35話
全く、今の状況に付いて行けてない。
「ここは私が払うから好きなの頼んでいいわよ」
その混乱の元は目の前でメニュー表を見ながらニコニコ笑っている。何で、こんな有名人と一緒にカフェに入ることになったんだ。やはり、この前のダンジョン氾濫のことか。
「お、これ美味しそうね」
「あの、それで話って何ですか?」
「まあ、とりあえず飲み物を頼みましょ。ほら、悠も冬野くんも」
そう言って、メニュー表をこっちに差し出してくる。奢ってくれるらしいし、とりあえず頼むか。
店員を呼びそれぞれが欲しいものを頼む。水見紗季はサングラスを掛け直している。
「かしこまりました」
店員が注文を聞き終えると厨房の方に戻って行く。水見紗季に気づいている様子はなかった。やはり、あのサングラスの効果か?
数分すれば、注文した通りに飲み物が到着する。水見紗季はブレンドコーヒー、藤原はリンゴジュース、俺はミックスジュースを頼んだ。
水見紗季は届いたばかりのコーヒーを一口飲み、口を開く。
「回りくどいのは嫌いだから、単刀直入に言うわね。冬野くん、私の部隊に入らない?」
は? 水見紗季の部隊に入らないか? A.S.S.Fに俺が?
絶っ対嫌だ!!
身を守る力を手に入れるために、ダンジョンを探索しているのに自ら危険に突っ込んで行ったら本末転倒だ。
俺を誘った理由は何だ? この前のダンジョン氾濫の件か?
「あの、なんで俺を?」
「政府は常に優秀な探索者を欲しがってる。だから、優秀な貴方に声をかけたの」
「そういうことでしたらお断りします。買い被りすぎですよ。俺はそこまで優秀じゃありません」
これで逃がしてくれたらいいけど、そうも行かなそうなんだよな。クソ。
「そもそも、俺のどこを見てそう判断したんですか? 失礼ですけど、これが初対面ですよね?」
「一昨日のダンジョン氾濫で赤鬼が3体、学校に侵入して、ここに居る悠が襲われている生徒を守るために戦闘したわ。だけど、悠は攻撃手段を持っておらず防戦一方。最後にスキルでバリアを張って耐えていたけど、3体の攻撃にバリアが破られそうになった時、突如、空から箒が飛んできて赤鬼に刺さったそうよ」
援護したのが俺ってバレてるのか?
「えっと、その話のどこが関係してるんですか?」
「もし、箒を赤鬼に刺さるレベルの武器に変えるスキルを持っていて、それを屋上から投げて地上にいる鬼に命中させれる力を持っている探索者がいるとすると、その人はとても優秀じゃないかしら?」
「同じ学校にそんな優秀な探索者がいるなんて俺も見習いたいです」
「そうね。その子が探索者になったのは約一ヶ月前なんて驚きよね」
「それは・・・・・・驚きですね」
俺だと確信している? それとも、鎌をかけてるだけなのか?
「鬼に刺さっていた箒から、冬野くん、貴方の指紋が検出されたの」
「その箒が屋上のだったんなら、俺は屋上の掃除をしているので指紋が付いてるのは当たり前ですよ」
「あら、そうなの。なら、鬼が学校で暴れていた時は冬野くんは何をしていたのかしら?」
「あはは、何だか取り調べみたいですね。刑事ドラマみたいです」
本当に取り調べみたいだな。俺は全く悪いことなんてしてないが。
「ごめんなさいね。そういうつもりは無いの」
「いえ、大丈夫ですよ。えっと、鬼が暴れている時でしたよね。お恥ずかしながら、怖くて空き教室に隠れてました」
そう言って、自嘲するような笑みを顔に浮かべてみせる。
「あの!」
今まで黙っていた藤原が声を出す。今度は何だ?
「冬野くんが僕を助けてくれたんですよね! ありがとうございました!! あの時、本当に怖かったんです。僕と一緒にA.S.S.Fに入りませんか? 冬野くんが入ってくれたら心強いと思うんです」
「藤原さん、人違いだよ。本当に俺は教室に隠れてたんだ」
まだ、何か言いたそうだな。藤原が何か言い始める前に水見紗季が割って入る。
「そうだったのね。私たちの勘違いだったみたい。こんな話に付き合わせちゃって、ごめんなさいね」
「いえ、勘違いを正せて良かったです。それに、ジュースご馳走さまでした。俺はそろそろ帰ります」
嫌に素直に帰してもらえそうだな。少し不気味だが、十分話に付き合ったことだしもう帰っていいだろう。奢ってもらったお礼を言い、席を立ち上がる。
「あ、ちょっと待って」
「まだ何か?」
水見紗季に呼び止められ、振り返る。
「これ、私の連絡先だから何かあったら連絡してね」
そう言って、水見紗季の連絡先が書かれているであろう紙を手渡される。
貰えるなら貰っておこう政府の探索者の連絡先だ。何かしらで役に立つ時が来るかもしれない。
「えっと、ありがとうございます。じゃあ、失礼します」
そう言い、紙を受け取り喫茶店を出る。
これからどうするか。さすがに色々あって疲れた。
何であんなに簡単に納得してくれたんだ? 何か裏があるのか? あの説明で俺への疑いが晴れたとは思えない。
まあ、ここで考えてもしょうがないな。とりあえず家に帰ろう。
そうして、俺は疑問を抱えながら今度こそ、帰路についた。




