閑話1-1 ようやくの休息なんだが? ①
ローヴェニカに帰還した俺たちは早速宿探しを開始し。
ものの数分で決まった。アモネの直感頼りだ。
「おお~広いお部屋ですね~!」
アモネはどこか慣れたような足取りで室内を見渡す。
シンプルでいて、上品な絢爛さの体現に成功した一室だった。
普段俺が宿泊している安宿とは似ても似つかぬ様相。こげ茶のフローリングには花柄が施された絨毯が敷かれ、壁は大小さまざまなレンガが敷き詰められてできている。
「もふもふだ、ここ……」
シャーロットの腑抜けた声が聞こえたと思ったら、ベッドにダイブして足をぱたぱたさせている。
飛び込みたくもなるはずだ。ふかふかそうな布団と柔らかいマットレスは純白のシーツに包まれているし、何より人間とはベッドを見れば飛び込みたくなるという本能を兼ね備えた動物で――あん?
なーんか、違和感。というか、凄まじい違和感。
うん、これだ。ベッドが二つしかねぇ……!
「ちょっと待て? 受付ではベッド三つあるって言ってたんだよな? なんで二つしかないんだ?」
「あー本当デスネー。フロントさんがマチガエちゃったんでしょうね、キット!」
あーコイツ確信犯だ! ウソをごまかす時にしかやらない『口笛&目が泳ぐ』のダブルコンボしてやがる!
たった数分、三件目にして即決したのはそういう理由か。
フロントを尋ねたアモネが『デリータさんここがいいです! わたしの良い宿センサーが「食事」「雰囲気」「くつろぎ空間」の三つすべてにビンビン反応してます! それにここは冒険者ギルド直営の宿泊施設ですし、割引も受けられるので最高ですよ! ここにしましょうそうしましょう!』と言うから素直に頷いたのに……!
邪な想像が頭をめぐる。なんでこんな時に限って対面で座っていたシャーロットのことやいつも抱き着いてくるアモネのことを考えてしまうんだ俺は……ッ!
いや落ち着け。落ち着こう。
ま、まぁ俺が床かソファで寝りゃいい話だもんな。そうすりゃ何事もなく間違いもなく寝られるはずだ。うん、そうしよう。
「デリータさんデリータさん! このお部屋、浴室までとっても豪華ですよ!
内なる葛藤に頭を抱えているのは俺だけらしい。なんか悔しい!
◇
俺は迷っている。
「もうシャーロットちゃん、くすぐったいよ~!」
とてもとても迷っている。
「アモネ、ここふわふわ。ボク、あんまりふわふわじゃない……」
浴室のドアをこじ開けて突入するか否か――ではなく、この部屋を飛び出すかどうかを、だ。
考えてもみてほしい。
この部屋に女子二人の何やらけしからん会話がぜんぶ聞こえてくるんだぞ?
浴室の外で一人待たされる俺は男だぞ?
なにかこう、すこしでも間違ってしまったらぱんつに手をかけてしまいそうのだ……。
いかん、それだけは絶対にダメだ。
パーティーメンバーとは背中を預ける仲間。彼女たちの楽しそうな声を聞いて自分を慰めていたなんてことが知られたら、一貫の終わりに違いない。
……仕方ない。
「……ちょっと外に涼みに行こう」
そうすりゃ多少は冷静になれるはずだ。頭も、股間もな。
冒険者ギルド直営の宿泊施設とだけあって、設備は上々、清掃も行き届いていると思う。
埃一つ落ちていないであろう廊下を進み、フロントを通過する。
俺は宿の入り口横に並ぶガーデンベンチへ腰をかけた。
背もたれに体を預け、夜空を仰いで息を吐く。
「ふぅ……比較的に安定した気候とはいえ、夜はちょっと冷えるな」
肌寒いとまではいかないが、羽織るものくらいはあっていい。ローヴェニカの夜は一年を通してそんな感じだ。
……ふぅ。本当に長い一日だったな。改めて思う。
追放されて、アモネと出会って、キャリーに出会って、ダンジョン攻略して……。
そう言えばディオスたちは今日どう動いてたんだろう? C級ダンジョンですれ違ったきりだけど……新しい盾役はちゃんと活躍できてるのだろうか。
ディオスのことだ。無理難題をふっかけて使い倒していなければ良いのだが。
夜空に瞬く星を見上げながら朧気ながら思っていると。
「あら? デリータくんじゃない。こんなところで奇遇ね」
声のする方へ視線をやると、なんとウィズレットさんが立っていた。
「ま、まさかギルドカウンター以外でウィズレットさんと会うとは……」
「何よ、その顔。私がここにいちゃダメな理由でもあるわけ?」
隣座るわね、とウィズレットさんが腰をおろす。
「ダメというか……どうしてここに?」
「ここは冒険者ギルド直営の宿泊施設よ? 職員である私がいても不思議じゃないでしょう?」
あーそっか。一応職員さんも同じ括りに入るもんな。それなら理解できる。
……いや、んなことはどうでもいい。
「あ、あの……ウィズレットさん、湯上りですか……?」
「ええそうよ。ちょっと涼みにね。あなたも?」
手のひらでパタパタと顔を仰ぐ彼女を見て……俺は思わずドキッとしてしまった。
まだ湿り気の取れない水色の髪が垂れ下がる。普段の制服姿からは想像もできない、薄いピンクのドレスから伸びる手足はすべらかで。
本当に暑いのだろう、額に浮かぶ汗がしずかに滴った。
だが気に留めない。呆然と夜を受け入れるような瞳がどこかを見つめていた。
そして……ギルドの制服では決して目にすることのない胸元。
ドレスの寝巻にもう一枚羽織っているとはいえ……その膨らみは十分にわかる。もしかするとアモネよりも――
「デリータくん!」
「なっ、なんですか⁉」
やばい、ジロジロ見ていたのに気づかれてたか……?
しかし焦る俺の予想は意外な形で裏切られることになる。
ウィズレットさんは顔を真っ赤にして目を逸らして、俺の服の袖を掴み。
言葉を出そうとしては引っ込めてを何度か繰り返した後にこう言った。
「こっ……今夜だけでいいから……わ、わ、私の恋人になりなさい!」




