原因は貴方
治療を終えてから再びヴィオラの部屋でクリスフォードとロイド、父と向き合っている。どうやら今後の方針と共に話があるらしい。
「昨日、グレンハーベルの魔法士団長と連絡がついて秘密裏に魔力判定を行えることになった。近日中に隣国から我が国に支援要請が来るので俺は一足先に王都に戻る」
言葉を一度区切り、父はこちらをじっと見つめ、何かを決意したように口を開いた。
「王都に帰る際、イザベラとバレットも連れ帰る。そして離れでしばらく謹慎させる」
「え・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
ヴィオラは父の選択に驚いた。
一体どういう風の吹き回しなのか。クリスフォードの方は黙ったまま父の様子を窺っていた。
「おそらく、隣国に行けるまでに1か月から2か月ほど時間がかかるだろう。王都から新しい医者と使用人を何人か送る。それまでにクリスフォードは出来るだけ体力を増やしておけ。それからヴィオラが言っていた製薬の設備環境についてはロイドに頼んでくれ。その他に必要なことがあれば、クリスフォード。お前の采配で決めていい。出立の準備が出来次第知らせを送るから王都に来てくれ」
オルディアン領はバレンシア王国の南側に位置しており、東のグレンハーベルに入国するには一旦王都まで出向き、整備された道を通って東の国境検問所を通った方が山を越える必要がないので距離的には近い。
それにしても、父が母を王都に連れ帰るという選択をした事に驚いた。あんなに母と自分達を疎んで寄り付かなかった人なのに、この変わりようは何なのか?
離れに母を謹慎させるということは、父が直接虐待の罪で裁くということだろうか?今まですべてを放置していたのに。てっきり今回も使用人に母ごと押し付けて王都に帰るものだとばかり思っていた。魔力判定の偽証が浮き彫りになったことで焦ったとしても、母を側に置くことはしないと思っていた。
(───むしろ、このまま領地に閉じ込めておくと思っていたのに)
「・・・・・・それから、お前達に話さなければならない事がある」
「また自分が楽になりたいだけの自己満足な謝罪なら聞きませんよ。一生そのまま背負って生きて下さい」
「お兄様・・・」
辛辣な物言いに諫めるように声をかけた。ロイドと父の様子を見るに、深刻な話のような気がしたからだ。クリスフォードも何かを感じ取ったのか、口を閉じて聞く体勢を取った。
「・・・・・・今回のことで、イザベラには金輪際お前達に関わる事を禁じた。だから王都に連れ帰り、今後はお前達に会わせるつもりはない」
「そうしてくれるのは有難いですが、一応決断した理由をお聞きしても?」
「──イザベラは・・・・・・・お前達の生みの母親ではない」
「「─────は?」」
2人同時に驚愕の声を上げる。
ヴィオラは衝撃すぎてそれに続く言葉が出てこない。それはクリスフォードも同じだったようで、目を見開いて固まっていた。
(え?お母様は母親じゃない?血が繋がってないってこと?)
「正確にはかろうじて血は繋がっている。イザベラはお前達の叔母だった。お前達の本当の母親はマリーベルという名で、イザベラの異母姉だ。マリーベルは・・・お前達を産んで半年経ったくらいに、体を壊して・・・亡くなった」
「つまり、母上は後妻という事ですか?」
「そうだ」
「え?・・・・・・だって、私いつも・・・・・・、え?」
だったら何故、
『お腹の中にいた頃から苦しめられた』
『アンタがお腹の中でクリスの健康な身体を奪った』
などと恨み辛みをぶつけられたのか。自分達を産んでいないなら全てただの虚言ではないか。
ぶっ、クックックック
ヴィオラが混乱していると突然隣のクリスフォードが噴きだした。
視線をそちらに向けてギョッとする。笑っているのに体を纏っているオーラがどす黒くて、兄がとても怒っているのがわかる。
「何ですかそれ。あの女、自分で腹痛めて産んだわけでもないのに妊娠中の苦しみをヴィオに詰め寄っていたんですか?さも自分が産んだかのような口ぶりだったのに、産んでない?何ですかそれ」
10歳でありながら仮にも母親を『あの女』呼ばわりし、その狂気じみた怒り笑いを披露するクリスフォードに、大人2人は顔を引き攣らせた。
「ああ、でも合点がいきました。あの女の行動の理由が」
クリスフォードはにっこりと満面の笑みをエイダンに向ける。笑顔を向けられているのに、エイダンの背すじに悪寒が走った。
高魔力保持者の中でもトップクラスの魔力量を持つエイダンが、たった10歳の怒気に気圧されている。
「ねえ、父上。ヴィオはね。物心ついた頃からずーっとあの女が機嫌悪くなるたびに『お前がお腹の中でクリスの健康な体を奪った』『お前は疫病神』『お前なんか生まれてこなきゃ良かった』なんて罵られながら叩かれ、時には蹴られ、時には鞭で打たれてきたんですよ。そして僕は、僕のせいで暴力を振るわれる妹の泣く姿をずっと間近で見せられ、自分を良く見せるための道具に使われ、更には毒を盛られる。どれもこれも、僕らがあの女の産んだ子供じゃないから憎くてやったと。そういう認識でいいですか?」
「─────たぶん、そういうことだろう・・・」
クックックッと笑い声を上げながら父を見据えた瞬間、クリスフォードの眼光が鋭くなる。
「違うだろ」
子供の声とは思えない、地を這うような低い声が聞こえた。
その場にいた全員が固まり、息を呑む。
ソファから前に身を乗り出したクリスフォードは、
先程の笑顔から一転、エイダンに憎悪をむき出しにする。
「あの女が狂ったのは、───アンタが原因だろ」
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