表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/96

第33-3話 ようやく始まったんだが?

「解散したばかりで再招集さいしょうしゅうをかけるなんて何事なんだ、デリータ?」


 俺は工事現場にふたたび冒険者たちを集めた。

 前に立つ俺とクレブ、それから大急ぎで来てくれたエレルーナさんに注目が集まっている。


「見てもらいたいものがあるんだ」


 みんなが口をつぐむ。

 一体なにが始まるんだと言いたそうに目をきょろきょろさせている。


「エレルーナさん」

「かしこまりました」


 彼女はうなずくと、空中くうちゅうへ手をかざして魔法陣を展開した。


 俺たちの頭上に浮かぶ円環えんかんそらと平行なそれらはぐるぐると回っている。


 そのまばゆさに冒険者たちは目を覆い、次に彼らが目をける頃には……。


「……!」


 集まった冒険者たちの多くが息を飲んでいた。


 言葉が見つからない、と言った様子で固まっている。


「デリータさん、これで良かったですか」

「もちろんだ、ありがとう。……久しぶりだな、みんな」


 俺がそう言うと、魔法陣から現れた二〇体のスライムたちは、


「あーっ‼ デリータだぁー!」

「なぁデリータ、おれ背のびただろ⁉ ほら、ほら!」


 ……と、まるで雪崩なだれのように俺に飛びついてきた。俺が尻もちをついてるのはそういう理由だ。


「だーわかったわかった! あとで遊んでやるから今はいったん待ってくれ!」

「モテモテだなデリータ」

「モテモテですね、デリータさん」

二人揃そろって微笑ほほえましい目をするんじゃない!」


 わいわいきゃっきゃとすると同時、なつかしさと安堵あんどの気持ちを胸に覚える。


 シャーロットだけを連れていく時にはそれなりの葛藤もあったものだ。集団の中での特別扱いは禍根かこんを残すこともあるし、なんでシャーロットだけが⁉ と聞かれていたらきっと優しい返答はできなかっただろう。


 だが、みんな元気そうで良かった――


「!」


 スライムたちに飲み込まれていた俺の目に、嫌な光景が映った。


 太陽光にとおる、青いからだのその向こう。


 ――何人かの冒険者たちが、腰にれるけんを抜いたのだ。


 まずい。


「モンスターがここになんの用だぁ‼」


 彼らをめんとする冒険者もいるにはいる。

 だが、そのどれもが本気には見えなかった。


 現実とはこんなものだ。

 くちではいくら奇麗なことを、勇ましいことを言っていても、本能的な恐怖が植え付けられた対象を前にすれば――。


 数人の冒険者たちが剣を構えてけてくる。


 スライムたちは俺に夢中で気付きそうもない。


「とめるぞ、デリータ」

「待てクレブ!」


 かみなりをほとばしらせる彼女を制止し、俺はを待った。


 モンスターを人に戻した俺たちだからこそわかることがある。


 彼らの優しさ・人間味にんげんみにあふれたところを見たからこそ受け入れられる。


 ならばやることは――これしかないと思った。


「失せろ最弱モンスターぁぁぁぁあああ!」


 いくつかの剣が振りあげられた、


 その瞬間。


 《消去》――‼


 敵意をふんだんにまとうそのてつは、モンスターの生臭なまぐさ体液たいえきを吹きこぼす、


 ことはなかった。


「な……な、なにィッ⁉」

「どう、なってやがるんだ……⁉」


 あまりに衝撃的だったのだろう。彼らは振り上げたその剣をちからなくおろし、眼前の光景に目を見開みひらいていた。


「……これでわかったろ。お前たちが手にかけようとしていたのは」


 俺は俺におおいかぶさる()()()()を優しく退けながら立ち上がり、言い放った。


「こんな小さな子どもたちだ」


 そしてにらむ。


純粋じゅんすい快活かいかつ、まだけがれもろくに知らない小さな子どもたちだよ」


 あんぐりと口を開けたままの彼らへ俺は続けた。


「確かに彼らはお前たちとは違うかもしれない。彼らは一秒後に粘性生物スライムになれるし種族の垣根かきねだって越えられる……そんな存在だ。だがそんなにダメなことか? モンスターになれる素質を持った人間ってとらえかたはできないか?」

「でっ……できる訳ねーだろ‼ そいつらがいつ襲ってくるかもわかんねぇんだぞ⁉」

「人間だって同じじゃないか?」

「え……?」


 俺は近場にあった木材もくざいを足で転がしながら、


「人間だっていつきばをむくのかなんてわかんねーだろ? たとえばお前の隣にいるやつ。そうだ、ちょうど剣を持ってるな。数秒後に互いを斬りつけているかもしれない。互いの命を狙って魔法を使っているかもしれない。そう、たとえば――」


