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命の禁断症状?

 トツマの町を出て半日が過ぎた頃、櫻達一行は食事の為に街道の脇に腰を下ろしていた。

「それにしても次の町まで約7日か…随分と離れた場所にあるんだねぇ。」

 倒木を椅子に座るアスティアの膝の上に据え置かれるように抱えられた櫻が呟く。

「そうだね。でも今日一日歩けばこの深い森からは抜けられる筈さ。そうすれば少しは歩くのも苦じゃなくなると思うよ。」

 獲って来たリトの皮を剥ぎながらカタリナが言う。

「ほう、そりゃ朗報だ。森の空気は気持ち良いが、流石にこう木しか見えない景色ばかり続くと飽きて来ちまうからね。」

「ははっ、まぁここは世界で一番深い森と言われてるくらいだしな。」

「へぇ?凄いとは思ったけど、世界一とは…。」

 感心しながら空を(あお)ぐ。延びた木々の枝葉が空を覆い、僅かに差し込む陽の光も気休め程度に周囲を照らすのみだ。肉を焼く為に焚いた火の方が余程周りを照らしてくれる。

「何せ風の精霊、水の精霊、そしてここから東に行った処の西大陸南部の土の精霊の影響力が強いからねぇ。そのせいじゃないかと言われてるし、多分そうなんだろうね。」

「成程?主精霊との距離によって土地の特徴が出る訳か…となると、火の精霊の近くなんかは物凄く暑そうだな…。」

「あぁ。西大陸の事は話にしか聞いた事が無いけど、何でも火を吹く山や一面の砂地なんて場所があるらしいからね。そういうのもあってアタイは東大陸に来た訳だ。」

「ん?って事はカタリナは中央大陸の出なのかい?」

「そうだよ。アタイらライカンスロープ族は中央大陸の結構南側が里だ。一族を生み出したと言われる月の精霊の力が強い処でね。」

(本当に精霊ってのがこの世界の(ことわり)の中心にあるんだね…環境は精霊が管理し、生物は神が管理する…って感じになってるのか。)

「さ、お嬢。焼けたよ。」

 いつの間にやら香ばしく食欲をそそる香りを漂わせ焼き上がったリトの串焼きが、櫻の目の前に差し出される。

「お、ありがとう。」

 礼を言うと串の両端を摘んで受け取り、豪快に中央に(かぶ)り付く。町では主に菜食の櫻も口の中に広がる肉汁に頬が緩む。

「う~ん、久々のボリュームたっぷりの肉だ。焼いただけとは思えない脂の旨みがある。」

「お嬢は町じゃロクに肉を食わないもんなぁ。」

「そりゃ、栄養のバランスってのは重要だからね。アスティアに飲ませる血だって栄養バランスが整ってた方がいいだろう?多分…。」

「ボクはサクラ様の血だったら何も文句なんて言わないと思うけど、気にしててくれてありがとう。」

 アスティアが背後からギュっと抱き締め感謝の頬擦り、更に頬へのキスをする。

「おいおい、肉の脂汚れが付くから気をつけなよ。」

「大丈夫だよ。サクラ様の身体なら全身何処だって舐めてあげる。」

 アスティアの言葉にカタリナの脳内はピンク色の妄想で埋め尽くされた。

「全身って…まぁそれはそれとして、お湯の風呂に入りたい気持ちはあるねぇ。脂汚れはお湯じゃないと綺麗に落ちる気がしないよ。」

「お湯の風呂って、そんなの金持ちじゃなきゃ寒い季節にたまに入る程度だよ?お湯を沸かす手間がかかるし直ぐ冷めるし…お嬢、そんな発想が出て来るなんて本当にどこぞのお嬢様なんじゃないのか。」

 カタリナが妄想から我に返ると呆れたように言った。

「ん…そうなのか?」

(というかお湯の風呂という概念は有るんだな…。だが風呂釜のような発想に至らないのか。単純に薪で沸かす風呂程度ならあたしの知識でも出来そうだが、流石に旅の中では無理だろうなぁ。)

 日本の古い薪で焚く風呂を思い浮かべ、同時に昔を懐かしむ。

「まぁ、きっとその内に誰もが気軽にお湯の風呂に入れるようになるさ。」

 自分が前の世界で生きてきた時代の中での技術の進歩を思い出し、人の便利さへの欲求が生み出す無限の可能性に期待するのだった。


 食事を終え、火の始末をしっかりと済ませると旅を再開する。

 そこからは今までのトラブル続きがまるで嘘のように順調に進み、日が沈む頃には無事予定通りに森を抜ける事が出来た。

 まだ木々が視界の其処此処(そこここ)に在るとは言え、既にその密度は林と言う程度にまで減少し空もよく見える。

「おー、今日は久しぶりに星空を眺められる野宿になるな。」

 空を仰ぐ櫻。その横ではカタリナがテントを立て始め、アスティアは薪になりそうな枝を探しに、ケセランは一足先に食事に林の中へ姿を消していた。

 そんな中で命だけが一人、何やらモジモジと櫻に何かを言いたそうに、立ち尽くしている。

「命、どうかしたのか?」

 櫻は声をかけてハッとする。

(そういえばカタリナも禁断症状が出る前に何か様子がおかしかった…まさか命も禁断症状が出てきて居るのか?だとすると心臓を与えた事で使徒になってしまっているのか…?)

