表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/96

第27話 地獄が始まっていたんだが?

「ギルドマスターからの伝言です! 起きなさいデリータ、アモネ!」


 翌日の朝、乱暴らんぼう伝言係でんごんがかりによって叩き起こされた俺たちは妨害ぼうがいされた睡眠を恋しく思いながらも、ゲンゴクの招集しょうしゅうへ応じるべくギルドへ出かけていた。なんでも懲罰ちょうばつの量刑をするためにいくらか聞きたいことがあるのだとか。


 その道すがら、にわかにアモネが発語した。


「デリータさん、わたしにできることがあればいつでも言ってくださいね」


 いつもなら顔をのぞき込んできそうなものだが――今日は違った。

 アモネは後ろで指を絡み合わせ、ただまっすぐ前を見据みすえているだけ。

 引き結ばれたくちびるに決意が宿るように、かもし出す雰囲気もまたどこかおごそかに感じる。


「急にどうしたんだよ」


 なるだけ軽い感じで返してみる。

 するとアモネもかすかに口角こうかくをあげて、


「気付かれていないと思っているみたいですが、デリータさんが夜中よなかに外出していることはわたし把握してますからね。デリータさんのことですからきっとわたしが考えているよりも遥かに難しいことをやろうとしていると思うんですけど……懲罰に関してはわたしも当事者なので! 力になれることがあったら遠慮なく言ってくださいね!」


 ……なんと。バレていたか。


 睡眠を邪魔していたのなら申し訳がない、そして何も言わずに動いてごめん――言わなくちゃならない言葉がいくつも浮かんでくるが、そのどれもを口にすることはできなかった。

 俺がやることをアモネが知れば、計画は破綻はたんに追い込まれることだろう。俺と共に地獄への道を進むことを決めたアモネだからこそ、きっとそうするはずだ。


 知られないように。さとられないように。口をすべらせないように。


「……ああ。ありがとうアモネ。でも隠している訳じゃないから安心してくれ。それにアモネには大仕事おおしごとを任せる時が近く来ると思うから」

「お、大仕事ですか⁉ い、一応先に教えておいてもらえると心構えができるんですけど……」


 真剣な表情が一転いってん。一気に及び腰になったアモネを見るとなんだか笑えてくる。

 このまま暗いムードなど笑い飛ばしてしまおう。


「アモネなら大丈夫だろ。きっとうまくやれるだろうし――」


 思った矢先やさき



 どさっ、と。



 なにか重たそうなものが俺たちの前に落ちてきた。


「……このカバンって!」


 アモネが口にするのとほぼ同時、ひやりとする背筋せすじ


 見覚えのあるカバンだった。

 やたらポケットが多い、機能性きのうせいに優れた大きなカバン。キャリーのものだ。


 どうしようもなく嫌な予感がした俺はカバンが飛んできた左方さほうへ首を振る。

 建物にはさまれた裏路地。昼間にもかかわらず、の光がうっすらとしかし込まない暗闇の奥にかすかに動く影があったような気がする。


 ……行かない、という選択肢は毛頭もうとうなかった。

 アモネと顔を合わせたのち、息をひそめながら静かに裏路地を進んでいく。


 前方から音が反響してくる。

 ――、いや、ただの音ではない。男の下品な笑い声だ。


「危ないかもしれない」


 俺たちは足早に路地を駆けていく。一つ二つと角を曲がり、声の発生源まで着実に近づいて行く。はやる気持ちをかかえながら。どうか思い違いであってくれと祈りながら。


 もう一つ角を曲がった時だった。とうとう俺たちは発見する。



 三人の男達にリンチされている、ある姉妹しまいを。


「おいおい脱ぐのか脱がねぇのかハッキリしろよぉ~!」


 暴漢ぼうかんの一人がキャリーの服に手をかけた。

 妹におおいかぶさるような体勢の彼女は懸命に抵抗ていこうするも、むなしく。

 びりっ、と。布地ぬのじが引き裂かれるような音が軽快けいかいに響いた。

 キャリーは顔をゆがめるも、しかし妹から離れようとはしなかった。


「ぎゃはははは! コイツ一生懸命妹守ってるぜ⁉ 姉妹愛しまいあいか、いいねー泣けるねぇ!」


 それを見て、更にたかぶる暴漢たち。


 俺は大きく吸い込んだ息を吐き出すことも忘れていた。

 全身の血が沸騰ふっとうするような錯覚におぼれる。



『とことんバカなヤツだ! お前の地獄じごくはここから始まんぞ!』



 ――これは偶然か? たまたまキャリーたちがこんな目にっているだけなのか?

 ディオスの捨て台詞ぜりふが頭の中を駆け回る。まさかアイツが……?


