第059話 誰がひょろがりだ! お前らがでかいだけでこっちが普通だよ!
日本の我が家に帰って初日は母親に電話したり、ヘイゼルとお出かけしたりした。
2日目は3人で買い物に行った。
食料品やヘイゼルの家に持ち込めそうなそうなものを探したり、今後、こっちの家で3人一緒に住む時を考え、家具や家電なんかを見ていった。
今後の生活を考え、品物を見るのはめっちゃ楽しかったが、散財のヘイゼルと守銭奴のフィリアがたびたび、ぶつかりそうになるのを阻止するのが大変だった。
「どっちがいいかなー?」
「迷ったら高い方でしょ」
「は?」
「こ、こっちの方が性能的にいいんじゃないかなー? 3人だし!」
どれが誰のセリフかは一目瞭然だ。
もうね……
大変。
3日目は家でゆっくりした。
フィリアのために料理本を翻訳したり、弱いくせにやたらトランプをしたがるヘイゼルを相手にしたりして、まったりと過ごした。
なお、この3日間、俺は一人で寝た。
まあ、しゃーない。
俺のベッドは3人で寝れるほど大きくはないし、両親のベッドは俺も同意見だが、2人が拒否したのだ。
俺達は休息し、心と体を休め、4日目の朝となった。
「しかし、私らがあっちに行っている時にお義父さまやお義母さまが帰ってきたらどうするの?」
フィリアがバナナが1本入ったケーキを食べながら聞いてくる。
「書き置きを残しておくわ。さすがにそれを見て、海外に遊びには行かんだろ」
「そういえばさ、そのスマホって、向こうでは使えないの? 電話できるんでしょ?」
「圏外だから無理だな。詳しくは聞くな。俺も知らん。実を言うと、俺はかなり常識がない」
機械は苦手だし、怪しい商売ばっかしてたもん。
税金?
何それ?
「まあ、異世界だし、無理なんじゃない? 水見式って通信魔法があるけど、あれも距離が遠くなると精度が落ちるし」
さすがはヘイゼル師匠。
魔法は詳しい。
「そんなんあるん?」
「難しいけどね。私は無理」
「じゃあ、俺も無理だわ」
「いや、あんたはできると思う。ソフィア様は水の巫女だし」
そうなんかな?
関係あるか?
「どっちみち、お前が教えられないんじゃ無理だわ」
というか、そんなに必要とは思えん能力だ。
「魔法ってすごいねー」
フィリアが感心したように言うが、回復魔法も大概ヤバいよ。
「フィリアって、回復魔法しか使えないの? 攻撃魔法は?」
「攻撃魔法はないね。覚えても仕方がないし」
「いや、護身用としているだろ」
魔法使いは杖と口を塞がれたら終わりらしいけど、ヒーラーなんか最初から終わりじゃん。
「基本的に一人で外に出ないからね。町の中では修道女は滅多に襲われないし」
「そうなの?」
「騎士団が怖いからねー」
あ、報復か。
あのじいさんの若いバージョンがやってくるんだ。
「なるほどねー」
「まあ、リヒトさんにスタンガンをもらったから大丈夫だよ」
俺は2つあったスタンガンうち、1つはヘイゼルにあげたが、もう1つはフィリアにあげた。
まあ、護身用だ。
俺が持っててもあんま意味ないしね。
だって、フィリアやヘイゼルは拘束される可能性が高いけど、俺は多分、剣でグサーだもん。
「使い方は大丈夫か?」
「大丈夫。そんな難しいもんじゃないしね。試すわけにはいかないから使ってはないけど」
試す場合の相手は俺か?
嫌だわ。
色んな意味でショックだわ。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
俺はやきそばパンを食べ終えたので立ち上がる。
「そうね」
バナナケーキを食べ終えたフィリアも立ち上がり、俺の横にやって来た。
「そうしましょう…………よいしょっと」
カレーパンを食べ終えたヘイゼルが横に置いてあったマットレスを引きずって、こっちに来る。
「お前、一人だけ、それを持っていくんだな」
「ずるい……」
俺は宿だし、フィリアは教会の宿舎だからまだ、マットレスを持ち込むことは出来ない。
だが、ヘイゼルは普通に家だから持ち込むつもりなのだ。
「さっさとウチに越してくればいいじゃない」
「まだお前の家の整理も終えてないだろ」
「まあ、床に敷くって方法もあるけど…………さすがに」
何か嫌だわ。
あっちの世界の家って土足なんだもん。
よーし! 今日の夜はヘイゼルの家に行って、泊ーまろっと。
「なるべく早く片付けるわよ。さあ、行きましょう。このマットレス、重いのよ」
「はいはい」
「氷も売らないとだしねー」
俺はヘイゼルが持つマットレスを半分持ってやりながらアプリを起動した。
◆◇◆
俺達はヘイゼルの家に帰ると、マットレスをヘイゼルのベッドがある寝室まで運び、家を出た。
そして、フィリアに案内されて、同じ商業区にある肉屋に到着した。
「おじさーん、いるー!?」
フィリアが店の奥に向かって声をかけた。
すると、奥からおじさんが出てくる。
もちろん、マッチョだ。
この世界、マッチョばっかりやんけ!
