38話
おら!!!
赤鬼の心臓に槍を突き立て、とどめを刺す。
よし、これで一匹目だ。あと一匹で今日の目標を達成できる。
少しして、赤鬼は光の粒子に変わりドロップアイテムが出現する。
いつも通りのドロップアイテムを拾い上げ、カバンの中に入れて再び歩き出す。
発動:『気配隠蔽』
よし、これでいいな。
スキルを発動させ、家屋の間に隠れようとする。
ドシン、ドシンと大きい何かが歩く音が聞こえる。間違いない、赤鬼がこっちに近づいてきている。
その音の発信源を探るために聞こえた方向に目を向ける。
そこには、金棒を持ちこちらを睨み付けている赤鬼がいた。
まずいな、完全に見つかっている。
今までの戦闘は後ろからの不意打ちから始まっていたから真正面からの戦闘はしたことがない。
落ち着け、臆しても、焦っても死ぬだけだ。今みたいに、ただ冷静を保ち続けろ。どうする、連戦は流石にきついか?
考え事をしている最中も構わずドシン、ドシンと赤鬼はこちらに向かってくる。
・・・・・・・・・・よし、逃げよう。一戦して体力を使っているのに赤鬼と真正面から戦うのは不利すぎる。幸い、目の前にいるモンスターは足が遅い。
そう考えた俺は後ろに振り返って走り出し、近くにある家屋と家屋の間に入り込む。
よし、赤鬼は追ってこない。諦めたのかその場に立ち止まっている。
ん? 立ち止まっている? なんでだ?
発動:『危機感知』
スキルが発動した感覚と共に身体中を悪寒が走り回る。
やばい!!
その感覚に従いその場にしゃがみ込む。
ドン!!!!
大きな音が辺りに響きわたる。一体、何が起きた?
顔を上げ、辺りを見渡すと目の前の壁に金棒が突き刺さっている。
振り返ってみると、赤鬼は金棒を持っていない。ここから赤鬼の位置は近くない。嘘だろ? あそこからここまで、あんなに大きな金棒を投げたのか? そこまで力が強いのか。
しかし、チャンスだ。あいつは今、武器を持ってない。リーチの長さはこっちの方が有利だ。
そして、金棒を投げた体勢で隙だらけだ。
体を赤鬼に向け直し、走って素早く近づく。
槍をしっかり握り、力強く赤鬼の心臓目掛け前に突き出す。急な展開に赤鬼は驚き、対応が遅い。
赤鬼の胸に槍が吸い込まれるように突き刺さる。
「ガアァ!!!!」
赤鬼は痛みによって叫び声を上げる。
赤鬼が最後の抵抗を見せる前に後ろに全力で飛び、離脱する。
赤鬼は胸から血を流しながら、俺のいる方に近づこうとしている。しかし、数歩進むと前のめりに倒れ力尽きた。
「ふぅー」
赤鬼が力尽きたのを確認して、少し安堵し息を吐き出す。
少しすれば、赤鬼の体と血は光の粒子に変わる。
よし、あとはドロップアイテムを回収してギルドに帰るだけだな。
光の粒子がなくなり始め、ドロップアイテムが少しだけ見えてくる。
ん? なんだか、明らかに大きいな。
いつもの角よりも明らかに大きいドロップアイテムが現れる。
光の粒子が完全になくなりドロップアイテムが完全に見えてくる。
そこには、赤鬼がさっきまで手に持っていた金棒が落ちていた。
初めてのドロップアイテムだ。レアドロップか? まあ、とりあえず『鑑定』だ。
発動:『鑑定』
《鬼の金棒。赤鬼のどの個体も装備している武器。鉄より遥かに固く、とても重い。シンプル故に十全に扱えれば強い》
なるほど、力が強くないと扱えない武器か。俺には槍があるし、普通に売るか。
金棒を回収するために持ち上げようとする。
「重!!」
あまりの重さに声をあげてしまう。片手では持ち上がらなかったが、両手を使ってやっと持ち上げる事ができた。しかし、この金棒を武器にして振り回すことなんて出来そうにない。
しかし、このまま両手で抱えてギルドに持って行くのは途中で力尽きそうで無理だな。
考えた末、紐で金棒を結びそのまま持って行く事に決めた。
カバンから紐を取り出し、金棒に結びつける。
その紐を持ち、金棒をズルズルと地面に擦りながら引きずって行く。これなら、持って行けそうだな。
数十分後
悪戦苦闘しながら、金棒を引き摺りギルドに着くことができた。
さすがに、このまま金棒を引き摺ってギルドに入るわけにはいかないから、紐を解き金棒を持ち上げて抱えながらギルドに入って行く。
落としたらギルドの床が無事じゃ済まないので、慎重に売却できる窓口に歩いて行く。
窓口に到着し、職員に話しかける。
