52話
ダンジョンの探索を終えて、ドロップアイテムを買い取ってもらったついでに職員に遺品の提出について質問する。
「すみません。ダンジョンで見つけた遺品ってどうすればいいですか?」
「遺品についての窓口はあちらにありますよ」
そう言って担当の窓口がある場所を手で示しながら、にこやかに返答してくれる。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。遺品を届けていただき、ありがとうございます!」
答えてくれた職員にお礼を言い、教えてもらった窓口に向かいその職員に話しかける。
「すみません。遺品の提出をしたいんですけど」
「は、はい。い、遺品の提出、誠にありがとうございます。こ、こちらのカウンターに提出をお願いします」
黒髪の女性が吃りながら話す。
俺は指示された通りに遺品の指輪を取り出しカウンターに置く。
「あ、ありがとうございます。お手数ですが、お名前と何階層の何エリアでいつ拾ったのかを教えていただけますか?」
「名前は冬野で、遺品は昨日に四階層の遊郭エリアで拾いました」
「教えていただき、ありがとござます。も、もしかしたら、この遺品の件でご連絡をするかもしれませんが、その時よろしくお願いします」
「わかりました」
「あらためまして、冬野様、遺品を届けてくださり誠にありがとうございました」
深く頭を下げて職員に会釈を返し、ギルドを出た。
数十分後
「グスッ…………えぐっ……ひっく…………」
家の前で見ず知らずの子供が泣いていた。いや、どういう状況?
状況を確認するため泣いている子供を観察する。
おそらく、転んで怪我をしたんだろう。膝を手で抑えている。
「有芽!」
どうしよかと悩んでいると、保護らしき女性が子供に駆け寄ってきた。
ん? 子供に駆け寄る女性をよく見れば、見覚えがある。
黒い長髪にギャルっぽいメイク、ダンジョンツアーで俺が担当したグループにいた黒瀬だ。
そういえば、妹がいると言っていたな。ということは、俺の家の前で泣いている子が妹か。
黒瀬が必死に慰めているが黒瀬妹は、全く泣き止む様子がない。
どうしよう。家の前でなければ、普通に通り過ぎていたんだけどな。
周囲に傷を洗う場所がないかと探している黒瀬と目が合った。
完全にこっちに気がついた様子だ。・・・・・・・・・はぁ。家で治療してさっさと帰すか。
そう思いたった俺は黒瀬に話しかける。
「大丈夫? 黒瀬さん?」
「冬野くん? どうしてここに?」
「あー、俺の家がそこなんだ。まあ、俺のことより妹さんのことを気にした方がいいんじゃない? 良ければ家で簡単な治療ならできるけど」
自分の家を指差しながら言う。断ってくれるなら、そのまま帰れるんだがな。
「え?」
「もちろん、嫌なら良いんだけど」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「そう。じゃあ、付いてきてね」
そう言って、俺は家の玄関に向かって歩く。
「ほら、有芽行くよ」
「ぐすっ……」
黒瀬は、妹を立ち上がらせて手を繋ぎ俺の後をついてくる。玄関まで歩き扉を開けて黒瀬たちを中に招き入れる。
「お、お邪魔します」
「はい、いらっしゃい。あそこが手洗い場だから、傷口を洗ってきてね」
洗面台を指差す。
「ありがと。使わせてもらうね」
黒瀬は、妹を連れて洗面所に歩いて行く。その間に、絆創膏とタオルを用意してタオルは洗面所に持って行く。
「これ、綺麗なタオルだがら良かったら使って」
「ありがと、冬野くん」
黒瀬にタオルを手渡しリビングに戻る。
「こら! 有芽! あばれるな!」
なんか、大変そうだな。
数分後
「ありがとね。洗面台貸してくれて」
黒瀬は、洗面所から歩いてくるや否やお礼を言う。黒瀬妹は人見知りなのか黒瀬の後ろに隠れている。
「気にしないで。それよりこれ、消毒液と絆創膏、遠慮せず使ってね」
「マジで、ありがとう。使わせてもらうね」
黒瀬は、絆創膏と消毒液を受け取り妹の治療を始める。
「よし、出来た。これで、もう大丈夫だよ。有芽」
「ありがとう。お姉ちゃん」
黒瀬は、あっという間に治療を済ませ妹の頭を撫でて、笑顔を浮かべる。
その様子で普段から妹を思っていることが見て取れる。すごく、良い姉のようだ。
これ、お茶か何か出した方が良いのだろうか?
