三日月のピアス
-3日後(現在)
腕の中で泣くエリーナを、ビスクは強く抱きしめる。
「ありがとう。戻ってきてくれて、ありがとう!」
「もちろんよ!だってビスクが好きだもの!!」
前王であるビスクの母が2人に近づいてきて、エリーナの肩に手を置いた。
エリーナは振り返り、ビスクから離れて涙を拭いた。
「よく戻ってきましたね。私は大変嬉しく思います。約束通り、これは貴方にあげましょう」
エリーナの髪を分け、右耳に三日月のピアスを付けた。
三日月のピアスはエリーナか想像していたよりも重く、ピアスが揺れると耳がかなり引っ張られた。
これが王族に入ることの責任の重さだと感じ、改めてビスクが王であり、軽い気持ちは初めから無かったが、より一層背筋が伸びる思いになった。
「貴方を王族として迎えます。わかっていると思うけど、王族に入ることは楽じゃないわよ?」
「はい。覚悟してます」
「よろしい。まだ広場に国民が集まっているわ。早速で悪いけど貴方も挨拶していらっしゃい」
「わかりました」
ビスクに手を取られ、2人でバルコニーへ向かった。
「まったく、親子ねぇ。あなた、見てますか?」
涙がこぼれ落ちないように上を向いたが、その甲斐無く目尻を伝って流れ落ちた。
エリーナの緊張をよそに、バルコニーに再びビスクが現れると、歓声が上がった。
こんなに大勢の前に立ったことなどないエリーナは全身の血の気が引いていくようで、先にバルコニーに立っているビスクの背中が遠く見えた。
ビスクが振り返り、手招きをする。
エリーナは前に行こうとしたが、どうにも震えて足が動かなかった。
なかなか動かないエリーナを見て、ビスクが歩み寄る。
エリーナの耳元に口を寄せた。
「大丈夫。僕がいる」
ビスクは再びエリーナの手を取った。
優しい笑顔でエリーナの手を優しく引っ張り、一歩ずつゆっくり歩き始める。
ビスクに合わせてエリーナも一歩ずつ確実に足を出した。
三歩前に出るともう国民たちが集まっているのが見えた。
足が止まりそうになったが、ビスクの手を握り、前に出る足は止めないようにした。
全体が見渡せる場所に立つ頃には足の震えは止まっていた。
わあ、と歓声が上がる。
「あれ、桃の子じゃないかい!?」
「本当だ!帰ってきたのか!」
「あそこに立ってるってことは、王妃様になるんじゃないか!」
「ビスク陛下おめでとーう!!!」
国民からは喜びの声が広がった。
エリーナは国民を見ていく。
「ねぇビスク、あそこにいるの、八百屋のおばさんじゃないかしら!?あの桃をくれた!」
ビスクは目を見開いた。
「エリーナ、ここから見えるのかい!?」
「ええ、見えるわ!街にいた人たちがこんなに!すごく嬉しいわね!」
ビスクはエリーナの見る先を同じように見てみるが、誰がどこにいるかは判別ができなかった。
「エリーナ、すごく目がいいんだね」
「あら、そうかしら?」
「うん。そういえば、もう緊張は大丈夫そうだね」
「確かに。もう震えは無いわ。みんなの顔を見たら嬉しくなっちゃって!」
そう言ってエリーナは大きく手を振った。
それに合わせて歓声が高まる。
エリーナの笑顔を見て、ビスクも嬉しくなった。
「みんな!彼女はエリーナ。人間の国から来た、僕のお嫁さんだ!」
「おめでとー!!!」
ヒューっと何度も口笛が鳴る。
「えっと、私はまだ未熟です。ビスクと一緒にいたくてこの国に来てしまいました。まだ、王妃として何が出来るかわかりませんが、頑張ります。みなさん、よろしくお願いします!!」
「エリーナ様ーー!!」
「かわいいー!!」
エリーナは顔が真っ赤になった。
絵に描くとするなら汗が飛んでいるように描くのがピッタリだ。
「僕らはこの国を導けるように努力する。見守って欲しい!」
ワーッと盛り上がった。
ビスクはエリーナの手を握って引っ張って、自分に寄せ、唇を重ねた。
エリーナは目を見開き、国民からは甲高い悲鳴に近い歓声が上がった。
離れるとエリーナは耳まで真っ赤になっていた。
「よろしくね、エリーナ」
ビスクが笑うと、エリーナはもう頷くしかできなかった。
この人とずっと一緒に暮らせる、という喜びが何より強かった。
国民からは拍手が起き、その拍手はしばらくなり止むことは無かった。




