第24-2話 ちゃんと告げ口されていたんだが?
喉の奥が干上がりそうな時間が過ぎていく。
パ、パーティーに戻ってこいときたか……。
「聞き間違い、だよな?」
誤魔化すためでも逸らすためでもなく、純粋な気持ちを向けてみる。
しかしアリアンは気後れなど一切なさそうに、
「いいえ、わたくしたちは本気です。そうですよね、テュアさん」
隣の少女へと話題を振った。
俺もテュアへ視線を移す。
初めこそ目を逸らし口をとがらせていた彼女だったが、観念したように小さく息を吐いた。
「……デリータ、アンタには悪いことしたと思ってるわ。こっちの勝手で追い出したにも関わらず都合の良い話だってのもわかってる。けど、そのうえで……そのうえでのお願いなの」
ぎゅ、とテュアが俺の手を握ってくる。
柔らかくすべらかな肌が五指を捉えて放さない。
ディオスほどではないにしろプライドの高い彼女がここまでしてくるのだ。きっと背景には相当な理由が転がっているのだろう。
ひとまず事情を聞くとしようか――そう考えた直後。
「放してくれ」
俺はテュアの手を粗雑に振りほどいていた。
思考と行動の乖離に驚いているのは俺もだが、正面きって拒絶をされたテュアは口をポカンと開けていた。さしずめ断られるとも、俺に断る勇気があるとも想定していなかったのだろう。
行動は言葉より思考より正直だ。
どうやら俺は俺が思っている以上に、こいつらが嫌いらしい。
「テュア、お前は承知していたんだろ? これがどれほど図々しく身勝手な言い分であるかを。いまさらなに言ってるんだよ。お前たちに何があったかは知らんがパーティーを追放された俺にはもう関係のない話だ。アモネ、シャーロット、行こう」
俺はスタスタと歩き出した。
間もなく腕を掴まれる。振り返るとアリアンが縋るような表情で訴えてきた。
「待ってくださいデリータさん! お願いです、どうしても……どうしてもあなた様の力が必要なんです……! あなた様が戻ってこられなければ、わたくしたちは、ディオス様は……!」
こんなに必死なアリアンを見ても。
それでもなお、彼女たちへの嫌悪感は消えなかった。どころか増幅していく一方で。
俺はアリアンの指を一本一本はがすように解いていく。
「知るか。俺はディオスのCランクパーティーを追い出された。お前たちは俺を不要だと言った。もう俺たちの関係はとっくに切れていると思わないか? テュア、アリアン」
そう、終わっている。俺たちの関係は四日前に終了しているのだ。
使えないと言われ、役立たずだと蔑まれたあの時点で、俺が再び彼女たちの手を取ることはありえない。なぜなら、
「俺は俺を大事にしてくれる人たちを大切にするって決めてるんだ。そしてそれはここにいるアモネだったりシャーロットだったりする。……少なくとも俺を捨てたお前たちにかける情けはない」
言いたいだけ言った。二人は悲痛な表情をしていた。
……まるで追放された日の自分を見ているような気持ちになってしまうが、
「自業自得ですよね! デリータさんに酷いこと言った人と同じパーティーの人ですし、デリータさんが気にする必要はどこにもないですよ!」
アモネがあっけらかんと言うので、これ以上は深く考えないようにしよう。
「でもデリータ、あの人たち後ろついてくるよ」
しばらく歩いた頃、シャーロットが服の裾を引っ張って教えてくる。
確認……たしかについてきているようだ。
ふいに思う。
本当に、きっと俺が想像もできないような何かが起きている、のかもしれない。
「わかってる。万が一には……その時に考えるさ」
◇
ギルドに到着するや、俺たちは一様に異変を感じ取った。
まるで西の空に暗雲が立ち込めているのを察知したような雰囲気。
アモネが不審そうにつぶやいた。
「……なんだかやけに騒々しいですね……? それにやたら注目を浴びているような……?」
「デリータ、ボクこの感じ、すきじゃない」
シャーロットも続ける。
たしかにそうだ。さっきからやたら視線を集めている気がする。
たとえばそれがシャーロットの背負う魔鉱武装オクトパスの素材への好奇ならまだしも……その類ではないことは肌で理解できる。
俺たちの通る道は自然に空き、カウンターまでに一本の道筋が整った。
ひとまず依頼達成の報告だけはしておこう。
「ウィズレットさん、モンスター討伐から戻りました。……ところでこの雰囲気は一体」
「デリータくん」
感情にギロチンを落としたような声が鼓膜を叩く。ウィズレットさんのあまりにも事務的な声と表情に無意識に息を詰める。
「ここで待ってなさい。ギルドマスターを呼んで来るわ」
受付嬢は言い残し、空色の髪を揺らしながらカウンターの奥へと消えていく。
「なんでしょうね……?」
不安の滲む声でアモネが言う。
言葉を返すよりも先に、ギルドマスターであるゲンゴクがやってきた。
「ゲンゴクさん、一体何があったんですか」
俺は食い気味で質問した。
わずかな間の直後。
ゲンゴクの強面を強調するように眉間に深くしわが寄る。
彼は俺とアモネを交互に見やった後、口を開いた。
「デリータ、アモネ……お前たちが俺を失望させるなんてことはないと言ってくれ」
俺はアモネと顔を見合わせることもしなかった。心当たりがあったからだ。
ただ心臓が強く脈打ったのは鮮明にわかる。
浅くなった呼吸を悟られないように、口を噤んでゲンゴクを見据える。
ゲンゴクは淡々と述べた。
「四日前の夕暮れ、ローヴェニカ支部にこういう報告があった」
して、手元の紙面を読み上げる。
決して大きな声ではない。それでもギルドに反響するほど大きく感じるのは、すべての冒険者たちがこちらの動向に注目しているからだろう。
「――――『冒険者のデリータとアモネがモンスターを庇っていた』と、『まるで仲間のように扱っていた』と……これは何かの間違い、だよな?」
何も間違いなどではなかった。俺たちは黙っていることしかできなかった。




