聖女との出会い④ side ルカディオ
「だからと言って、今後も同じように勝手な行動を取ることは許さない。正式に騎士になったとしても先輩や上司の命令は絶対だぞ。単独行動は自分だけではなく、仲間の命も危険に晒す。それを忘れるな」
「……はい」
「おい、なんだその不貞腐れた顔は──」
「お話し中、申し訳ありません。団長殿、そろそろ診察をしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、すまない。よろしく頼む」
せっかくのいい気分をいつもの説教で台無しにされて不貞腐れていると、診察をしている老年の医者が小さく笑った。
「そう不機嫌になられますな。貴方の上司は夜も眠れぬほど貴方を心配なさっていたのですよ。部下思いの良い上司に恵まれましたな」
「え……」
「先生、余計なことは言わないでくれ」
レイガルドは医者の後ろで険しい顔のままそっぽを向いている。どうやら照れているらしい。
診察の結果、特に異常は見られなかったが魔力が回復するまで安静を言い渡された。
医者が部屋を出たところで、ルカディオはレイガルドに状況を尋ねる。
「ここはどこなんですか?」
「野営地の麓にある教会だ。保護した子供たちの孤児院と隣接していて、怪我人の治療のために場所を提供してもらった。死人は出ていないが怪我人は多いからな。落ち着くまで世話になることになった」
「そうですか」
話によると、レイガルドたちは複数の食人木の討伐に手こずり、野営地に戻るのが遅くなったらしい。
植物系の魔物は毒持ちが多く、数人が神経を麻痺させる毒にやられて動けなくなったそうだ。
倒れた仲間を守りつつ、毒を警戒しながらも討伐を終えて戻る最中、野営地付近の上空に爆発が起こった。
急ぎ現場に駆けつければ、無数の肉片と血塗れの仲間たち、子供の泣き声が響いているという地獄のような光景だったという。
「本当に、お前が無事で良かったよ。危ない目に合わせてすまなかったな。俺のミスだ。怖かっただろう?」
「……っ」
「別に恥じることはない。俺だって毎回怖いさ。だがそれは悪いことじゃない。怖いもの知らずで突っ込んでいく奴ほど迷惑なものはないからな。恐れを知り、己を鍛え、勝つための戦略を考える。それが強くなる秘訣だ」
「……はい」
「たった十一歳で中級魔法を使い、しかも複数の魔物を討ったんだ。すごい才能だぞ。お前はきっと俺よりも強い騎士になるよ」
再びぐしゃぐしゃと頭を撫でられ、ルカディオは少しだけ口角を上げた。嬉しい気持ちになれたのは、久しぶりかもしれない。
実戦を経て、他者に認められて、霧がかって見えなかった自分の進むべき道の輪郭が、少しだけ見えたような気がした。
本当は怖かった。
逃げ出したかった。
でも逃げたくなかった。
逃げたらきっと、自分は全てを失う。
守ってくれる親もいない。
信じられる人もいない。
一人ぼっちの、空っぽの自分。
それを思い知るのが一番怖かった。
逃げなくて良かったと、ルカディオは心から思う。
自分を守ろうとしてくれた先輩騎士たちが、自分の頭を撫でるこの大きな手が、自分は一人ではないのだと教えてくれている気がして、ルカディオは胸が熱くなった。
(俺は、負けない。絶対に、父上のような男にはならない)
「──ところで、ひとつ聞いていいか?」
「なんですか?」
「リリティアという子がお前の世話をしたいと申し出ている。ずいぶんお前に肩入れしてるようなんだが……大丈夫なのか?」
「世話? 別に俺は怪我してるわけじゃないんで世話なんかいらないですけど……ああ、でも、彼女には一度助けてもらったので、改めてお礼は言いたいです」
「──そうか。密室に二人きりには出来ないから扉は開けておく。何かあったらすぐに知らせるように」
「……? わかりました」
「ルカディオ様!」
レイガルドが部屋を出た後、しばらくしてから食事を乗せたトレイを持ったリリティアが部屋に入ってきた。
「リリティア」
「ルカディオ様……本当に良かった! 爆発の後に外に出たらルカディオ様が倒れていて、何度呼びかけても目を冷まさないから死んじゃったんじゃないかって、怖か……っ」
「……え」
透き通ったグリーンの瞳から涙をポロポロと流すリリティアに、ルカディオは目を見張った。
自分の為に、少女が泣いている。
窓からそよぐ風に淡い桃色の髪が揺れ、白い肌にこぼれ落ちた涙が煌めいて、
それがとても儚く、綺麗で──
ルカディオは少女に見惚れていた。
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