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私の愛する人は、私ではない人を愛しています。  作者: ハナミズキ
第二章 〜点と線 / 隠された力〜
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【閑話】男たちの懺悔と考察⑵




しばらく沈黙が流れた後、最初に声を発したのはケンウッドだった。




「一つ聞いていいか?エイダンは2年前に、お嬢様と侯爵家嫡男の婚約手続きの時にお嬢様と顔合わせてるよな?なんでその時に自分の子だって気づかなかったんだ?」


「・・・・・・・・・」



エイダンは体勢を整え、顔を伏せたまま当時の事を話し出す。




「あの時は・・・、手続き前にいろいろあってな。イザベラの行動に辟易してたのもあって拒否反応が出てしまったんだ。だからイザベラの方を一切見ないようにしていた」


「つまり・・・、奥様の近くにいたお嬢様の事も一切見なかったと。そういうことですか?」


「・・・・・・・・・」



執事然とした態度に戻ったロイドが、心底呆れたような視線を当主に向ける。元はと言えば、ここまで拗れたのはエイダンが現実逃避して双子の養育をイザベラに一任したせいだ。


当主が情けないとフォローする側の使用人達の士気が下がるのも致し方ない事ではないのか。


2人揃って大きなため息をつかれ、エイダンは居心地悪そうに再び体勢を正し、更に話を続けた。



「あの時、ヴィオラとフォルスター侯爵家との縁談にイザベラは直前まで反対していた。どう見ても両家にメリットしかない良縁にも関わらずだ」



当時のイザベラの反発は凄いものだった。


毎日のように王宮まで押しかけてきては「破談にしろ」と喚いた。あまりの鬱陶しさに妻の顔を見るのも声を聞くのもイヤになり、婚約手続きの日まで医務室に入る事を禁止したほどだ。




「───もしかして」



エイダンの話を聞いたロイドは一つの仮説に辿り着く。



「何らかの原因で、成長と共にクリスフォード様に魔力の片鱗が見えるようになって、婚約を期に不正発覚を恐れたイザベラ様が焦って領地に逃げて来たって事はないですか?」


「「 ・・・っ!? 」」



ロイドの仮説に2人はハッとなり、頭の中でどんどん推理が展開されていく。



「そうだ!子供達の魔力について俺も不思議だったんだ。普通は魔力判定で女神の祝福を受け、体内の魔素の核が芽吹いて魔力回路が構築される。成長と共に回路を広げていって魔力に慣らしていくのが普通だろう?更に高魔力保持者は回路の成長速度が魔力量に追いつかず、余剰分の魔力が体内で暴れて暴走しやすい。本当に魔力持ちなら2人の年齢的に既に魔力暴走を起こしていてもおかしくはないんだ」



今まで何の対処もしてこなかった2人が、()()()()()()()()()ことが既に不自然だ。




エイダンとロイドの話を聞き、ケンウッドも自分の見解を述べる。


「もしクリスフォード様の体調不良が魔力暴走の前触れだとしたら、お嬢様とフォルスター侯爵家との縁談はそりゃ反対するだろうな。当時ルカディオ様は伯爵家で二人と交流を深めていた。いつクリスフォード様の魔力が侯爵家にバレないか奥様は気が気じゃなかっただろう。隣は王宮騎士団団長の家だからな」



その矛先が、ヴィオラへの憎悪に向くのは想像に難くない。



「騎士団に目をつけられたくなかったから新薬によるクリスフォードの治療を盾に、領地に帰る事を押し通したってわけか。通りで鬼気迫る感じだったわけだ。かなりヒステリックになっていたからな・・・」


「侯爵家ならば虐待については情報は掴んでそうですけどね」


「何も言ってこないと言う事は、家の利益を取ったんだろう」



ただ今後、事の次第によっては婚約破棄もありえる。

これから慎重に、上手く立ち回らないと伯爵家の存続が危うい。



「奥様は・・・、もうアレはダメですね。エイダン様への執着が強すぎて罪を犯し、それを隠すためにまた罪を犯しての繰り返しで精神に異常を来たしているように見えます。まともな思考を持っているとは思えない」


「俺は、当時のエイダンとマリーベル様の仲を裂いたのも奥様だと思っている。当時の邸の状況は不自然な点が多かった。でも不審な点が何も見つからなかったために誰も裁く事ができず、最悪の結果になった」



「奥様が魔力判定を偽証したのは不貞をでっちあげてエイダン様とマリーベル様の仲を壊し、自分が後釜になるつもりだったんでしょう。ホント高魔力保持者の愛憎劇はエグくて毎度ドン引きです。マッケンリー公爵も外務大臣なのだから馬鹿ではないはずなのに、何故娘にそんな浅はかな事させたんだか」



ロイドの考察にケンウッドも後に続く。



「あの狡猾ジジイがそんな愚策取るはずがない。大方、娘が独断でやらかして父親は火消しに回っただけだろう」



「だとしたら、当時の魔力判定を行った司祭は公爵に消されている可能性が高いですね」




またもや「はあ~」と2人に大きなため息を溢され、エイダンは居た堪れなさに顔を上げられない。あの時、自分がもっと冷静に立ち回っていれば未来が変わっていたかもしれないだけに、自分の無能さに悔しさが込み上げる。




