45話
大学生の女性が、コボルトを倒しドロップアイテムを回収する。
「これで、皆さん一人ずつモンスターを倒すことができましたね。これからは、私たちの目が届く範囲なら自由に動き回って貰っても構いません」
「では、森さんに指導をしてもらうことは可能ですか?」
三十代ぐらいの男性、小林さんが手を挙げて質問する。
「ええ、いいですよ。私が教えられることでしたら」
「じゃ、じゃあ!! 私もいいですか?」
小林さんに続くように、村上さんが手を挙げてアピールする。
「じゃあ、僕も!!」
「私も、教わりたいです」
「なら、私も!!」
参加者全員が森さんの指導を受けたいと主張する。
「うーん。指導するのは、いいのですが。流石に5人一気に見るというのは・・・・・・・」
流石に5人一気に教えると言うのは難しいと森さんは頭を悩めせる。
「あの、じゃあ私は冬野くんに教えてもらっていいですか?」
俺!? 不満が無いわけじゃないがこれも仕事の範疇だから教えろと言われれば教えるけど、人に物を教えるほど経験豊富ではないぞ。
おそらく、悩んでいる森さんを見かねて提案したんだろうな。面倒くさいな。
「あ、じゃあ、私も冬野くんに教えてもらいたい」
黒瀬の提案に藤堂が乗っかってくる。二人目!? うわー嫌だな。
そんなことを考えていたら、森さんに手招きをされた呼ばれる。近づくと小声で話しかけられる。
「冬野くん、二人に教えられますか? もし、どうしても無理なら私が頑張って5人一気に教えますけど」
教えられるけど、大変そうだ。それに、藤堂が相手というのもある。クラスメイトが相手だとやりにくそうだしな。
「困ったことがあれば、私が教えますのでやってみませんか?」
悩んでいたのを勘付いたのか、森さんがそんなことを言ってくる。はぁ、これも依頼の範囲内か。森さんもここまで言ってくれているし、頑張ってみるか。
「わかりました。頑張ってみます」
「そうですか! よかったです。無理そうだったら、直ぐにでも言ってください。手助けしますので」
俺への確認がすんだ、森さんは参加者に聞こえるように言う。
「お二人は冬野くんが教えるということになりましたので、残りの皆様は私が担当します。しかし、お互いのグループは離れすぎないようにするので、ご安心ください。では、少しだけ移動しますので付いてきてください」
そう言って、森さんは自分が教える参加者達を引き連れて少しだけ離れた所に移動して行った。
「じゃあ、俺たちはここでやりたいと思います。何か、質問はありますか?」
二人を見れば、フルフルと首を横に振っている。それにしても、男一人か少しだけ気まずいな。
「では、お二人は何が知りたいですか?」
単純に、何を教えればいいか分からない。こういう時は本人達に直接聞いた方ががいいだろう。
「冬野くん、敬語じゃなくていいよ」
そうだった。めんどくせぇな。
「そうだった。ごめんよ。それで、二人は何が知りたいのかな?」
「うーん、私は、何を教えてもらったらいいか分からないからな〜。黒瀬さんだったよね。質問があったら先にいいよ」
そう言った後、藤堂は何を質問しようかと頭を悩ませている。そんな藤堂を他所に黒瀬が質問してくる。
「じゃあ、冬野くんが探索する時に気をつけることって何かな?」
探索している時に気をつけることか。結構、質問の範囲が広いな。
「気をつけることか〜。モンスターと戦う時とかじゃなくて、ダンジョンを歩いてる時のことで合ってるよね?」
「そう」
「だったら、常に身を隠しながら移動することかな」
「隠れながら?」
黒瀬は、答えを疑問に思い首を傾げている。
「モンスターの戦闘って初めに見つけた方が有利なんだよね。奇襲できたり、逃走を選んだりできるから選択肢を増やせるんだ。だから、俺はモンスターに見つからないように隠れて進んでるかな」
「へぇ〜、なるほど」
黒瀬は、俺の答えに納得して頷いている。
「はい! 次は私の質問です!」
「はい、藤堂さん」
学校の先生と生徒のようなやりとりをする。
「パーティーを組んだ時の戦い方について聞かせてください!」
遂に、この質問がきたな。絶対に俺が答えられない質問。まあ、ソロでしか探索したことないからな。
「あ〜、俺はパーティーを組んだことが無いから分からないんだよね。いつもはソロで潜ってるし。どうしても気になるんだったら、後で森さんに聞いてみてね」
「わかった。てか、冬野くんソロで探索してるんだね。パーティーは組まないの?」
「今のところは、組む予定はないかな」
「ふーん。じゃあ、ソロで探索する利点を教えてよ」
ソロで活動する利点か。金が多く貰えるとかか?
