【閑話】男たちの懺悔と考察⑴
「エイダン、不敬を承知で言う。前々から見損なってたが、お前仕事以外は本当にクソ野郎だな。尻拭いする俺らの身にもなってくれよ。悪いが俺は一時的じゃなくて、今後ずっとクリスフォード様達につく。当主権限をクリスフォード様に与えるなら王都から領地に人も呼べるしな。もうお前には頼まん」
いつもは執事然とした物腰柔らかい雰囲気のロイドが、エイダンに激しい怒りを向けている。相当鬱憤が溜まっていたらしい。
隣国のグレンハーベルで魔力判定を行うと子供達に告げた日の夜。深夜と呼べる時刻。
眠れないエイダンはまだ起きて仕事をしていた部下2人を部屋に呼び出して酒を酌み交わす。実はエイダンとロイド、ケンウッドは親戚であり、幼少期を共に過ごした幼馴染でもあった。
ロイドとケンウッドは同じ年でエイダンの5歳上だ。
そのため、3人だけの酒の席では弟分であるエイダンに容赦がなく、ケンウッドも溜まりかねて追撃する。
「ホントだよ。奥様だけでも面倒くせぇのに、当主であるお前まで初恋拗らせてヘタレクソ野郎に成り下がって、何度仕事辞めようと思ったかわからん」
『クソ野郎』の他に新たに『ヘタレ』が追加され、流石のエイダンも2人の物言いに堪えて肩を下げ、項垂れた。
「あの2人が俺の子だって、何で教えてくれなかったんだ。お前らだってわかってたんだろ?」
キ───ン、という音が聞こえそうなほど2人の纏う空気が冷たくなった。
「お前・・・ふざけんなよっ!!いい年した大人が甘えた事言ってんじゃねぇぞ!」
怒りを抑えきれず、ロイドはエイダンの胸ぐらを掴み上げ、前後にその体を揺さぶった。
「ずっと領地で馬車馬のように仕事してた俺が王都のゴタゴタ知るわけねぇだろ。お前らだってその事に関して報告してこなかったじゃないか。それ以前に、血が繋がってないから何だっていうんだよ。虐待されても仕方ないってか!?血が繋がってようがなかろうが、オルディアン家に籍を置いている以上あの子達の父親はお前だろうが!親としての責任放棄した事を人のせいにしてんじゃねぇ!!」
「ロイドっ」
ケンウッドがロイドを止めようとするが、その手を振り払われる。
「俺は2年前からずっとこの邸の現状をお前に報告していたはずだよな?使用人の中に公爵家の息のかかった者が複数いるから、オルディアン家の配下の者を領地に寄越せ。親なら子を守れと何度も書いただろうが!俺は仕事を抱えすぎてて手が回らない。2人を守るには味方が少なすぎるんだよ!だからその対策と人員について俺は何度も何度もお前に対応を頼んだはすだ!それをことごとく無視してきたのはお前だろこのクソ野郎が!」
ロイドが胸ぐらを勢いよく突き放したせいで、エイダンが床に倒れた。そのままの体勢で起き上がる様子はなく、身体を震わせている。どうやら泣いているようだ。
「ロイド、それ以上はもうよせ・・・その件については俺も同罪だ。命令がないからと積極的に動かなかった。エイダンが最初の結婚をしてからずっと違和感は感じていたのに、月日が経つうちに伯爵家の内情に嫌気がさして、命令以外の事には我関せずで邸から距離を取っていた。エイダンも王宮に引きこもって邸に寄り付かなかったしな…」
エイダンを睨みつけていたロイドは、ケンウッドにも矛先を向けた。
「そうだな。お前も王都にずっといてイザベラ様の異常性に気づいていたクセに、止めなかった。俺に言われないと動かなかったしな。諜報の仕事うんぬんの前に、伯爵家の子供が死にかかってるのに何で率先して出てこない。お前それでも人の親か。自分さえ良ければいいのか」
ケンウッドにも愛する妻と3人の子供がいる。もし自分の子供がヴィオラ達のような仕打ちを誰かに受ければ、相手を殺しかねないだろう。
それなのに自分達は、目の前で苦しむ幼い子供達を危険に晒し続けた。ロイドの刺さる指摘に2人とも顔を上げられない。調べようと思えば伯爵家の力で調べられたのだ。助けようと思えば助けられたのだ。
でもそれをしなかった。
領地に配属されてから流石のケンウッドもイザベラの日々加熱していく虐待に危機感を覚え、イザベラに与する使用人を調べたり、出入りする人間の調査などを行なっていたが、実際に暴力を働いた時にイザベラの手を止めたりなど、深く踏み込んでの介入はしなかった。それは全てロイドに任せきりにしていた。
自分の仕事は伯爵家の醜聞を消す事。
それが当主の命令。
双子の現状を目の当たりにしてもそう思っていた少し前の自分が恐ろしく感じた。
エイダンに関しては、ロイドからの報告書で現状を把握していたが、その時は不貞の子だと思い込んでいた為、愛情も興味も湧かず、仕事と研究を優先させて対応を後回しにし続けた。
全ては言い訳で、ロイドの言う通り血が繋がっていようがなかろうが許される行動ではない。エイダンは医師である前に伯爵家当主であり、後継である双子を守る義務がある。
ケンウッドは伯爵家に仕えている以上、邸の異変に素早く対応して情報操作を行い、必要とあらば命令が無くとも主の家族を身を挺して守る。それが臣下のあるべき姿なのだ。
そしてロイドは、仕事より何より、双子の安全を優先するべきだった。
全員が選択を誤った結果、
オルディアン伯爵家は危機に瀕している。
逆に言えば、危機に陥らなければ今まで通り双子が犠牲になり続けたという事だ。
その行き着く先は、誰もが想像できるだろう。
あの双子が大人達を見限るのも、
信用できないのも、当然の結果なのだ。
それほどに、双子の受けた傷は深い。
そしてその原因の一端を、
自分達も担っているのだ。
3人の胸の内が、やり切れなさと、後悔で埋め尽くされ、消えたい衝動に駆られる。罪の深さに恐ろしくなる。
今更後悔しても遅い。
許して欲しいと願う資格すらない。
信頼など永遠に得られないだろう。
それでも、
今更でも、
許されずとも、
───────これからは。
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