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協力要請

「さてカタリナ、この町にも狩猟ギルド所属の人ってのは居るんだろう?ソイツらに協力を求める事ってのは出来るのかい?」

 櫻が町の入り口まで来てから質問をする。

「うん?いやぁ、どうだろうね?基本的には報酬が無きゃ手を貸してはくれないだろうし、もし協力を求めるならアタイらが依頼人にならないといけないから支払いも考えなきゃならないよ?」

 指で輪っかを作って見せるカタリナ。

「う~む…そうなるとギルドはアテにならんか…それじゃせめて自警団だな。」

 町の入り口、門の傍に立つ番兵を見てカタリナに耳打ちする。

「…一応言ってはみるけど、ゾンビなんて信じてくれるかね?」

 そう言い頭を掻きながらカタリナが番兵に近付くと、夜の間に見た一部始終を話し始めた。門の左右に立っていた二人の番兵の内一人は『とんだ笑い話だ』と聞く耳を持たなかったものの、もう一人はその話に心当たりがあるのか、徐々に顔を青ざめさせ、真剣に耳を貸す。

「アンタ、アタイの話を信じてくれるのかい?」

「あぁ…俺、今までアレは見間違いか勘違いだったんじゃないかと思ってたんだが、あんたの話を聞いて確信したよ。それは本当に居たって。」

 みるみる顔色が青ざめたその番兵の話によると、行方不明者捜索の為に幾度か自警団でも見回りをしていたらしいのだが、その日は夜中の見回りとなった。最中何やら藪がガサガサと音を立てた事に目を向けると、そこにはまるで墓から抜け出して来たかのような、生者とは思えない全裸の男が立っていたという。

「俺はあの時、何かの見間違いかと思って目を(こす)った。すると次にその場を見た時にはもう何も居なくて…だから本当に木の影と見間違えたかと思い込んでいたんだ。でも今聞いた話はあの時見たモノと同じだ。やっぱりアレは居たんだ。」

 番兵の声が震える。

「まぁ、そういう事なら詰所で団長に話を通してやるから、何かあるならそっちに言ってくれないか?」

 未だ信じていないもう一人の番兵が少々面倒そうに言うと、櫻達を詰所まで案内してくれた。


 詰所はギルドの建物に隣接する位置に建てられていたが、ギルドの建物が大きすぎて櫻達は今までその存在に気付いていなかった。

 早速詰所内に案内されると、案内して来た番兵は団長に直接その経緯を話すと再び門番としての職務に戻るべく詰所を出て行った。

「ふむ、それで?動く死体が夜な夜な森の中で旅人を待ち構えているという事だが…その前に一つ聞きたい。お前さん達、妙な薬はやってないだろうな?」

 団長と呼ばれる男は、見るからに力自慢という感じに全身の筋肉が隆々としており、何かの革で作られた鎧らしき物を身に纏っておりながらもその大胸筋が判る程の巨漢であった。

「…一体何を食ってればこんなデカくなるんだい…。」

 櫻が思わずポツリと呟くと、その言葉に団長の目がクワッと開く。

「お嬢ちゃん!俺の身体に惚れたか!?どうだ、素晴らしいだろう!日々の鍛錬と…肉!!それがこの肉体美の秘訣だ!触っていいぞ!?」

 ムンッとポージングを披露する団長。

(この世界にもポージングってあるのか…。)

 意外な部分で元の世界との共通点を見つけて唖然とする櫻。

「あ~、話を戻していいかい?アタイらは別に変な薬もやってなきゃ妙なもんを食ったりもしてない。この筋肉に誓うぜ?」

 カタリナがブカブカの服の下から腕を出し力こぶを作って見せる。するとその筋肉を見た団長は再び目を見開き、カタリナの腕にガッと自身の腕をクロスさせた。

 二人の間に束の間の沈黙が訪れると、

「ふっ、お前達の話、信じよう。」

 団長は笑みを浮かべ椅子に腰掛けた。

「何なんだ?一体…。」

 呆れる櫻に

「筋肉は嘘をつかないのさ!」

 と何故か親指を立てカタリナが嬉しそうに言う。その言葉に団長も無言で頷くのみであった。

「お前さん、いい筋肉だ…どうだい?俺の嫁にならないか?」

「ははっ、残念ながらアタイはこのお嬢に(みさお)を捧げた身だ。男の出る幕は無いね。」

「ほぅ、お嬢ちゃんはそんな歳でもう嫁を二人も(はべ)らせているのか。将来大物間違いなしだな!」

 豪快に笑う団長に、櫻の傍に居るアスティアも満更(まんざら)では無い顔で頬を赤らめていた。

「誤解を招くような事を言うんじゃないよ…それで、本題に入っていいかい?」

 呆れながら櫻がいよいよ詰所まで来た用件について触れる。

 櫻の案はこうだ。

 夜中、ゾンビ達が出て来る時には必ずアジトの入り口が開く。ゾンビが出尽くした処で入れ替わりに櫻達が内部に侵入するが、その後にゾンビ達が戻って来た場合に下手をすると挟み撃ちに()ってしまう。それを避ける為、外に出たゾンビは自警団で抑えて貰いたいというのだ。

「ゾンビ…動く死体は昨夜の様子から恐らく街道沿いの茂みの陰に身を潜めて旅人を待ち構えている筈だ。昨夜見たのは3体だけだったが、あのポイントだけに絞ってるとは思えないから街道沿いに他にも3体単位か、それ以上の数で身を潜めていると思う。」