 困惑する櫻。しかし命はその櫻の言葉に躊躇いがちに口を開く。

「あの…ご主人様…私の我儘(わがまま)を聞いて頂けますか…?」

 何やら熱っぽい吐息を感じる。

「どうした?身体に不調を感じるのか?」

「はい…あの…大変申し上げ(にく)いのですが…。」

「よし、待ってろ。今血を飲ませてやる。まずアスティアを呼ばないとな…。」

 周囲を見回しアスティアの姿を探す。そんな櫻の姿に命は

「いえ、血液では無く…その…。」

 まだ何かを躊躇うのか、言葉がなかなか続かない。

「どうした、遠慮なんてせずに言ってみろ。あたしはお前さんの主人だ。あたしをそう呼んでくれる者を邪険にはせん。」

「は、はい。では…少々場所を移して宜しいでしょうか?」

「ん?」

 チラチラとテントを張るカタリナを気にするように視線を動かす命。

「…何か聞かれるのは不都合か?」

 小さく尋ねると、命はコクリと頷き返事として返す。

「分かった。それじゃ少し離れようか。」

 櫻が先導するようにアスティア達が向かった方向とは逆の林の中へ入って行くと、命もその後を小走りに続いた。


「よし…この辺まで来れば話を聞く者も居ないだろう。」

 まだカタリナがテント周りの準備をしている姿は見えるものの、話し声が聞こえる距離は十分に過ぎたであろう木陰だ。

「さ、何が必要なんだ?言ってみな。」

 櫻の言葉に命も意を決して声を搾り出す。

「その。ご主人様の体液を…頂きたいのです…。」

「…はい?」

 唐突な単語に櫻は思わず間の抜けた声で聞き返す。

「体液…と言ったか?それは血じゃないのか?」

「いえ、その…ご主人様から分泌される、粘性のある体液…です。」

 頭を抱えて考え込む櫻。

「済まんが、もう少し具体的に、その理由から何からを正確に伝えてくれないか。」

「はい…その、私は前のご主人様に作られた際に『他者の前では貞淑であれ、主人の前では淫らであれ。』と教えられました。そしてその為に主人の体液を体内に吸収する事を求めるよう身体が出来てしまっているのです…。」

「んん…?つまり、その体液ってのは…。」

「はい、ご主人様の精液です…。」

 命は今までに無い程に頬を染め上げると、両頬に手を添え恥じらう。

「今まで我慢しておりましたが、町から離れ他者の気配が無くなると、どんどん抑えが効かなくなって来てしまいまして…。」

 声に妙な色気が滲み出ている。どうやら発情のような状態になってしまっているらしい。

(あの魔法使いの男…妙なプログラムをしてくれるな!百ぺん粉微塵にしても気が収まらんわ!)

 内心で怒りを燃え上がらせる櫻であったが、既に済んでしまっている事を今更どうこうという事も出来ないと理性で抑える。

「あ~…だけどね、あたしは見ての通り女だ。精液なんて出せないのは解るだろう?」

「はい。ですがご主人様から分泌される体液であれば、汗でも唾液でも、愛液でも構いません。私の中に入れて欲しいのです。」

「愛液って…何でそれだけの選択肢があって血液が入ってないんだ…。」

「前のご主人様が血に対して性的興奮を持つ趣味が無かったからではないかと推測します。」

 再び頭を抱えしゃがみこんでしまう櫻。

(あーもー、何だ?最低限譲歩して唾液を…飲ませるって事か?流石に下の方はマズいだろうしなぁ…。)

 頭の中をぐるぐると倫理観と責任感、そして使命感が巡っては交差する。だがそうしている間にも命の息は荒くなり、身をくねらせる。

「あ~、解ったよ!ちょっとそこに膝を着いてくれないか。」

 櫻は自分の前の地面を指差す。命も一度そこへ視線を落とすと、その指示通りに膝を着き櫻へ視線を戻す。すると丁度櫻と命の目線の高さが近くなった。

 躊躇いがちに櫻が命の傍へ歩み寄ると、その顎にそっと手を添え命の顔を上へ向ける。命の潤んだ瞳が櫻を物欲しそうに見つめると、櫻も思わず心臓が高鳴るのを感じた。

「…いくよ?」

「はい…。」

 短い言葉の後に、櫻の唇が命の唇に覆い被さり、口腔へ舌を()し入れると命の舌がそれを迎え入れるように絡みついた。

「…!?」

 余りに積極的で官能的な舌の絡まりに、全身に鳥肌が立つ程の快感が走った。口の中から聞こえる水音が林の中全体に響くかのように感じる。


 それからどれ程の時間が経ったのか、徐々に命の息は平静を取り戻し始めた。使徒としての禁断症状では無かったものの、結果として定期的に与えられなければ発症してしまうという点に置いては似たような物である事が解る。

「…っはぁ…。」

 唇を離した命が満足気な吐息を漏らした。

「っふぅ…どうだい?症状は治まったか?」

「はい。ご主人様のお陰です。これで多分数日は我慢出来るかと思います。」

「そいつは良かった。まさか野宿の間中これをやるとなると大変だからねぇ…。」

 そう言う櫻の顔は月明かりでも解る程に真っ赤に染まっていた。そんな様子から察した命。

「ご主人様、宜しければ下の体液も私に頂けますか?」

 その言葉を発する唇を舌が(なまめ)かしくペロリと舐めると、月の明かりがその(つや)を際立たせる。

「い、いい!これはあたしが自分で始末するから!」

 バッとスカートを押さえると、流石の櫻も慌ててその場を離れカタリナが用意したテントまで逃げ出した。

「本当はそちらの体液の方が良いのですけど…。」

 残念そうにその後ろ姿を見送った命は、その(あと)を追うように淑やかな歩みで皆の元へと戻るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 普通に下の体液も与えるの方が良かったじゃん!まぁ、詳しい描写は規制されるけど、行為自体を控える理由が無い筈じゃんwww
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