「おー! フィリアちゃん、相変わらず、かわいいねー」
そら、そうだ。
ふふん! 俺の嫁(近いうち)!
「ありがとー。前に言ってた氷を持ってきたよー。金貨12枚のやつ」
「10枚なー」
肉屋のおっさんは速攻で訂正した。
ホント、この子は…………
「そうだったねー。持ってきたけど、どこに出せばいいの?」
フィリアは悪びれもせず、話を進める。
「あー、じゃあ、裏に来てくれ。ってか、氷は?」
俺らは当然、何も持っていない。
氷はヘイゼルの収納魔法の中だもん。
「秘密ー」
「まあ、いいか。じゃあ、ついてきてくれ」
おっさんがそう言って、店の裏に回ったので俺らもついていく。
店の裏に行くと、馬車が用意してあった。
「あれ? ベストタイミング?」
あまりのタイミングの良さにフィリアが首を傾げる。
「いや、まあ、そうと言えば、そうだが、肉は常時余るくらいに入荷するからな。1日に5回は別の町に出荷してる。これは本来なら近くの村に出荷予定だったが、氷があるなら東のリードに変更するわ」
リードは猫ちゃんが行っている港町だ。
「いいの? 村の人が困らない?」
「いいよ。すぐに違う馬車を用意するから」
すぐに用意できるってすげーな。
マジで肉が有り余ってんだなー。
「えーっと………………じゃあ、この箱に氷を入れてくれ」
おっさんは馬車の近くに積んであった空箱を2つほど持ってきた。
「はーい。あ、おじさん、あっち向いてて。今からこの2人が魔法で氷を作るから」
収納魔法を言うわけにもいかないからそういうことにしてる。
ヘイゼルはともかく、俺は氷なんか作れないけど、まあ、嘘も方便だ。
「氷を作るってすげーな。でも、なんで見ちゃダメなんだ?」
「魔法使いは秘匿主義なんだよ」
「へー。そうなんだー」
魔法使いは数が少ないからこの言い訳でいいらしい。
まあ、最悪、恥ずかしがり屋で通すつもりだった。
「そうなんだよー」
「ふーん、ところで、こいつらは?」
おっさんが改めて、俺とヘイゼルを見る。
「私の旦那(予定)とその正妻(予定)」
「いや、正妻はあんた」
「やだよ」
「私だって嫌よ」
マジで正妻の押しつけ合いをしとるし…………
何も知らないおっさんが可哀想な目で俺を見とるし…………
「ま、まあ、わかったよ。とりあえず、おめでとう。今日は初日だし、お祝いも兼ねて金貨12枚にしよう!」
おっさん…………
なんて良い人なんだ。
でも、俺をそんな目で見るんじゃない。
「おー! さすがはおじさん! じゃあ、やるよ。あっち向いててー」
フィリアがご機嫌にそう言うと、おっさんが箱とは反対方向を向いた。
すると、ヘイゼルが収納魔法から氷を出し、箱を満たしていく。
1つ目の箱が終わり、2つ目の箱に氷を入れ終わると、ヘイゼルがフィリアを見て、頷いた。
「おじさーん、終わったー」
「はえーな、おい――って、マジだし!」
おっさんは振り向くと、箱に入った氷を見て驚愕する。
「すごいでしょー?」
「すげーわー。これを安定的に納品してくれんのか?」
「3、4日に1回かなー。私らも冒険者だしねー」
いつ帰るかわからんし、帰ってもすぐに戻ってくるとは限らんからなー。
「そうか…………まあ、10日に1回でもありがたいわ。あ、これが金貨12枚な」
おっさんはそう言いながらフィリアに金貨を渡した。
「まいどー」
「いやー、これは助かるわ。お前らもありがとよ」
おっさんは俺とヘイゼルにも礼を言ってきた。
「お安い御用よ」
「あ、馬車の中で氷を作った方が良かったですか? このままだと重い……です…………よ」
俺は声がどんどん小さくなる。
何故なら、氷が詰まった箱をおっさんは軽々と持ち、馬車に載せたのだ。
「こんなもん軽いだろ」
ケッ! マッチョめ!
「ヘイゼル、筋力が上がる魔法ってない?」
「あるにはあるよ…………」
それだ!
「そんなもんより、肉を食って鍛えろよ。兄ちゃん、冒険者だろ?」
うわーん。
この世界の男、きらーい。
よし! 明日から腕立てをしよっと。




