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ソロ探索者、ダンジョンに潜る  作者: 西校


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55話


 キーンコーンカーンコーン


 甲高いチャイムの音が、六時間目の終わりを告げる。


日直の合図で号令をして、各々帰りの支度を始める。俺も同じように帰りの支度を素早く済ませ、教室から出る。


 生徒が行き来する廊下を歩き、下駄箱に向かう。


 今日のダンジョン探索はどうしようか。そんなことを考えながら角を曲がろうとした時。


 ドン!


 俺に誰かがぶつかって来た。流石に『危機感知』は発動してくれなかったか。


「すみません。大丈夫ですか?」


 ぶつかってしまった相手に謝罪を言いながら、相手の方を向く。



 そこにいたのは、現実にはいないような幻想的な容貌をした女性だった。


 青みかかった長い黒髪に、藤原と同じような人形のような整った容姿。


 中でも特徴的なのは瞳だ。瞳の中に星空があるかのように、彼女の瞳の奥には小さな星々のような光が輝いていた。


 そして、制服を見れば男子の制服を着ている。


 こんな目立つ容姿をしているのに俺が一度も見たことがないということは上級生だろうか? 流石に、入学式にいたら目立つはずだしな。


 そんな彼女が俺のことをジッと見つめてくる。


「あの、大丈夫ですか?」


 一体どうしたんだ? 倒れた拍子に変なところでも打ったか?


「あ、いや、大丈夫だ。怪我はない。こっちこそ、ごめん」


「そうですか。よかったです。それでは、失礼します」


 そう言って、再び下駄箱に足を進めようとすれば。


「ま、待って!」


 後ろから呼び止められる。なんだ? 何か気に障ったか? 別に普通だったよな。そんなことを思いながら振り返る。


「三日前ぐらいに、路地裏で事件を起きてるって警察に通報しなかったか!?」


 三日前? ストーカーの通報をしたやつのことか? だとしたら、なんでコイツが知っているんだ?


 めんどくさそうだし、シラを切るか。


「三日前ですか? 人違いだと思います」


 俺がそう言うと、目の前の女は顔をほころばせる。


「あの時、ストーカーされてたのは俺なんだ! 通報してくれて、ありがとう」


 そう言って、頭を下げてくる。なんだ、コイツ。否定したのに構わずお礼言ってきたぞ。


「あの時……本当に怖くて…………ぐすっ………ヒグっ……」


 今度は、泣き出した!? なんだコイツ、情緒どうなってるんだ。


 というかマズい。このままだと俺が泣かしたみたいじゃないか。幸い、周りに人はいないが人が通るのも時間の問題だろう。ここにいたらマズい。早く移動しよう。


「あの、大丈夫ですか? 落ち着かないようなら、落ち着く場所に移動しませんか?」


「……ヒグっ……急に、泣き出して、ごめん………ぐすっ……わかった、移動しよう」


 ここから近い人が通らない場所なら屋上だな。

 

「とりあえず、屋上に移動しましょう」

 

 階段を登り二人で屋上に移動した。誰にも会わなくて良かった。

 

 適当なベンチに座り、落ち着くまで待っていると先輩であろう女は口を開く。


「ごめんな。急に泣いちゃって」


「いえ」


「まだ名乗ってなかったよな。俺は月城紫苑(つきしろしおん)。一応、高校二年生だから君の先輩ってことになる」


 これ、俺も名乗らないといけない感じか? まあ、名前なんて調べれば簡単にわかるしいいか。というかオレっ娘か。初めて出会うな。


 それに、妙に仕草が男っぽい気がする。気のせいか?


「自分は一年の冬野礼司です」


「良い名前だな。冬野って呼んでも良いか?」


「良いですよ」


 呼ばれ方なんて不快にならなければ、どうでも良いしな。


「じゃあ、冬野。あらためて、ストーカーに襲われそうになった時、通報してくれてありがとな」


「だから、人違いですよ先輩。身に覚えがないです」


「いや、通報してくれたのは冬野だ」


 月城先輩は、そう断言する。顔を見れば自信に満ち溢れている。なんでこんなに確信を持ってるんだ? 不思議に思った俺は先輩に質問する。


「なんで、俺だと確信を持って断言できるんですか?」


「・・・・・・・・声だ。通報した時の声が冬野の声と同じだった」


 今、少しだけ間があったな。怪しいな。何か隠してるのか? 


