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ソロ探索者、ダンジョンに潜る  作者: 西校


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50/63

50話


 初めて、遊郭エリアを探索した翌日。俺は再び遊郭エリアに向かおうと探索申請をしている。


「探索申請をお願いします」


「了解いたしました。少々お待ちください」


 少しして再び職員に話しかけられる


「ところで、冬野様。近々、探索申請の仕方が大きく変わるのはご存知ですか?」


 え? 全然知らない。変わるの?


「知らないです。変わるんですか?」


「はい。最近、探索者様の人数も増えて来ていらっしゃいますので、それが理由ですね。駅の改札のようになるみたいです。詳しくは、設置される直前ぐらいに分かると思いますので」


「なるほど」


 まあ、便利になる事はいい事だな。手続きが今より早くなりそうだし。


「お待たせしました。探索申請が完了いたしました」


 探索申請を終えて、さっそくダンジョンの門を使い四階層に移動する。


 昨日きたばかりの遊郭の光景が目に入る。


 さっそく、探索を始めよう。


発動:『気配隠蔽』


 スキルを発動してモンスターに見つかりにくくする。


 

 数十分後



 倒れた侍のモンスターにトドメを刺す。


 ふう、これで一体目だ。光の粒子になったモンスターからドロップアイテムを回収する。


 もう少しだけ狩ってから帰ろう。


 そう思い、再び足を動かし始める。



 ♪〜〜



 どこからか、綺麗な笛の音が聞こえてくる。


 一瞬、風の音かと思ったが明らかに違う。その笛の音色は、澄んでいて、痛いほどに美しい。


 普段、音楽など聞かない俺でも分かるほどに、美しく、そしてどこか果物のように甘やかな演奏、誰かを誘うようにその美しい音色は響いている。


 これは、やばい。嫌な予感がする。


 音が聞こえる方向とは逆に方向に早く逃げようと、走り出す。



 ガン!!!



「うっ」


 見えない壁に頭をぶつけ、頭に痛みが走る。


 ああ、俺はこの現象を知っている。一カ月前に戦った知恵の実から逃げようとした時にもこんな壁が俺の逃走を妨げた。


 ということは、この笛を吹いている存在はユニークモンスターだ。


 またか、クソが。これで4体目だ。出会いすぎだろ。何か、呪いにでもかかってるのか? ユニークモンスターを倒すとユニークモンスターと出会いやすくなるとかか?


 ああ、だめだ。今はそんなことどうでもいい。今は、笛を吹いているユニークモンスターにどう対処するかを考えないと。



 ♪〜



 考えている間にも綺麗な演奏は聞こえてくる。


 まずは隠れてユニークモンスターを観察することから始めよう。


発動:『気配隠蔽』


 スキルを発動して、気配を隠す。


 音のする方に隠れながら、近づいて行く。


 近づくにつれて、笛の演奏が大きくなっていく。この路地を出れば笛のユニークモンスターと遭遇するだろう。


 だが、ここから覗くのは少しだけ危ないかもしれない。一応、屋根に登って観察してみよう。


 屋根に登り、ユニークモンスターがいるであろう路地を覗く。


 そこにいたのは、人型のユニークモンスターだった。


 体の構造は見た限り人と変わらないが、頭の部分が椿の花に丸々置き換わっている、椿の花の柄が入った赤い着物を着たモンスターがいた。


 どういう原理で吹いているのか、わからないが花の部分に笛を押し当てて演奏しながら歩いている。


 モンスターであるのに関わらず、その立つ姿にはどこか気品を感じる。


 そして何より、異質なのがそのモンスターを守るように、侍のモンスターが5体ほど囲んでいることだ。


 なんだあれは? ここのモンスターは、群れるなんて情報はどこにもなかったぞ。あのユニークモンスターが操ってるのか?


 とりあえず、『鑑定』だ。

 

発動:『鑑定』


《椿の華。ユニークモンスターの一体。本体に戦闘能力はないが、強力な魅了攻撃を放ち、他の生物に自分を守らせる。奏でる演奏はモンスターを引き寄せる効果を微量ながら持っている》


 魅了か。厄介だ。ということは、周りにいる侍たちは椿の華に魅了されたモンスター達か。しかし、それにしては数が少なくないか? まあ、敵が少ないのは良いことだ。


 近づくのは悪手っぽいな。屋根の上からひたすら、槍で狙撃するか。


 ただ、『影操作』で作るにしてもプラスチックの棒は一本しか持ってない。一本で仕留め切れるか。


 外したら怖いし、一応そこらへんで槍の素材を取ってこよう。



 十分後



 『影操作』で槍を作れるような素材を取ってきた。素材は、そこら辺の家から拝借した。


 さて、やるか。俺は、持ってきた素材の一つを手に持つ。


発動:『影操作』


 いつも通り、影を操り槍を製作する。まずは、一本投げてみるか。槍投げの構えに入る。


発動:『投擲』


 スキルを使い俺の手から放たれた槍は狙い通りに、椿の華に向かって飛んでいく。


 よし! これは絶対に当たった!


