邪神復活
「お前達人間が、私欲の限りを尽くしたせいで、邪神がまた力をつけだした」
「邪神?邪神教の奴らの事か?確かに最近アイツらの動きが目立ち始めて国でも対応に追われているが・・・」
「グレンハーベルが邪神教の国スヴェン王国を制圧したのって20年前ですよね。その時邪神教の本部を叩いたんじゃなかったんですっけ?今は残党がのさばってるだけだと思ってましたけど、どっかに本拠地作ったって事ですか?」
「いや、ノアの方からそんな報告は受けていないが・・・」
闇の精霊クロヴィスがレオンハルト達の会話を聞いて鋭い眼光を向ける。突然の威圧にレオンハルトとジルは硬直し、声帯を絞られているかのように声が全く出せなくなった。
「「・・・・・・・・・・・・!?」」
「お前達は何もわかっていない。そもそも、他国に攻め入る事こそ愚かな行為だと我は言っているのだ。我らに比べれば取るに足らない力しか持ち合わせていない人間の分際で、神の加護によって守られている国を、私欲に塗れ、戦で国を蹂躙するなどもっての外だ!
お前達のような非力な人間など傲慢になることすら許されぬのに、私欲の限りを尽くし、他者を貶め、奪い、殺し合う。そんな奴らに、神はいつまでも加護を与え続けると思っているのか?我らが力を貸すとでも思っているのか?
それこそ傲慢という話だ。我らはむしろ、お前達など勝手に滅べば良いと思っている」
部屋の空気が震えている。
闇の精霊から放たれる覇気が、大人達の身体に容赦なく圧力をかける。
上級精霊が本気で怒っているのだ。本気で人間に失望しているのだ。
彼らを本気で怒らせ、人間を滅ぼすと裁可を下されてしまえば、全精霊が敵に回り世界など一瞬で滅んでしまうだろう。
それくらい彼らには造作もない事なのだと、
今身をもって味わっている。
どうすればいい?
どうすれば建設的な話し合いができる?
そう考えを張り巡らせた時、クロヴィスとディーンの周りを下級精霊達がぐるぐると飛び交って何かを伝えているようだった。
時折2人の顔が険しく歪む。そして最後にはため息を吐いて下級精霊達を撫でていた。
そして今度は光の精霊ディーンがこちらの方に向き合った。
「クロヴィスの言う通り我もお前達など勝手に滅びて構わないと思っているが、我の子供達はその双子を随分と好いているようだ。
だから我らもその子供らには目をかけ、加護を与えるつもりだ。今後その子供達の存在はなるべく邪神に感づかれないようにしなければならない。
邪神復活の折にはその子供達に表に立ってもらわねばならぬゆえ、死なれては困るのでな」
「ヴィオラ達が?どういう事ですか!?」
「え!?邪神復活って!?邪神て実在するの?邪神教の奴らが犯罪組織作る為に作り上げた架空のキャラじゃなくて!?」
エイダンと、やっと喋れるようになったジルが上級精霊を問いただす。あまりにも状況をわかっていない人間達に上級精霊2人はため息をもらした。
「邪神は実在する。200年前にも悪さをして我らと神が奴の力を削ぎ、封印したのだ。その時も奴の被害者は人間だった。
だから我らがお前らを守って邪神を封じてやったというのに、その恩も忘れ、性懲りもなくお前ら人間は邪神に力を与え続けた。
既に6割ほど奴の力が戻っている。このままいけば自分で封印を解いて世に出てくるだろうな。そして今現在、人間共の中に奴に対抗できる者は育っていない。そうなるべき人物に加護を与えるつもりがお前らのせいでそれも出来なくなった」
「それは何故?と聞いても?」
ジルが恐る恐る聞く。
「その者の魂を邪神に汚されたからだ。そして、その力を与えたのはお前たち人間だ」
「邪神教の奴らが復活の為に生贄でも捧げてるとか?」
「違う。人間全てだ。邪神の力の源は邪気。つまり人間の負の感情が奴の餌となる。争いを起こせば起こすほど奴に吸収され、力を得る」
争いが邪神の餌となる───。
つまり、邪神復活の先駆けとなったのはグレンハーベルの侵略戦争と内乱が原因であると精霊は伝えている。
「そんなの今言われても、僕らにどうしようもないじゃないですか・・・、団長、どうするんですかこれ。もういよいよ収拾つかなくなってきましたよ!僕、頭痛くなってきた・・・」
「邪神復活までどれくらいの時間が残ってるんだ?皇帝に話をつけるから教えてくれ」
「そんなものは知らん。お前達にできる事は邪神の餌を減らす事くらいだ。それからそこの子供らの力を育てる事だな」
エイダンは子供達を見つめる。
まだ青白い顔をしており、先程の解呪がどれだけ体に負担をかけたのか、その顔色が物語っている。
今まで自分のせいで辛い環境に置かれていた2人に、神は更なる試練を与えるのか──。
何故ヴィオラ達なんだ。
自分はこの先、どうやって償えばいい。
エイダンは手で顔を覆った。
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