「ちなみに、なぜ魔力酔いの症状がクリスフォード様だけに出てるんでしょう?お嬢様は何の症状もないですよね」



ロイドは疑問を投げかけるが、エイダンは首を横に振る。


「それも分からない。とにかく魔力持ちだった場合、2人の今の状態が不自然であることは間違いない」



「奥様とバレットがお嬢様に何かしている可能性も捨てきれないな。例えば、魔力を消す毒とか──」


「新薬の件か。アレは俺も胡散臭いと思っている。バレットに成分表を出せと言ったらのらりくらりと躱された。カルテに記載がなかったし、成分と効能も分からずに処方を決めるなど医者としてあり得ない。結局ロクなモノではないんだろう。クリスフォードには飲むフリだけさせて、保管しとくように言ってくれ」


ロイドにそう指示を出し、エイダンは再び酒を呷る。





「エイダンは今まで魔力暴走を起こした事ないよな?どうやって乗り切ったんだ?」



ケンウッドがふいに問いかけた。


「俺は暴走する前に親が処置してくれたからな」


「その処置をクリスフォード様達にできないのか?それならすぐに治せるだろ」


「ダメだ。2人はまだ魔素の核が芽吹いてないから体内に魔力回路がない。処置というのは遺伝子が近くて同じ属性の人間が行う魔力操作だ。ほとんどは親が行うが、まだクリスフォード達が俺とマリーベルのどちらの属性を引き継いでいるのかわからない。万が一違う属性の魔力を供給したら命に関わるし、それ以前に魔力回路のない体に魔力を流したら暴走を起こす」


「なるほど──。どのみち魔力判定は必須なんだな・・・。で?グレンハーベルの魔法士団長とは連絡ついたのか?」 


「昨夜のうちに魔鳥を飛ばしたから今頃文を受け取ってるんじゃないか?」


「そいつは信用できるのか?この国の人間に情報流されたら伯爵家は終わりだぞ」


「正直、そこまで親しいわけじゃないから分からん」


「「 はあ!? 」」



ロイドとケンウッドが声を揃えて驚愕する。



「おいおい!そんな信頼関係も築けてないヤツなんかに重要機密バラしてんじゃねえよ!裏切ったらどうすんだ!」


「だから証拠の残らない魔鳥飛ばしたんだろ。魔法ではアイツに負けはしないからどうとでもなる」


「そんな軽いノリで大丈夫なんですか!?」



ロイドは疲れたようにガックリと肩を下げた。


高魔力保持者は総じて変わり者が多いのだ。下の者は振り回されて本当に疲れる。もうハゲそうだと頭を押さえた時、窓のガラスがコツコツと音を鳴らした。



「「「 っ! 」」」





シンッと全員静まる。


警戒しながらケンウッドが窓にゆっくりと近づき、カーテンを少し開け、外を確認する。目の前に映るモノを確認したケンウッドは警戒心を解き、窓をあけて一羽の鳥を招き入れた。


クリーム色とスカイブルーの綺麗なグラデーションをした小鳥がエイダンの手のひらに止まり、羽根を広げると空中に光る文字が浮かんだ。







─────────────────



ヤッホー!エイダン久しぶり!


何でそんな事態になってんの。

超ウケるんですけど(笑)


よく分からんけど、面白そうだから

協力してあげてもいいよ!


どんと来い!



チャチャッとそっちの王様に手紙

送っとくね~



バイバ~イ♪

        心の友 レオ君より



─────────────────

         


                 

読み終えると小鳥と共に文字も薄くなって消え去り、再び先程の部屋の風景が広がる。




「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」




エイダンが微笑みながら青筋を浮かべている。


他の2人は悟った。レオ君とやらはエイダンの最も嫌う人種だと。こっちは命に関わる非常事態だというのに緊張感のカケラもない、おちょくった文を送って来れる無神経さ。


きっと水と油のように反りが合わない2人なのだろう。 


それでも頼らざるを得ない状況であるのは仕方ない。例え相手のテンションがエイダンの癇に障るとしても。相手の温情に縋るしかない。



ぽんっとケンウッドはエイダンの肩を叩いた。


「まあ・・・、良かったな。協力してくれるみたいで」


「ああ」



ロイドも反対側の肩をぽんっと叩く。



「殺気が漏れてるよ、エイダン。子供の為に耐えろ」


「・・・ああ」







全てがもう、今更なのだ───。



エイダンがイザベラ達に嵌められた可能性が高いとしても、あの子達にとって自分は()()()()()()()なのだ。それだけのことをした。2人に拒絶されて当然だ。





それでも───。





もう逃げるのは止める。


マリーベルは幸せにしてやれなかった。自分が死なせた。でもせめて彼女が遺した子供達だけは、父親として一生認めてもらえずとも全ての悪意から守りたい。



マリーベルの二の舞にはさせたくない。

例え自己満足だと言われても───。




「ロイド・・・、ケンウッド・・・。頼む。──あの子達を守ってくれ」




情けない声で、幼馴染2人に頭を下げる。






「「 承知しました 」」




有難くて、自分が情けなくて涙が出た。




そして3人はまた酒を酌み交わす。




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◆婚約者の浮気現場を見た悪役令嬢は、逃亡中にジャージを着た魔王に拾われる。

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