 しかし、槍が椿の華に当たる直前、突然風に吹き飛ばされるように軌道が変わる。少しだけ、甘い匂いがしたような気がした。


 は? なんだそれ!?


 風を操る能力か? 鑑定結果には、そんな能力は書いてなかった。魅了の能力の副産物か? いや、今大切なのはあいつに飛び道具の類いは通用しなそうなことだ。全く気にした様子がない。


 そして、攻撃したにも関わらず侍たちは椿の華から離れる様子がない。近付かない限り攻撃されることはなさそうだな。


 ということは、守っている侍のモンスターを遠距離から倒してから椿の華に近付いて倒すのが良いか。流石に、周りの侍にも遠距離攻撃が効かないなんてことはないとだろ。


 そうと決めれば。


発動:『影操作』


 素材の影を纏わせ槍を作り出す。よし、良い出来だ。再び槍投げの姿勢をとる。


発動:『投擲』


 俺の手から放たれた槍は思った通りの軌道を描き、椿の華を囲んでいる中の侍のモンスターの胸に突き刺さる。


 よし!! 


 よかった。こっちは遠距離攻撃は有効なようだ。


 槍の刺さった侍の様子を見てみると、槍が刺さったことなど気にしていないかのように椿の華を守るように突っ立っている。これが魅了の効果か。恐ろしいな。


 まあ、動かないなら好都合だ。これを後四回ほど繰り返せば良いだけだ。


発動:『影操作』


発動:『投擲』


 一回目、胸に命中。致命傷だ。後、3体。


発動:『影操作』


発動:『投擲』


 二回目、また胸に命中。致命傷。あと、2体。


発動:『影操作』


発動:『投擲』


 三回目、肩に命中。致命傷にはならず。もう一度だ。


発動:『影操作』


発動:『投擲』


 四回目、下腹部に命中。致命傷。命中した侍は倒れ伏している。あと、1体。


発動:『影操作』


発動:『投擲』


 五回目、命中しなかった。手元が狂い、地面に刺さった。もう一度だ。


発動:『影操作』


発動:『投擲』


 六回目、思い通りの軌道を描き胸に命中。これで、最後だ。椿の華を守るモンスターはもういない。



「はっ、はっ・・・はぁっ」


 流石に六回連続で槍を全力で投げるのは疲れた。息が切れ、自分の心臓が激しく脈打つのを感じる。


 俺は、カバンからスタミナポーションを取り出して一気に飲む。口の中に少しだけ不思議な味が広がる。今までに体験したことのない味だ。ちょっとだけ甘くて飲みやすい。


 飲んで少しすれば、さっきまで感じていた腕の疲れが軽減された。切れていた息は落ち着き、激しく動いていた心臓は、正常に戻っていった。


 初めてポーションを飲んだが、こんなにすごいんだな。


 よし、体力も回復したし早くあのユニークモンスターを倒そう。時間をかければ、近くのモンスターが寄ってくるかもしれない。


発動:『気配隠蔽』


 音を消して屋根から飛び降り、椿の華の元に走り出す。背後を取っているから気付かれる前に槍でトドメを刺そう。


 あれ、そういえば笛の音が聞こえなくな


発動:『危機感知』


 スキルが発動した感覚と共に身体中を悪寒が走り回る。


 やばい!!!


 そう思った俺はその感覚に従い、横に全力で飛ぶ。


 俺の元いた場所に突風が吹き、少しだけ甘い香りがした。椿の華を見てみると、笛を持っていた手にいつの間にか鮮やかな扇子が握られている。こっちにその扇子を煽いだようだ。


 なんで気付かれたんだ!! 


 椿の華が俺に向かって、再び扇子を仰ぐ。


発動:『危機感知』


 さっきと同じように悪寒が身体中を走り回り、俺も再び横に飛び風を避ける。


 まさかあれが魅了攻撃か? まあ、何にせよあれに当たったらまずいな。まあでも、避けるのは簡単だ。扇子を見ているだけで軌道がわかる。


 再び、椿の華が扇子を振る。しかし、俺のいる場所とは全く違う場所に振っている。


 何が目的だ? 


