44話
「では、今からダンジョンに入っていきます。ついてきてください」
その言葉を合図に、参加者達がダンジョンの門を潜って行く。俺と森さんもそれに追従する形でダンジョンに入る。
ギルドにある蛍光灯の人工的な光ではなく、自然な太陽の光が俺たちに降り注ぐ。空を見上げれば雲一つない快晴が広がっていた。
暖かい風が吹き頬をくすぐり、草木を揺らす。都会にあるはずのない自然がそこには広がっていた。
その光景に参加者達は、驚愕や感嘆の声を上げる。
「それでは、皆様事前に説明していたステータスの確認をお願いします」
今井さんの指示通り、参加者達はステータスを確認して行く。
「何かしらのスキルを持っている方は、そのスキルを参考にして武器を選んでみるのも良いかもしれません。スキルを持ってない方もレベル5になれば必ず貰えますのでご安心ください」
探索者は、各々何もない空中を凝視している。何か考え事をしている奴もいれば、露骨に落ち込んでいる奴もいる。
少し間を空けて今井さんが話し始める。
「早速ですが、これから皆様にお貸しする武器を決めたいと思います。実物があちらのテントにありますので、移動しましょう」
参加者達と共に広場に設置されているテントに移動する。テントの中には、様々な武器が置かれていた。ざっと見るだけでも、無骨な大剣や槍、薙刀や刀などがある。だが、普通に置いてある鬼の金棒は使える奴はいるんだろうか。
「これらが、今日皆様にお貸しする武器です。私はダンジョンでの探索は門外漢ですので、アドバイスが欲しい方や質問がある方は、こちらの探索者様方にお聞きください。では、しばらく時間を取りますのでお好きな武器をお選びください」
そう言って、こっちに今井さんは目を向ける。おそらく、困っている参加者がいたら手を貸してあげて欲しいと言うことを伝えようとしているんだろう。
参加者達が悩んでいると、一人が俺に近づいてくる。藤原の友達の藤堂が笑顔で近寄ってきた。
「えっと、冬野くんだよね? 悠の後ろの席に座ってる」
「そうだよ」
俺は、警戒しながら対応する。なんで、俺に話しかけてくるんだよ!! 聞きたいことがあるなら森さんに聞けよ。
「やっぱり! 冬野くんって探索者だったんだね。びっくりしたよ!!」
「あまり目立ちたくないからクラスメイトには、内緒にしてるんだ。藤堂さんも内緒にしてね」
釘を刺しておけば、流石のコイツもバラすことないだろう。しかし、コイツの口は軽そうだからな。
「うん、わかった。それにしても、ちょっと不安だったから知り合いがいて少しだけ安心したよ」
「そっか、それはよかった」
「それで早速、質問なんだけどさ冬野くんのおすすめの武器って何かな?」
おすすめの武器か。・・・・・・・やっぱり、槍か。戦いに慣れてない初心者が、一番初めに当たる壁は恐怖だと思っている。その点、その恐怖を打ち消すのに槍は優秀だ。リーチが長く、突き刺すだけで致命傷になるから、扱いやすい。
と言っても、何か武術の経験や持っているスキルで適性の武器は変わるからな。とりあえず、聞いてみるか。
「えっと、藤堂さんは何か武術の経験とかってあるかな?」
「ないよ」
「じゃあ、スキルを持ってたら嫌じゃなければ教えてくれない?」
「スキルは持ってないよ。あ〜、スキル欲しかったな〜」
そう言って、藤堂は大袈裟に残念な仕草をする。
「まあ、スキルを持ってない人の方が多いらしいから気にしなくても良いと思うよ。それで話を戻すね。俺がオススメする武器は、やっぱり槍かな。俺も使ってるし」
「そういえば、冬野くんが持ってる槍って形が変だよね。海外の街灯みたい」
俺のことはいいんだよ。早く武器を決めろよ。
「そうだね。まあ、俺のことは置いといて、藤堂さんが使う武器を決めないと」
「確かに。相談に乗ってくれてありがとう。もう少し悩んで決めてみるね」
そう言って、藤堂は武器が並べられている方に歩いて行った。ふう、まだまだこれからなのに疲れた気がする。
「ねえ、私も相談していい?」
「はい! なんですか?」
俺は、なるべく笑顔を意識しながら振り返る。話しかけてきたのはギャルだったみたいだ。名前は黒瀬だったはずだ。
「私が使う武器の相談をさせて欲しくて」
なんで、森さんじゃなくて俺に? 不思議に思った俺は森さんの方を見てみれば、森さんは別の参加者の対応で忙しそうだ。
「黒瀬さんは何か、武術の経験などはありますか?」
「ううん、ない」
「そうですか。では、スキルは得ましたか?」
「えーと、なんだっけ。確か『刀術』ってスキルがあったけど・・・」
『刀術』!? まじか、レアスキルじゃん。
スキルについて調べた時に知った情報なんだが、初めてダンジョンに入った時にしか得ることができないスキルがあるらしい。このスキルは、いくらレベルを上げてもスキル選択の時には出てこないらしい。
なんでも『刀術』などの武器の扱いに補正がかかるスキルが多いらしい。一説では、そいつ自身の才能に起因するものらしいが、まだ真相はわかっていない。
俺も欲しかったスキルだ。普通に羨ましい。
「ねえ、聞いてる? やっぱり、刀にした方がいいの?」
いけない、今は話している最中だ。考え事をしている場合じゃない。
「はい、そうですね。『刀術』は刀の扱いが上手くなるスキルらしいので、刀がいいと思いますよ」