「どうせなら二人まとめてやっちまおうぜェ、くちは四つあるんだしよォ」


 ついに暴漢たちがベルトに手をかけた。

 そこでハッとした俺はめぐる思考を放棄ほうきして、


「キャリー!」


 全速力で暴漢たちへ接近する。


「あん? おいおい、ここはガキの遊びじゃねーぞ? ケガしないうちに帰んな!」

「ご……ごしゅ、じん……」


 アザだらけの顔をしたキャリーが俺を呼ぶ。路地を吹き抜ける風にかき消されそうなか弱い、痛々しい声に胸が痛くなる。

 いっそう、力が入ってしまう。


 距離きょり、《消去しょうきょ》。


「なんだテメェら仲間なのか! それはそれで興奮するなぁ! 目の前で仲間が失神しっしんするまでおかされる……いいじゃねーか、そそるじゃね――ふがっ⁉」


 まるで魔法のように一瞬で彼我ひがの距離をつめた俺のこぶしが暴漢の一人を殴り飛ばした。

 触れたついでに意識いしきも消しておく。地に叩きつけられた彼が再び起き上がることはない。


 それを見て激昂げっこうしたのは残り二人。


「やりやがったなクソガキが!」


 りずに襲い掛かってくる暴漢たちだが、もう俺は遠慮えんりょをするつもりはなかった。

 どういう事情であれ、キャリーたちを無意味に傷つけた罪は重い。


「《消去》」


 たった一言、言い放つ。


 その瞬間、男たちは急に苦しみ始めた。まるで毒入どくいりスープを飲み干したように自らの首をめ、膝からくずれおち、何かを希求ききゅうするようにこちらへ手を伸ばしてくる。目を見開みひらき、口をパクパクさせながらじたばたと動き回っていた。


 そう、俺が消したのは奴らの周囲にある酸素さんそ。簡単に言えば息ができなくなるってことだ。

 やがて男たちは失神し、その場に倒れ込んだ。


 酸素を《消去》した事実を《消去》し、俺はキャリーたちへ駆け寄る。既にアモネが介抱かいほうをしてくれていた。


「……話せそうか?」


 アモネがキャリーを腕にかかえながら顔だけを向けて、


「意識がありませんし、ひどいケガです……デリータさん、医務室へ急ぎましょう!」


 俺はうなずき、上着をキャリーの体にかけた。

 妹のほうは……うん、そこまで深い傷でもなさそうだな。これもキャリーの勇敢ゆうかんな……いや、姉としての美しい矜持プライドの結果だろう。


 そんなことを思いながら、キャリーの妹を抱きかかえようとしたその時だった。



「逃がすワケねぇーだろうがゴミクズどもが。矮小わいしょうな脳ミソでもちったぁ考えてみろってんだよ」


 裏路地の暗闇より現れたその男は、俺のよく知った顔だった。


「ディオス……!」


 そのうしろにはぞろぞろと冒険者たちが続く。ざっと六、七人くらいはいる。

 たいそう愉快ゆかいそうに表情をゆがめたディオスは世間話せけんばなしでもするように、


「目の前で仲間を傷付けられるのはどんな気持ちだデリータ? 胸の奥底おくそこが震えてくるか?」


 ……やはりか。


 キャリーたちがおそわれていたのは偶然の出来事なんかじゃない。

 彼女たちをどう誘いだしたのかは知らないが、俺に当てつけるためにディオスが仕組しくんだことなのだ。


 心底しんそこ腹が立った。手のひらに爪が食い込んでいた。

 無関係な人間でも目的の為なら傷付けることをいとわない――他者の魂にどろをかけるような精神のかたに、俺は嫌悪感けんおかんを隠し切れず、


「てんめぇクソ野郎が……っ」


 ずんずんとディオスに向かって歩き始めていた。

 だが奴は高みの見物でもするようなゆとりで、


「そんなに怖い顔してどうしたんだ? 俺は昨日忠告したはずだぜ? 『お前の地獄はここから始まる』ってな」

「これ以上俺の仲間に手を出すってんならディオス、お前を――!」

「おいおい、こんなとこでくっちゃべってても良いのか? お前の大事な仲間とやらはそこに転がってる女だけなのかァ?」


 心臓をにぎられたような気がした。思わず足を止めてしまう。

 その意味はほこったようなディオスの顔など見なくともわかる。


 俺に地獄を見せるためだけにキャリーに手を出させたような男だ、コイツは。

 ならば、彼女の――ギルドの医務室いむしつ治療ちりょうしているシャーロットのもとへ誰かを向かわせていても何らおかしくはない。


 脳天のうてんからつま先までがるような感覚を覚えたその瞬間、


「デリータさん、先に行ってください!」


 さとったのだろう、アモネが背後はいごくちにする。


「……! でもアモネ、この人数を相手にするのはさすがに無理があるだろ!」


 アモネは笑った。はかなさがにじんだ笑みだった。


大仕事おおしごと……思ったより早く来ちゃいましたけど、わたしなら平気です。デリータさんがわたしを信じてくれているように、わたしもデリータさんを信じます。だからシャーロットちゃんのとこへ急いであげてください。早く!」


 もう、行くしかない。

 これ以上誰一人としてキャリーのような被害者を出したくない。

 そう、信じるんだ。アモネを。アモネの力を。


「……わるい、ここは任せた!」


 キャリーたちの救援きゅうえんを呼ぶことを伝え、俺は裏路地を飛び出した。そのさい背後では、


「俺から逃げられると思ってんのかァ⁉」


 ディオスの炎魔法ほのおまほう炸裂さくれつしていたが、アモネの《反射はんしゃ》が見事に完封かんぷうする。


「デリータさん、シャーロットちゃんをお願いしますね!」


 約束する、と返事をして俺はギルドへと突っ走る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