疑惑
「お兄様のカルテが見たいのだけど、どうすればいい?侍医のバレット様って信用できるのかしら」
「いや。無理だな。一応表向きは父上側の人間だけど、今は違うから安易なことはできない」
今日も夜遅く、皆が寝静まった頃を見計らってヴィオラは兄の部屋を訪ねた。母親に見つからずに計画について話すにはこの時間帯しかないので小声で今後について話し合う。
「今は違うってどういうこと?お父様を裏切ってるの?」
(まさか不正とか横領!?)
「うーん・・・子供のヴィオラに何て言えばいいのか「精神年齢はお兄様より上よ」・・・・・・要するに、バレットは母上の愛人なんだ。だから信用ならない」
(─────は!?愛人!?)
「うんうん。叫ばなくて偉かったね」
「どういうこと、お兄様。お母様はお父様を愛してるんじゃないの?執着するほどに」
「うん、まあ。そこは子供にはわからない複雑な事情があるんじゃないかな。気持ち悪くて微塵も知りたくないけど」
「大人・・・汚い」
「まあ、そこは悲観せずに。あの女が特別汚いだけで、信じるに値する大人もいるよ。ロイドはその1人。護衛の2人も計画には引き入れられなくても騎士道を重んじる誠実な人間だ。それから庭師のケンウッドは表向き庭師だけど、本業は諜報部隊の兵士だよ。伯爵家の醜聞もみ消してるのはケンウッドだ。彼も優秀だから是非仲間に引き入れたいね」
「お兄様、使用人の実情に詳しいのね・・・」
後継者教育を難なくこなしているのは知っていたが、使用人の裏事情まで詳しいとはヴィオラは驚きを隠せない。ずっと病弱でベッドに伏せっているだけだと思っていた事は口に出すまい。
「ヴィオ、今失礼なこと思ったね?これでも僕は伯爵家の次期当主だよ。将来自分に仕える人間を調べるのは当たり前だし、その辺の処世術を学ぶのも勤めなの」
やはり双子に隠し事は通用しないようだ。
「ごめんなさい」
「よろしい。で、カルテだったね。診察に必要なものは全てバレットが管理しているから、正面から見せろと言えば確実に母上に話がいって面倒くさい事になるだろう。こういう仕事はケンウッドが最適だから、やっぱりまずは彼を仲間に引き入れる事だね」
「どうやって説得するの?」
「それは僕とロイドに任せて。僕にある考えがあるんだ。それを話せばケンウッドはこちら側につかざる得ないと思うんだよね」
「ある考えって・・・?」
「うーん・・・出来ればヴィオには話したくないけど、どのみち取り繕ってもバレるから話すしかないか」
軽い口調とは対照的にクリスフォードの表情が暗いものになった事で、深刻な話だと察しがついた。
「まだ疑いの段階で確定ではないんだけど、たぶん僕は毒を盛られている」
ヒュッと喉がなった。
背筋に悪寒が走る。
身体の体温が一気に下がり、
自分でも震えているのがわかる。
「──どうして・・・」
私達が一体何をしたというのか。
母は、毒を盛るほど我が子を憎んでいるのか。
なんで?
「ヴィオ。顔が怖くなってる」
「・・・・・・・・・・・・」
「領地に来てからね、王都にいた時よりも体調が悪いんだ。寝込む時間が増えた。領地で新薬ができたから病が治るかもしれないと言われて王都を出たのに、おかしいよね?だから僕はその新薬は毒だと思っている。領地にいれば製薬工場はすぐ近くだ。表を通さなくても領地夫人の権限で毒を手に入れるのは容易いだろうからね」
「それに関与しているのがバレットなのね」
「たぶんね。父上の元弟子なら薬と毒の知識も詳しいだろうし。バレットによると体調不良は新薬の副作用で、実際は改善に向かっている。の一点張りだ。もし毒だった場合、カルテを改ざんしている可能性も高いだろうからまともな事が書いてあるかも微妙だけどね」
「改ざんの動機もお母様が良妻賢母を演じるため?」
「まだ憶測だけどね。他の理由があるにしても、とにかく今は敵のどんな情報でも欲しいからカルテを確認するのは決定事項。もし僕の予想通りなら父上の失脚の種だ。どのみち次期当主の命が脅かされてるんだからケンウッドは調べざるを得ない。だからロイドと僕でケンウッドを勧誘するよ。という事で今日はお開きだ。安心しておやすみ」
翌日、クリスフォードは早々にケンウッドを仲間に引き入れ、イザベラとバレットが製薬工場の視察に出かけている間にカルテを手に入れた。
そこには、驚くべき情報が書かれていた。
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