 それに声なんて、路地裏で反響して正常に聞き取れるだろうか? 声だけでここまで確信を持つことはできないはずだ。


 おそらく、何か別に方法で俺だと確信してるな。


 まあ、どうやったかなんて今はどうでもいい。いや、どうでもよくはないが。考えても答えは出なさそうだしな。


 お礼を受け取るだけで良さそうだし、いっそのこと認めてしまうか。理由は、あの時その場から離れたから、認め辛くてとかで良いだろう。


「すみません。通報したのは俺です。その場から逃げてしまったので言いづらくて」


「・・・・いや。良いんだ。通報してくれただけでも助かった。ありがとう」


「いえ、お礼なんて」


 

 少しの間、二人の間に沈黙が流れる


 

「そうだ! お礼に何か奢らせてくれ! 何がいい?」


「いえ、そんな悪いですよ」


 貰うとしたら、ジュースだな。何処でも買えて安いから遠慮せずにお礼を貰えて、すぐに帰れる。ご飯とかは論外だ。

 

「なんでも良いから、奢られてくれ」


「じゃあ、自販機のジュースでお願いします」


「も、もっと高い物を頼んでもいいんだぞ」


「いえ、ジュースで大丈夫です」


「そ、そうか。わかったよ。何が良い?」


「じゃあ、オレンジジュースをお願いします」


 たまに、無性に飲みたくなるんだよな。オレンジジュース。


「わかった。買ってくるから待っててくれ」


 そう言って先輩は自販機の方に歩いて行った。



 数分後



「お待たせ。はい、オレンジジュース」


「ありがとうございます。いただきます」


 月城先輩からペットボトルを受け取る。月城先輩は元の位置に座って自分用に買った飲み物を飲み始める。


 ここで飲んだ方が良いか。俺もペットボトルの蓋を開けてオレンジジュースを飲む。うん、うまい。


「あの後、ストーカーは無事逮捕されたんだ」


 急に話し始めたな。


「そうですか。よかったです」


「あのストーカーは、二ヶ月ぐらい前に俺に付き纏い始めてさ。なんか一目惚れとかなんとか言い出して」


 これだけ顔が良いのも大変そうだな。


「なあ、俺がなんで男子の制服を着てるのか気にならないか?」


 急に話題が変わったな。


 気になるか、気にならないかで言えば気になるが。この話題をだしたと言うことは聞いて欲しいんだろう。


「少しだけ、気になります」


「少しだけ長くなるからジュースでも飲みがら聞いてくれ」

 

 月城先輩は自分の過去を話し始めた。まあ、ジュースを奢ってもらったし少しだけなら良いだろう。


「俺はさ、半年前まで男だったんだ」


「え?」


 思わず、驚きの声が出てしまう。


「驚くよな。俺も驚いたよ。初めてダンジョンに入った時にこんな体になっちゃってさ。『魔女』ってスキルが俺の体を女に変えたみたいでさ。専門家の人によると身体構造を大きく変えてしまうスキルがあるみたいなんだ」


 初っ端から衝撃の事実をぶっ込んできたな。いや、妙に仕草が男っぽいとは思ってたけどそういうことだったのかよ。


 というか、やばいな。問答無用で所有者の体を女に変えるスキルとか有るのか。最初のスキルが『鑑定』と『影操作』で良かった。


 藤原の持つ『聖女』と同じタイプのスキルなんだろう。・・・・・・・・一応、確認しておくか。


 月城先輩から見えないようにポケットから『椿の愛』を取り出して薬指に嵌める。


 何も起きない。魅了の効果はなさそうだな。


「それでさ、急に女になったモンだから。友達とか家族とかとの関係がギクシャクしてるんだ」


 まあ、知り合いの性別が急に変わったら、どうすればいいかわからなくなるだろう。


「今も母親と喧嘩してて、俺に女物の服とか着せようとしてきたりして俺がキレちゃってさ。あの人、本当は女の子が欲しかったみたいで、俺が女になったから着せ替え人形にしたくなったみたいなんだ」