「す、みません。買い取りお願いします」
「は、はい! すぐに台車をお持ちしますので、そこにお載せください!」
そう言った職員が持ってきた台車に金棒をそーっと載せる。
「ふぅーーー」
重たい物を持ち乱れた息を整えながら、額にかいた汗を拭う。
何だか、戦いより疲れた気がする。
「他にも、売却するものはございますか?」
「あ、はい。これもお願いします」
そう言って、カウンターの上に鬼の角を置く。
「確認致しますので、少々お待ちください」
職員は台車を引きながら奥の方に消え行き、少しすれば違う職員が戻ってくる。何だか、見覚えのある顔だな。・・・・・・・・そうだ! 初めてギルドに来た時に案内してくれた人だ。名前は確か、川崎さんだったか。
「冬野様、少々お時間をいただけますか?」
「えっと、大丈夫ですけど何かありましたか?」
「いえ、そういう訳ではなく先日、冬野様がオークションに出品された奇具が売れまして、そのお金をお渡ししたいのです」
「なるほど、わかりました」
「ただいま、換金したお金も同時にお渡ししますので、別室に移動して頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
「では、ご案内させていただきます」
そう言った川崎さんはカウンターから出てくると、スタスタと歩いて行き、それについて行く。
少し歩き川崎さんは、一つの扉の前に立ちその扉を開けて言う。
「どうぞ、お入りください」
その指示に従い、部屋の中に入る。中は普通の応接室のようだ。
「もう少しで担当の者が参りますので、座ってお待ちください」
指された方にある椅子に座ると、川崎さんも反対側にある椅子に腰掛ける。
「冬野様、本日は急に呼び止めてしまい申し訳ありません。電話でお伝えすると言っていたのですが、先程オークションの諸々の処理が終わり、冬野様にお時間があるのなら今からその件についてお伝えしたいと思った次第でして」
なるほど。
「いえ、大丈夫ですよ」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
そう言って、川崎さんは頭を深く下げる。
トントントン
扉からノック音が響く。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けて、スーツをきっちりと着た清潔感のある男性が入ってくる。
「初めまして、冬野様。私、オークション関係を担当している森下直樹と申します。どうぞお見知りおきください。本日は私がこの取り引きについて担当させていただきます」
そう言って、森下さんは名刺を差し出してくる。その名刺を受け取る為に立とうとすると、
「そのままで大丈夫です」
と制止をかけられた。
「では早速、この度のオークションで冬野様が出品なされた商品がいくらになったのかをお伝えしようと思います」
そう言って、森下さんは電卓を取り出し金額を打っていく。一体、いくらになったんだ?
「こちらがその金額になります」
一、十、百、千、万、十万、32万!? まじか、あんなふざけた見た目でも売れる物なんだな。
「そして、この金額からギルドが頂く2割を引くと、このような金額になります」
25万6千円か。すごいな。
「落札者様の情報を詳しくはお伝えできませんが、とある研究機関が冬野様の品物を落札しました」
へぇー。まあ、あんなふざけた見た目でも、研究対象として見れば優れた物なんだろう。なんというか、あの眼鏡をかけた研究員の光景を思い浮かべると、すごいシュールだな。
「そして、今日冬野様から買い取らせて頂いたドロップアイテムのお値段です」
電卓を見てみると13万円と映し出されている。13万円!? 角が一本で3万円だったからあの金棒一本で10万円!? 一気に稼いだ気がするな。
まあ、お金はたくさん有っても困らないしな。喜んで貰っておこう。
「現金でお持ち帰りしますか? それとも、指定の口座にお振り込みいたしますか?」
「口座の方にお願いします」
このあとは、お金を受け取る手続きや色々な契約書などにサインをして、部屋を退室する。
「冬野様、今日はお付き合い下さりありがとうございました」
そう言って、川崎さんと森下さんは頭を下げる。
「ありがとうございました」
俺も忘れずにお礼を返して、ギルドの出口まで歩き出し帰路に就いた。