「うーん、自分で全て決めれる所かな。その日に探索する場所や時間を他人に合わせず自由に決めれる所かな。あと、少し俗っぽくなるけど、パーティーの人と分けなくていいから、貰えるお金が増えるんだよね」
「へ〜」
「あ、でも、ソロで探索するのは結構危険が多いよ。モンスターに囲まれたりしたら絶体絶命になるからね」
一応、ソロでの危険を教えておかないとな。俺の影響で、ソロで探索して怪我をしたとしても関係ない。
「ね、ねえ、ソロで探索したらいくらぐらい稼げるの?」
今まで、黙って聞いていた黒瀬が唐突に質問してくる。急にお金について質問してきたな。探索の目的はお金稼ぎか? まあ、お金は大事だしな。と言っても、他人に自分の懐事情を話すのもな。
「具体的な金額は断言できないけど、毎日潜っていれば、普通にバイトするより稼げるんじゃないかな」
「そっか、答えてくれてありがとう」
ガサッ
二人の質問に答えていると、何かがこちらに草を踏みながら歩いてくる音がする。音の主人は
「二人とも静かに。モンスターがこっちに来てる」
俺が倒すか? 一応、二人に倒すか聞いた方がいいんだろうか?
「私にやらせて」
俺が考えていると、黒瀬が戦うと立候補してきた。まあ、危なくなったら助ければいいし、ここは任せよう。
「わかった。危なくなったら助けるから」
「うん、その時はお願い」
そう言って、黒瀬は刀を構えながらコボルトに近付いて行く。
先ほどと同じように、落ち着いた構えでコボルトとの距離を詰めて行く。
黒瀬とコボルトとの距離が刀の間合いに入った瞬間。
一閃。
黒瀬の刀はコボルトの急所を完璧に捉え、そのままコボルトの命を刈り取る。
やっぱり、すごいな。素人の動きとは思えない。
「おー。黒瀬さん、すごーい」
藤堂は黒瀬の動きに感心したように、小さく拍手をしている。
「ふぅ」
黒瀬は、上手く倒せて安心したのか大きく息を吐く。刀を鞘に納めドロップアイテムを回収してこちらに歩いてくる。
「ぎゃう!!」
その時、黒瀬の近くの草むらからコボルトが飛び出してくる。
「きゃ!!」
黒瀬が女の子らしい悲鳴を上げて、尻もちをつく。もう一匹、草むらに隠れていたのか。普段から頼りにしている『危機感知』は、他人の危機には反応しない。
俺は、黒瀬に向かって走り出す。
まずいな。死にはしないだろうが、このまま怪我をされたら俺の責任問題だ!!
コボルトと黒瀬の距離はまだある。しかし、槍を投げるのは流石に危ない。黒瀬に当たりでもしたら、大惨事だ。
一度、黒瀬から距離を離してからトドメを刺そう。
レベルアップの恩恵で強化された体は、風を切るような速さで進んで行きコボルトとの距離が一瞬で縮まる。
発動:『強打』
『強打』のスキルを発動させて、槍の柄の部分でコボルトをぶん殴る。
ボキっ、という音がコボルトの体から鳴り吹っ飛んでいく。地面に何度かバウンドしてコボルトの体は止まる。
警戒を緩めずにコボルトに近づいて行くが。どれだけ近づいても、コボルトは全く動く様子がない。
死んでる? あれだけで? 当たりどころが良かったのか?