 月城先輩は、堰を切ったように話し続ける。


「高校で出来た友達との関係も壊れてしまったし、このスキルのせいで俺の日常はめちゃくちゃだ」

 

 なんというか、僅か半年で壮絶な人生歩んできてんな。


 ここまでいくと、普通に呪いのスキルだな。


「今は学校側が特別に別室で勉強することで授業に出席したことにしてくれて、なんとか学校には来れてるんだけど」


「俺が、俺が悪いんだ。もっと上手くしてたら友達とも家族とも今も仲良く出来てたかもしれないのに」



 うーん、かける言葉がない。



「ごめんな。こんな愚痴、最後まで聞いてもらって。自分でも思っていたより落ち込んでたみたいだ。少しだけ楽になったよ」


 話が終われば、ちょうど俺のオレンジジュースはなくなっていた。


「そうですか。少しでも楽になったならよかったです」


「それで、その、冬野にお願いがあるんだが、いいか?」


 お願い? なんだ? とりあえず聞いてみるか。嫌なら断ろう。


「なんですか?」


 俺がそう聞くと先輩は覚悟を決めたような顔をして口を開ける。


「俺と友達になって欲しい!」


 いや、どうして急にそんな話になったんだ? わからないんだが。


「ごめんな。急にこんな話されても混乱するよな」


「そうですね。なんで急に友達になって欲しいだなんて言い出したんですか?」


「冬野なら、俺を男友達として見てくれると思ったからだ」


「先輩を男友達として?」


「ああ、頼む!! 俺と友達になってくれ!!!」


 そう言って、先輩は俺に向かって頭を深く下げてくる。


 話が全く見えてこない。どういうことだ?


 どうするべきだ? 断っても面倒くさそうだな。この勢いだと俺の教室に来ても不思議じゃない。だが、受け入れても面倒くさそうだ。


「えっと、俺じゃないといけないんですか? 先輩なら別に俺じゃ無くても、友達なんていくらでもできますよ」


「頼む。冬野には迷惑かけないようにする」


 先輩は頭を下げたまま動かない。


 ぽたり………………ぽたり……………


 先輩の瞳から流れる涙が地面にが落ちる。


 また、泣き始めた!? この人の精神状態、実はやばいんじゃないか?


 というか、傍から見たらこの絵面、俺が女性に頭を下げさして泣かしてる風に見えないか? そういえば、ここ吹奏楽部が毎日練習で使ってなかったか? 


 くそ、こんなに長引くとは思ってなかったから全く頭に無かった。そろそろ人が来るのか? 


 どうする? 一旦受け入れて、関係の自然消滅を狙うか? ここで断って、教室にでも来られたらものすごい目立つぞ。


「迷ってるなら、お試し期間を作らないか?」


「お試し期間?」


「そうだ。学校でお昼ご飯を一緒に食べないか? 学食が嫌なら、俺が先生に普段貸して貰ってる空き教室で」


 お試し期間ぐらいならいいか。お試し期間が過ぎた後、きっぱり断ろう。そうすれば先輩も納得して諦めるだろう。


「それぐらいだったら」


「ありがとう!! なら、とりあえず明日、新校舎の四階で待ってるな!!!」


 月城先輩は花が咲いたような笑顔を浮かべながら俺にお礼を言う。


「わかりました。では、失礼します」


「ああ! また明日な!!」


 今日のダンジョン探索はやめておこう。無駄に疲れた気がする。


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― 新着の感想 ―
魔法少女とかも居そう
地雷系女難に好かれやすい体質になってない?
さすがの主人公も断り切れなかったか... まあ、断りにくいですよね。 でもいい女よけになってくれそう
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