10年前から始まっていた sideエイダン
常に高いテンションで騒がしかった男が、前を見据えてこちらの様子を窺っている。
入国した時から捕縛する気配は一切感じられなかった。どこまでこちらの情報を掴んでいるのかは分からないが、少なくとも今の状況を見るに、敵では無いのだろう。
「捕まえないという事は、俺達に何かやらせたいという事か?」
「察しが良くて助かるね。エイダン達がアイツらと関わりがないのは知ってるから捕まえる気はないよ。奥さんは別だけど、他国の問題だからウチは介入できないしね。ああ、それとお前に会わせたい奴がいるってのもあったかな」
「会わせたい奴?」
「まあそれはまだ本人と連絡ついてないから後でいいや。とりあえず言っときたいのは、今回の双子達の件は全くの想定外だよ。ささっと魔力判定終わらして恩を売ってこっちの要求呑んでもらおうと思ってたんだけど、レアキャラ出現で大分話がそれちゃったよね」
「団長・・・恩を売るとか何暴露しちゃってるんですか。マジで空気読めない人ですね」
ジルが呆れたように上司に苦言を呈す。
「いいんだよ。エイダンはどのみちこっちの要求を飲むしかない。今のところ、これといって冤罪を立証する手立てはないんだろ?」
「・・・っ」
やはり今のオルディアン家の状況を全て知られていた。
隣でケンウッドも警戒心を露わにしている。とりあえず、こちらが冤罪だとわかってくれてるだけでも悪い状況ではないのだろう。
「俺にやらせたい事とはなんだ?」
「まあそんな固くなるなよ。何も取って喰おうってわけじゃないんだからさ!俺は魔法士としてお前に協力を願い出たいだけだよ。お前にとっても好都合な案件だと思うぞ」
「話が見えない。単刀直入に言ってくれ」
「魔道具の制作に力を貸してもらいたい」
「・・・魔道具?」
初めて聞くその単語に頭に疑問符が浮かぶ。
「今魔法士団で捜査に使える魔道具を研究し、制作している」
そういうと、ジルが腰に下げている袋から水晶玉を取り出してローテーブルの上に置いた。
「これは捜査の証拠記録用として作った録画器です。現段階では風魔法で集めた声を録音できる所まで出来ているんですが、僕らはもう一段階上の、映像も残せるようにしたいんです。そこでエイダン様にご協力をお願いしたいんですよ」
「何をすればいいんだ?」
「お前の水属性の魔力をこの魔法陣に流して欲しい。水魔法で水鏡を作り、映像化するんだ。緻密な魔力操作が必要だからエイダンにしか頼めない。それからこの魔法陣はな、知りたい時間の出来事を時を遡って記録する事が出来るんだ」
───は?時を遡る・・・?
「そんな事が現実的に可能なのか?」
「胡散臭いのはわかるが、魔術的には可能とだけ言っておこうか。研究の産物だ。可能かどうか実験しようじゃないか。10年前、オルディアン家で何が起こったのか。お前も真実を知りたくないか?」
「!?・・・お前、何を知っている?」
「帝国によるオルディアン家の調査は10年前にも行われた。ある魔草が隣国に密輸されたとの報告を受けたからだ」
「魔草・・・?」
「その名は『幻覚草』。こちらでは栽培禁止の違法植物の一つだ。戦争や内乱で使用された魔草で、主に紅茶にして用いられた。通常の幻覚作用のある麻薬と違うのは、魔術を使って栽培されてるから相手に見せたい幻覚を見せる事ができる。しかも直接脳に作用させ、記憶として定着させるから摂取した本人には違和感もなく、鑑定魔法以外でいくら調べても使用の形跡を見つけられないのが厄介な代物だ」
レオンハルトの説明にエイダンは固まった。
幻覚草。
見せたい幻覚を相手に見せられる。
使用の形跡が見られないようにできる。
────まさか。
────まさか。
「グレンハーベルでは先の戦争や内乱の際、この幻覚草を敵に使われて複数の隊が内部から瓦解され、潰された。似たような話をお前も身近で知ってるだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
ずっと不可解だったパズルのピースがはまっていく。10年前のオルディアン家に起きた不思議な出来事は、やはり作為的なものだったのだろう。
(イザベラ・・・っ)
脳裏にこの世で最も憎い女の顔が浮かび、激しい怒りが沸き起こる。隣のケンウッドがそれに気づき、慌ててエイダンを止めた。
「エイダンっ、魔力漏れてる!部屋が寒くなってるっ」
エイダンから漏れる魔力により、一気に部屋が真冬並みに寒くなった事に対し、レオンハルトとジルは驚愕した。
相変わらずの高魔力にレオンハルトは苦笑いし、
「それで?魔道具の実験手伝ってくれんの?」
「───ああ。実験場所はオルディアン家の本邸だ」
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