 消去。木材が消え、またたにそれを彼に向かって打ち出す。


 木材は男のほおをかすめ取るように吹き飛んだ。


「人間である俺がお前たちを殺すかもしれない。モンスターと人間、何が違うんだ?」

「そ、それは……」


 冒険者たちの顔が強張こわばってしまう。


「……ま、今のは極論きょくろんだけどな。けどコイツらに関して言えば、お前たちの心配はなにもいらないよ。ほら――」


 俺はスライムたちの背中を優しく押した。

 一瞬遅れて気がついた彼らの警戒心けいかいしんを《消去》で忘れさせ、そのうちの一人に小さく耳打みみうちをすると。


「は、はじめましてっ……!」


 その声に続き、他のスライムたちもくちにする。


 その時の冒険者たちの顔ときたら、それはもう傑作けっさくと言ってもいい。


「しゃ――――しゃべった⁉ モンスターだったやつらが挨拶あいさつしたァ⁉」



 工事現場はしばらくスライムたちの話題で持ち切りだった。


 さすが挨拶あいさつはコミュニケーションのいしずえ。それができるだけで警戒心を簡単に解くことができてしまうのだからな。


 実際、剣を握っていたやつはすぐさまおさめ、モンスター共存派の連中とともにさまざまな会話を交わしていた。……もちろん、なかには不服そうな態度をとる者もいるが。


 仲睦なかむつまじくしているその光景を前に、


案外あんがい馴染なじんでいるんじゃないか?」

「そうだな。挨拶って大事だよな、自分は敵じゃないですよーって合図みたいなもんだし」


 ま、まぁちょっと単純すぎるとは思うがな。

 事前じぜんにモンスターは元人間もとにんげんかも? って知識があったおかげで、思いのほかすんなり受け入れられている……のかもしれない。


 そんな時だった。


「やめだやめだ馬鹿馬鹿しい!」


 叫んだのは不服そうにしていた男だった。彼は声を張り上げて、


「人の姿してたって所詮しょせんはモンスター! よくそんな奴らと笑ってられるなお前たち!」

「ちょっとアンタ、まだしゃべってもないくせになにわかったようなこと言ってんの?」


 誰かがつっかかる。が、男はさらに態度を悪化させて、


「だってそうだろ? 俺の言ってることは間違ってるか? ま、いいぜ。雑魚ザコモンスターと雑魚ザコ冒険者どうしで仲良くれとけよ。さぞ居心地いごこちが良いだろうからな!」

「アンタ、いい加減に――」

「まぁ待ってくれ」


 ケンカになりそうなところで俺がさえぎった。

 注目が集まる。いいタイミングだ、これをに言っておこう。


「俺は彼の言いたいこともわかる。昨日きのう今日きょうでモンスターと仲良くしろっていうのも難しい話だと理解している。だからこそ……みんなにお願いしたいんだ」


 初めからすべてを受け入れろとは言わない。


 今晩こんばんから同じかまめしを食えとも言わない。


 ただ、俺が望むのは……


「少しずつでいいんだ。少しずつでいいから、彼らを認めてあげてほしい。姿すがたかたちは確かに人とは違うかもしれない。けれどこころを持った立派な命なんだ。頼む」


 その願いがどれほど届くか。どれほど叶うか。

 今はわからない。


 でも、少なくとも、


「任せろデリータ! 俺にゃわかる、こいつらは良い奴らだ! 安心しろ、危害を加えてこない限りは絶対に手は出さねぇ!」


 ……こう言ってくれる冒険者たちもいる。


 その事実だけで暗闇くらやみだった未来は、わずかにではあるが確実に光が生まれたことだろう。


「……良かったな、デリータ」

「ですね、デリータさん」

「……ああ!」


 小さな一歩だ。


 だが踏み出せたことに意味がある。


 その一歩の意味を踏みしめ、みしめながら、俺たちはギルド復旧作業にあたった。


◇◆◇


「デリータ、お前も早く帰って休めよ~!」

「ああ、お疲れさん! また明日な」


 気がつけば日没にちぼつ

 オレンジ色の光がまばゆくんでくる。


 俺は最後まで一緒に復旧作業をしていた冒険者に手を振ると、


「さて……俺もそろそろ帰るかな」


 工事は順調に進んでいると思う。魔法やスキルの恩恵おんけいもあって、昼間ひるまには骨組みしかなかったギルドはいまや頑張れば人が住める程度には修繕しゅうぜんが済んでいる。


 人の力ってスゲーやぁ……なんて思いながら脱ぎ散らかした服を拾いあげようと手を伸ばすと、ふと。



 俺をかくすようにかげが伸びていることに気がついた。



「デリータさんっ」


 小鳥ことりが歌うような、そんな声が聞こえてきた。


「……デリータ」


 こおりが溶けてゆくような、そんな声が続いた。


 生きていてくれた。

 それだけで十分だと思っていたのに。

 またこうして名を呼んでもらえた。


 バレないように、気付かないように、見ないふりをしていた気持ちが胸の奥からあふれてくる。


 気にしないように、気にしすぎないようにつとめていた緊張きんちょうが、けた。


 俺はゆっくりと振り返る。


 ずっと見たかった顔がそこにあった。


 彼女たちは笑っていた。


 あちこちにガーゼをったアモネはにこやかに、


 サラシのように包帯ほうたいを巻いているシャーロットは相変あいわらず無表情に、けれど嬉しさを口端こうたんにじませながら。


 ……俺はあふれてくるものを必死でこらえながら、最大級の歓迎かんげいを言葉に込めて。



「……おかえり――アモネ、シャーロット!」



 直後、二人は俺のうでなかにいた。


 ああ、ようやく歯車はぐるまが動き出した、と俺は思った。

 心の根っこで錆びついていた何かは、キレイさっぱりなくなっている。


 きっとこれから世界は変わる。もちろん良い方向に、だ。

 乗り越える壁はまだまだ高いが……おくすることはなにもない。


 だって、


「うわぁぁぁぁんデリータさんんん無事ぶじだったんですねぇぇぇぇええ!」

「……いたかった、むねにさったけん、すごくいたかった……!」


 俺にはアモネとシャーロットがいるんだから。


 彼女たちが笑顔で暮らせるような……あ、いまはぴーぴー泣いてるけど……そんな世界がやってくるのなら、どんな壁だって乗り越えられると思うから。


 俺は優しく彼女たちをせた。

 そっとでるように、けれどもうはなさないというように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