家に招き入れたのに、お茶一つ出さないのは非常識か? 一応、聞いてみるか。
「何か飲む? お茶とかジュースなら、あるけど」
「優しすぎでしょ。色々してもらったのに、さすがに悪いよ」
「お姉ちゃん。私、喉乾いた」
黒瀬妹が、黒瀬の袖を引き俺に聞こえないような小声で言う。しかし、強化された俺の聴覚はその声を拾ってしまう。まあ、転けたぐらいだし走っていたんだろう。
それを言われた、黒瀬は俺と妹の顔を交互に見たり、何かを言いかけてはやめたりとその瞳には「どうしよう」という素直な色が浮かんでいる。
少しして、黒瀬は俺の目をしっかりと見て申し訳なさそうに言う。
「本当にごめんね。冬野くん、一杯だけ頂いてもいい?」
「もちろん、良いよ。何飲む?」
なるべく笑顔を心がけて、問いかける。
「じゃあ、私はお茶で。有芽はジュース?」
「うん」
「黒瀬さんがお茶で、妹さんがジュースね。座って待っててね」
「ごめんね! 頂いたらすぐに帰るから!」
台所に向かって、コップに氷と飲み物を入れる。よし、完成だ。お盆に乗せてリビングに運ぶ。
「お待たせ。黒瀬さんがお茶で妹さんがジュースね」
そう言って、二人の前に飲み物を置く。
「ありがとう。冬野くん」
「ありがとう。お兄さん」
黒瀬妹は俺の目を見て、お礼を言ってくる。ジュースが心を開いたのか?
・・・・・・・・・・・・
リビングには、各々が飲み物を飲む音だけが響き渡る。少し、気まずい。
「そ、そういえば、冬野くん。今日、親御さんは?」
気まずいと思っていたのは黒瀬も同じだったようで、話を切り出してくる。
しかし、親か。俺の親は黒瀬と同じように大災害の日にモンスターに殺された。このことを黒瀬に言うか? まあ、別に俺は言ったところで困らないしな。
「俺の親は居ないんだ。大災害の日にダンジョンの近くにいてさ。今は、この家で一人暮らしをしてるんだ」
「・・・・・・・え?」
お茶を飲んでいた黒瀬の動きが止まる。しかし、少しすれば再び動き出し、申し訳なさそうに俺に言葉をかけてくる。
「その、ごめん。私・・・」
「いや、いいんだよ。もう、整理はついたから大丈夫」
謝罪の言葉を続けようとしていた黒瀬の話を強引に遮る。本当に俺は気にしてないしな。
「そっか。冬野くんはすごいんだね。私はたまに、親のことを思い出して泣いちゃうし。妹のために私がしっかりしないといけないのはわかってるんだけどさ」
「そうかな? 俺より黒瀬さんの方がすごいと思うけど」
実際、すごいと思う。俺と同じ歳で一人で妹の面倒を見ているのは俺には出来ないと思う。
「あはは、ありがと。・・・・・ごめんね!愚痴っぽくなっちゃって!」
そう言って、グビリとコップに入っていたお茶を飲み干す。
「ごちそうさま! コップは私に洗わせてね」
自分がやると言おうと思ったが。自分の使ったコップを異性に洗われるのは嫌かもしれないしやめた。
黒瀬がコップを洗い終わり、玄関に移動する。
「今日は何から何まで、ありがとね、冬野くん。ほら、有芽もお兄さんにお礼言おうね」
「ありがとう! お兄さん!」
「いえいえ、どういたしまして」
「じゃあ、冬野くん。この恩はいつか返すから、何か困った事があったら、なんでも私に言ってね! 力になるから!」
「わかった。困ったことがあったら頼らせてもらうね」
そう言って、黒瀬は玄関の扉を開けて外に出る。
「じゃあ、またね!」
「ばいばい、お兄さん」
黒瀬たちは、手を振りながら歩いて行った。
自分以外が家にいるのは少しだけ新鮮だったな。