少しすれば、コボルトは光の粒子に変わりドロップアイテムが出現する。それを回収して、こちらを呆然と見ている黒瀬に近づく。
「大丈夫、黒瀬さん?」
「あ、ありがとう。助けてくれて」
「気にしないで、これも仕事の内だから」
「ううん、それでもありがとう」
こいつ見た目に反して、めちゃくちゃ礼儀正しいな。
「大丈夫、黒瀬さん!!」
こちらに走ってきた、藤堂が黒瀬の安否を心配して騒いでいる。
数分後
「じゃあ、そろそろ質問タイムに戻ろうか? 何か質問はないかな?」
藤堂が落ち着いた所で、再び質問の話に戻る。
「あの、冬野くんは何で探索者になったの? あ! ごめん。言いたくなかったら別に言わなくても良いから!」
藤堂が急に、そんな質問をしてくる。
まあ、ダンジョンに潜る理由ぐらいなら隠す必要もないか。
「自衛のためかな。最近は物騒になってきたし」
「教えてくれてありがとう。冬野くんだけが言うのは不公平だから私も言うね。私は追いつきたい人がいるの。その子は、いつも一緒だったんだけど最近は遠い場所に行ったように感じるの。だから、その子がいる場所まで私が行こうと思って」
なんか急に、自分語りを始めてきたな。名前をぼかしてるけど、あの子って絶対に藤原のことだろ。
「ごめんね、急に自分の事ばっかり言って。そういえば、黒瀬さんは何でダンジョン潜ってるの? 言いたくなかったら全然、言わなくても良いんだけど」
確かに、黒瀬がダンジョンに潜る理由は少し気になる。
「まあ、二人が言ったし私も言うよ。でも、誰にも言わないでよ。それが条件ね」
藤堂と一緒に頷く。
「私の両親は、大災害の日に二人とも死んじゃってさ、家族が私と妹だけになったんだよね」
急に重たい話が始まったな。聞くべきじゃなかった気がするんだが。聞いた藤堂本人は絶句している。そんな本人を他所に黒瀬は話を続ける。
「頼れる親戚もいなくて、今は妹と二人で暮らしてるんだよね。お金は、国の制度を利用してるから問題なく暮らしていけるんだけどね」
確かに、そんな制度があったな。大災害で親が死んで頼れる先が無ければ支援を受けれる制度だった気がする。結構、審査が厳しかったはずだ。
「でも、その支援も必要最低限なんだよね。食費や生活必需品とかを買うので無くなっちゃう。妹の誕生日にプレゼントも買ってあげられないの。学校で流行ってる物も買ってあげられない。私、一人だけなら良いけど妹には我慢をしてほしくない。お姉ちゃんだったら妹に笑顔でいてほしいでしょ」
・・・・・・・・・・思っていたより数十倍、良い話だった。しかし、一つだけ気になったので質問してみる。
「だったら、普通にバイトした方がいいんじゃないかな。こんな命の危険がある仕事よりさ」
「うーん、私も最初はそう考えたんだけど。さっき冬野くんが言ったように、最近物騒になってきたじゃん。だから、妹を守れるように力をつけておかないとって思って」
「なるほどね。ごめんね。余計なお世話だったみたいだったね」
「ううん、心配してくれてありがとう」
そんな会話をしていたら、フリーズしていた藤堂が正気に戻ってきた。
「こんな、重たい話をしてごめんね。誰かに話したかったのかも」
「いやいや! こっちこそ!」
藤堂は何を言えばいいのか分からなくてなっているのか、会話が若干成り立ってない。
「それで、冬野くんに聞きたいんだけどね。お金を効率良く稼ぐオススメの方法ってないかな? 言えたらで良いんだけどね」
お金を稼ぐ方法か。宝箱を狙うとかか? そこまで経験豊富ってわけじゃないからな。まあ、知っていることを言えばいいか。
「宝箱を狙うとかかな。運良く、奇具が出れば大金が手に入るしね」
「宝箱か〜。教えてくれてありがとう。参考にするね」
それからは、色々な話をしながら約束の時間まで過ごした。