「ふーん、やっぱりそうなんだ。ありがとね。相談乗ってくれて」
「いえ、お気になさらず」
「ていうかさ、冬野くんって同い年ぐらいじゃん。全然、タメ口でいいよ」
どうするか。さっきはクラスメイトだったから敬語は使わなかったけど。
ちょうど、近くで待機していた今井さんに目を向け、アイコンタクトで聞いてみる。さっきまでの会話は聞こえてただろう。
今井さんは、笑顔でうなずく。良いのか。まあ、親しみを持ちやすくすることも狙ってるんだろう。
「わかった。これからは、敬語は無しにするね」
「よし! じゃあ冬野くん、ダンジョンツアーの間よろしくね」
そう言って、黒瀬は刀がある方に歩いて行った。
「皆様。各々武器を選び終えたみたいなので、次はついにモンスターを倒すことになります。具合が悪い方やトイレなどに行きたい方は、言ってください。・・・・・・・・いないようなので、これからは引率の探索者様がたの指示に従ってください。私は、ここで失礼します」
そう言って、今井さんは森さんに指揮権を渡した。
「では、皆さん付いてきてください」
森さんは参加者達を引き連れて、テントを後にする。少し歩き、草原エリアの広く開けた場所で立ち止まり話し始める。
「皆さん、会議室でも言ったと思いますが、改めまして、私は今日皆さんの引率をさせていただきます、森と言います。わからないことがあれば、気軽にお聞きください。そして、こちらが補佐の・・・・・」
「冬野です。よろしくお願いします」
自己紹介を促されたので簡潔にする。
「彼は、まだ若いですが実力はギルドの方で保証されていますので、ご安心ください」
ガサッ
「きゃあ!」
草を踏みつけてこちらに歩いてくる音が聞こえた。音のした方を見ればコボルトが一匹こちらに歩いてくる。女子大生が思わず、悲鳴を上げる。
「お! さっそく、モンスターが現れました。まずは、私が相手をしますので皆さんは見ておいてください!」
森さんは持っていたメイスと楯を構えて、ゆっくりコボルトとの距離を詰めていく。
「ガウ!!」
コボルトが森さんに気付き、走り出し森さんにその小さな体躯を駆使して飛びかかる。
「よっと!」
森さんは、それを冷静に楯で弾き飛ばしたコボルトの頭に向かってメイスを振り下ろす。
コボルトの頭はトマトのように潰れて、体をビクんと一度痙攣させ動かなくなった。
「このように、コボルトの急所は頭や心臓なので倒すのは簡単です。力もそんなに強くないので、複数で来られない限り安全に戦えます」
森さんがそう説明していれば、コボルトの死体は光の粒子に変わりドロップアイテムが出現する。
参加者を見渡せば、何人かが青い顔をしている。さすがに、グロかったからな。
しかし、誰も嘔吐しなかったな。誰か、一人は気持ち悪くなって吐くと思ってたんだけどな。参加者はあらかじめ、そういう耐性がある人しか選ばれないのだろうか。
「次は、皆さんの中の誰かに戦ってもらおうと思います。今の戦いを見ても気分が悪くならなかった方がまずは、戦ってみましょう」
「じゃあ、私が行きます」
意外にも最初に立候補したのは黒瀬だった。すごいな、今の戦いを見てから直ぐに戦おうと思えるのか。よく見れば、少しだけ顔色が悪い気がする。何が、あいつを突き動かすのだろうか?
「黒瀬さん、少し顔色が悪い気がしますけど大丈夫ですか?」
「大丈夫です。行けます」
「そうですか。無理そうならいつでも言ってください」
すごいな。根性あるな。黒瀬は精神を鎮めようと深呼吸を繰り返している。
数分後
ガサッ
また、コボルトが一匹現れた。
「では、黒瀬さん行けますか」
黒瀬は頷き、抜刀した刀を両手でしっかり持っている。その構えは素人とは思えないほど確かで、迷いがない。黒瀬が持っている『刀術』の効果だろう。ここまで効果があるのか。
黒瀬は刀を正面に構え、コボルトにゆっくりと近づいていく。
「ガウ!!」
コボルトも黒瀬が近づいてきたのを察知して、黒瀬に向かって走り出す。
黒瀬とコボルトの距離が近づいていき、刀の間合いに入った時、刀が振るわれた。
揺るぎない構えからなんの迷いもなく放たれた斬撃は、コボルトの首に吸い込まれるように向かっていく。
キラリと刀が光を反射したと思えば、コボルトの首は斬られていた。黒瀬は刀を振り終わったままの体勢で固まっている。
コボルトの頭は、ボトリと地面におちた。
一連の動作に、その場にいる全員が驚愕した。素人があそこまで動けるようになるのか。そりゃ、レアスキルとも呼ばれるはずだ。
「え! 嘘! 今、私が斬ったの!?」
当の本人でさえ驚いている。
「す、素晴らしいです。黒瀬さん。初めてでこんなに動けるだなんて」
いち早く、驚きから立ち直った森さんが黒瀬を褒めちぎっている。
「えへへ、そうですか?」
褒められた本人は照れくさそうにしている。
「このドロップアイテムは黒瀬さんのものです。持っておいてください」
そう言って、いつのまにか落ちていたドロップアイテムを黒瀬に渡す。
「では、次に戦う方を決めましょう。黒瀬さんのように動ける方は少数ですので、自分のペースで大丈夫ですよ」
今日は色々と驚くことが多いが、まだまだダンジョンツアーは始まったばかりだ。気を引き締めて行こう。