「ふむ。お嬢ちゃん、それじゃどの辺に居そうかのアテはあるかい?」

 団長は背後の棚から町付近の地図を取り出すと机の上に広げて見せた。その地図には町周辺の街道も次の町まできちんと描かれており、歩いた感じから見ても道の曲がり具合までかなり正確なものだと思われた。

「そうだねぇ…ここと、ここと…。」

 櫻が予想するポイントを指差して行くと、団長は真剣にそのポイントを頭に叩き込むように頷いて見せた。

「まぁこんな処かな?」

「お嬢ちゃん、参考までに、この場所を選んだのは何故だい?」

「まず連中の拠点らしき場所からの移動範囲、それから街道を長く確認出来る場所、そして直ぐに身を隠せる街道の細い部分って処かな。ただ町の北側に不明者が多いとは言っても、南側で不明者が出ていない訳では無いらしいから行動範囲を模索している可能性は否定出来ないがね。」

 その言葉に団長も異論は無いようで無言で頷くと

「よし、まだ完全に信じられはしないが、今晩は自警団総出で街道周辺を探索しよう。」

 と、(りょう)(こぶし)を腰に当て、胸筋(きょうきん)を見せつけるかのように胸を突き出した。

「話が早くて助かるよ。」

「なぁに、部下も見たと言っているし、そこの姉ちゃんの筋肉は信じるに値するからな!」

「その筋肉に対する信頼の高さは何なんだ…。」

 ともあれ団長との約束を取り付け自警団の協力を得られた櫻達。詰所を後にすると町へ繰り出した。


「さて次は…。」

 櫻が町の商店街をきょろきょろと見回す。

「サクラ様、何か買い物?」

「あぁ。ちょっと準備をしようと思ってな。」

 そうして見つけたのは旅道具の店だ。

「何だい?ランタンでも買うのか?明かりは目立つよ?」

 櫻の後に続くカタリナが店内を見回しながら言うと

「いや、それも旅にあれば助かるかもしれんが、今回はコレだ。」

 そう言って櫻が手に取った物、それは革製の水筒だ。

「水筒?それなら何個か手持ちがあるじゃないか。今更買い足す必要も無いと思うんだが…。」

「いや、これには血を入れるつもりだからね。普段使いの水用の水筒を駄目にするのも惜しいから、安くて使い潰せるようなのが欲しいのさ。」

「成程ね。万が一戦闘になった場合に敵を前にして一々お嬢に噛み付いてられないから、手軽に口に出来るように持っていこうって事か。」

「そういう事。ただ一つ不安があるとすれば、あたしから取り出して時間が経った血にちゃんと効果があるかどうかだが、それは流石にその場で試すしか無いだろう。念の為に血を入れるのは出発直前くらいにするつもりだがね。」

 水筒を2つ購入し店を出ると一旦宿に戻り、再び夜に備えて仮眠を取る事とした。


 夕日が町を赤く染める頃に目を覚ますと、軽い食事を済ませ自警団の詰所へ顔を出す。

「お、もう行くのかい?」

 団長が詰所の(はり)にぶら下がり懸垂をしながら櫻達に目を向ける。

「あぁ、少しでも明かりがある内にアジト入り口の(そば)まで行っておきたいからね。それでソッチの準備は出来てるのかい?」

「おぅ。こっちももう少ししたら全員集合の予定だ。昼番の連中にも仮眠を取らせておいたんでね。」

 その言葉に頷き櫻達は詰所を後にする。

「さて…。」

 櫻は辺りをきょろきょろと見回すと、人気(ひとけ)の無い路地を探して入り込み二人に手招きをした。

「どうしたの?サクラ様。」

「ここで水筒に血を入れて行く。森の中では血の匂いで獣が寄って来るかもしれんし、宿の中では(まん)(いち)(こぼ)した時に悪いからね。」

「あぁ、そういう事。」

「それで済まんがアスティア、ここを念入りに舐めてくれんか?」

 そう言って櫻が手首を差し出す。

「うん。いいよ。」

 アスティアは嬉しそうに櫻の手首に唇を当てると、咥えた口の中で舌をチロチロと動かしながら唾液を馴染ませる。するとみるみる櫻の手首の感覚が鈍くなると同時に快感だけは強くなっていくのが感じられる。

(う~ん、身体の何処でも気持ち良くなってしまうのか…ある意味恐ろしい性質だねぇ。)

 そんな事を考えながら、

「よし、そろそろいいよ。ありがとうアスティア。」

 とアスティアの口から手首を離すと、アスティアは少し名残惜しそうに舌を延ばした。

(うん、感覚が鈍い。)

 自分の手首を指で(つつ)き確認すると、おもむろにナイフを取り出しその手首をザックリと切る。結構な深さに切れ目を入れたその手首からはダラダラと血が流れ落ち、慌てて水筒の口を傷口に当てるとみるみるその重さを増して行った。

「お嬢、今更だけどソレ、痛くないのかい?」

 カタリナも流石に引き気味に聞くが

「あぁ、アスティアの唾液の効果で痛みはかなり軽減されてるよ。今も少々ズキズキはしているが、草葉で切った程度の痛みだよ。」

「へぇ…そんなに痛みを抑えられるのか。ヴァンパイアの唾液って凄いんだな。」

 カタリナの感心する声にアスティアも自慢気に胸を張る。

 2つの水筒を一杯にした処で傷口を修復し出血を止めると、二人に1つずつ手渡す。

「よし、それじゃ行くか。」

 櫻の言葉に二人が頷き、いよいよ行方不明者頻発事件の首謀者が潜むと思われるアジトへ向かうのだった。

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