです。僕は、義姉上を・・・・・・マリーベル様を、───女として愛してました」
「知っている」
「でしょうね。あの頃は僕もまだ子供でしたから、結構バレバレだったと思います。でも、これだけは誓って言いますけど、僕は義姉上と不倫関係だった事は一度もありませんよ」
「・・・・・・・・・」
「本当です。これから再調査するんでしょう?それで分かると思うので、ここで嘘なんかつきませんよ。───どんなに焦がれても、最初から最後まで、僕の片想いで終わりました・・・」
「泣いているマリーベルを抱きしめていたのは?」
「あれは、義姉上がイザベラ様と兄上の逢瀬を見たと言って泣いていたのを慰めただけです。あの時言ってましたよ。裏切られても兄上を愛してるから別れたくない。捨てられたくないと・・・」
「・・・・・・っ」
アルベルトからあの時のマリーベルの気持ちを知らされ、胸が詰まる。
何故、信じてやれなかったのか・・・。
消えない後悔が積み重なっていく。
「・・・・・・好きな人が他の男を想って泣くのは中々心を抉られるものだと、あの時初めて気づきました。───だから・・・兄上が妬ましかった・・・。マリーベル様の心をそこまで乱す兄上が、憎らしかった」
だからか。
「────だから、イザベラを手引きしたのか」
そう核心をつくと、アルベルトは一瞬肩を揺らし、固まった。アルベルトの瞳から光が消えていく。
そして泣きそうに顔を顰めた。
「あんな事になるなんて思わなかったんだ・・・っ」
俯いて小さく呟いた声は震えていて、
───泣いているようだった。
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