 不思議に思いながらも椿の華に向かって走り出す。


 何回か、俺に向かって風が飛んでくることがあったが避けながら近づく。


 もう少しだ。後少しで、槍が届く位置までくる。


発動:『危機感知』


 今日何度目かわからない『危機感知』の発動を感じる。しかし、椿の華は俺のいる位置とは真逆の方向を向いている。どこに避けるのが正解だ?


 疑問に持っている俺をお構いなしに椿の華は動き出す。


 は!? それは反則だろ!?


 扇子を持ったまま椿の華は自分の体ごと回転し、全方向に風を起こす。


 まずい!! どうする!! 跳んで避けるか!?


 だめだ!! 間に合わな


 俺に椿の華が起こした風が当たる。その風はどこか甘く、優しかった。



 椿の華の魅了攻撃を受けて、俺の歩みが遅くなる。俺の心の中では、相反する二つの感情が渦巻いている。


 早く、目の前の敵を殺さないと。いやだ! 殺したくない!


 クソ! 最悪な気分だ!! ああ、なんていい気分なんだ!


 やめろ、やめろやめろやめろ!!!


 俺の心を乱すな!! 


 これは、魅了によって植え付けられた感情だ!! そんなことはない、俺は彼女を本当に愛している。


 目の前にいるのは、モンスターだぞ!! 種族の違いなんて些細なことだ。


 塗りつぶされそうな心を奮い立たせ、椿に歩み寄って行く。


 早く、槍が届く位置まで近づかないと。 少しでも、彼女の近くに居たい。


 目の前のモンスターは、俺が近づくのを待っているかのように動かず、俺を見続けている。


 彼女が俺を受け入れてくれている。 違う何かの罠だ!


 ああ、クソ! 罠だとわかっていても行くしかない。早く、アイツを殺さないと!!


 一歩一歩、近づくたびに胸の想いは強くなっている。


 愛してる。 違う! モンスターを愛するなんてありえない!


 愛してる、愛してる、愛してる。 違う違う違うちがうちがうちがう!!


 やっとの想いで、槍が届く位置まで来た。


 早く、倒さないと!! いやだ!! もっと彼女と一緒に!!


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あああぁぁぁ」


 俺は、目の前にいるモンスターに抱いている気持ちを振り払うように、愛する者を手にかけるように叫ぶ。


 目の前に突き出された槍は何の抵抗もなく、彼女の胸に突き刺さった。


「あ、あぁ」


 俺の心に言いようのない悲しみが襲いかかる。


 目から涙が止まらない。視界がぼやけ、大粒の涙が目なら溢れてくる。こんなに泣いたのは、祖父が死んだ時以来だ。


 モンスターに槍を突き刺したまま泣いている俺は側から見たら、さぞ不思議に見えているだろう。


 泣いている俺に槍が胸に突き刺さったままの彼女が手を伸ばしてくる。


 普段なら振り払っているが、今の俺には彼女の手を振り払うことなんてできなかった。


 彼女は、俺の顔に手を添えて涙を拭う。その手は、やけに暖かく優しかった。


 そして、それを最後に彼女の手はだらんと下ろされる。


 椿の花が重力に従い、ぽとりと地面に落ちた。


 少しして、椿の華が光の粒子になり始める。


 俺は正気を取り戻した。


「はっ、はっ、あ、危なかった!! 後少し遅ければ取り込まれていた! 今までで一番の強敵だった!


 思わず、そんな独り言が出る。


 今日はもう終わりにして早く帰ろう。一刻も早く休みたい。


 椿の華のドロップアイテムを回収に向かう。


 これか?


 そこには指輪が三つ落ちていた。この指輪全てが、ドロップアイテムか? 今まで、複数のドロップアイテムが落ちることなんてなかったが。


 その指輪を観察してみると一つは椿の花の意匠が入った指輪で、残りの二つは全く一緒のデザインをした指輪だった。


 鑑定したい所だが、家に帰ってゆっくり鑑定しよう。


 重い体を動かし、俺はギルドに向かって歩き出した。

 

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― 新着の感想 ―
良かった、お爺さんとの関係が良好だった。 ご両親と不仲だったセリフがあったので(二人とも仕事で家にいなくて放置児…とまでは書いてなかったけど想像した) 誰もいない家の中の想定お爺さんに「ただいま」「…
出てくるモンスターが多彩だな
しかし、やたらとユニークモンスターとの遭遇率高いですな。 「最近、ソロで探索してらっしゃる探索者様ばかりが行方不明になっていらっしゃいます。」 って受付の人も言っていたし、主人公がするようにユニークモ…
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