第116話 エスタへ
イレーヌさんに殴られた翌日、アルトの町に帰ってきた俺達は出発の準備と確認を行い、家でゆっくりと過ごした。
そして、出発の日、朝ご飯を食べた俺達はゲルドとの待ち合わせ場所である北門へと向かう。
俺やフィリア、ヘイゼルはいつもの格好だが、レティシアとイレーヌさんは服装が違っている。
レティシアはその辺の町娘と変わらない質素な格好だし、イレーヌさんは革の鎧をつけた冒険者スタイルだ。
俺は女子4人の男子1人のハーレムパーティーだなーと思いながら歩いていると、北門で待っているゲルドを発見したため、手を挙げて近づいた。
「よーす」
「おー、旦那。よろしく」
「ゲルド、こちらがレティシアとイレーヌさんな。そんでもって、レティシアは今日からお前の娘な」
俺はゲルドに2人を紹介する。
「ものすごく恐れ多いんだが、まあ、しゃーないわな…………殿下、イレーヌ様、よろしくお願いいたします」
ゲルドが跪いて挨拶をした。
「よろしくお願いいたします。あの、そういうのをされるのはちょっと……」
お忍びなのにな。
「もちろん理解しております。まあ、最初の挨拶ですよ。あとは普通にしゃべります」
「なら良いのですが…………」
「まあ、そこまで厳重にする必要はないよ。俺はエスタの商人だからな。普通に国に帰るだけだし、すんなり国境を越えられる」
ゲルドが敬語をやめ、説明する。
「俺の通行手形はどうする?」
「旦那は前にそれを使って嘘ついただろ。今度はやめた方がいい。今回は俺に任せろ。国を出るのはめんどいが、帰るのは割かし簡単なんだよ」
へー。
そんな感じなんだな。
「じゃあ、お前に任せるわ」
「おう。それよか、旦那夫妻の帰りはどうすんだ? また、俺が送っても良いんだが、時間がかかるぞ。報酬の砂糖の売買の仕事もあるし」
「帰りは当てがあるから大丈夫」
帰りは父さんに送ってもらえばいい。
両親もさすがに沖縄から帰っているだろうし、最悪、俺達が沖縄に行ってもいい。
ちょっと行ってみたいし。
「ふーん、まあ、いいか。じゃあ、出発するから乗ってくれ。旦那達が乗った乗合馬車よりかは良いやつだが、エスタの道は悪いから気を付けろよ。何かあったら言ってくれ。前回のような急ぐ旅じゃないし、休憩はこまめにいれる」
「頼むわー」
休憩は大事!
「旦那に言ったんじゃないんだが…………相変わらず、文句が多そうだな…………」
「すみません、ゲルドさん、もう1人、文句を言う人がいます」
呆れているゲルドにフィリアがヘイゼルをチラッと見ながら言う。
「多分、もう1人いると思うぞ」
俺はチラッとレティシアを見た。
「…………まあ、報酬がいいから我慢するわ。怒る前に言ってくれよ」
ゲルドも納得したところで俺達は馬車に乗り込み、出発した。
ロストまでの旅で活躍したクッションをレティシアとイレーヌさんにも渡し、お尻の痛みを和らげながら進んでいく。
うるさいかなと思っていたレティシアは初めての馬車が楽しいようで、はしゃいでいた。
俺もフィリアとヘイゼルと話しながら過ごし、快適の旅を楽しんでいる。
ゲルドは最初に言っていたように、こまめに休憩を入れてくれたし、夜になると、キャンプモードなレティシアは楽しそうに笑っていた。
だが、2日目になると、レティシアの笑顔が少なくなっていく。
3日目になると、ポツリと『暇ね』とつぶやき、膝を抱えだした。
そして、4日目になると、完全に飽きてしまっていた。
「マジでつまんない。退屈すぎ」
移動中の馬車の中でレティシアが文句を垂れる。
「だから言ったじゃん。めっちゃ暇だし、クソつまんないって」
「よく考えたらあっちの世界だと、ここまでの長旅ってないもんね。飛行機や電車があるし」
「俺らはお前に会うために20日も馬車に乗ってきたんだぞ。俺らをありがたがれ」
初っ端から護衛がいなくなるというハード旅だった。
「20日はすごいわ。10日も耐えられそうにないのに」
いや、耐えなさい。
今回はゲルドがいるから日本には帰れないんだぞ。
「しりとりでもするか?」
「つまんないわよ。しりとりなんか、もって1時間でしょ」
「じゃあ、寝てろ」
俺は酒でも飲む。
「寝れないわよ。よし! 海外ドラマでも見るか!」
ん?
「ドラマ?」
「そう。長いやつ」
レティシアは魔法袋の中からノートパソコンとDVDを取り出した。
そして、クッションの上に置いて、セットすると、イレーヌさんの膝の上に座って、見始める。
「お前、賢いな…………」
俺はまったく思いつかなかった暇つぶし方法を見せつけられて、驚愕する。
「え? あんた、気が付いてなかったの?」
ヘイゼルが俺を変な目で見た。
よく見たらフィリアもだ。
「お前ら、思いついてたん?」
「うん」
「真っ先に思いつかない?」
あー…………言われてみると、否定はできない。
「言えよ」
なんで黙ってんだよ!
「いや、私達に気を使ったのかなって」
「うん。私達は言葉がわかんないから映像を見せられても言葉がわかんないし」
自分1人で楽しむのは最低っぽいな。
「確かにそうなるな。俺、1人で見る勇気はないわ」
そう考えると、レティシアってすげーな。
イレーヌさんが言葉がわからないのに平気で見始めた。
「そ、そんな目で見ないでよ…………わかったわよ。見なきゃいいんでしょ!」
俺達がじーっとレティシアを見ていると、レティシアは気まずそうにイレーヌさんの膝から降りる、
「いえ、姫様、よろしければ、ドラマとやらを見ながらでいいので言葉を教えてください。私も異世界の文化を知りたいし、見たいです」
さすがは騎士。
100点満点の答えを出した。
「そ、そう? じゃあ、見ようか」
レティシアは嬉しそうだ。
「騎士ってすごいなー」
「ホントね」
「リヒト、あんたも私らに通訳してよ。暇だし」
それもそうだな……
しかし、海外ドラマの翻訳版を異世界で翻訳すんのか……
伝言ゲームみたいだな。
俺達は海外ドラマで日本語の勉強という謎の勉強をしながら時間を潰すことにした。
だが、これは思ったより時間を潰すことが出来た。
海外ドラマの字幕版なので、画面の下に書いてある言葉を読めばいいだけだし、異世界の話だが、思ったより3人に通じたのだ。
しかも、俺が男性の言葉を読み、レティシアが女性の言葉を読む役割をすると、結構、わかりやすかった。
まあ、主人公が男のため、俺負担が大きいのは仕方がない。
俺達はゲルドの『こいつら何してんだ』の視線を無視し、海外ドラマで時間を潰していく。
そして、ついに関所に到着した。
関所に着くと、ゲルドが馬車を止める。
「旦那、ちょっと行ってくる」
「賄賂か?」
「仕事を頑張っている人への心付けだよ」
つまり賄賂じゃねーか。
ゲルドは馬車から降りると、関所を守っている兵士のところに行き、談笑を始めた。
結構な時間をしゃべっているなって思ったらゲルドと兵士が握手をする。
「おっ! 今、金貨を握らせたぞ!」
馬車の中から外を覗いていた俺は決定的瞬間を見てしまった。
「あんた、嬉しそうね……」
レティシアが呆れている。
「お前のパパの不正の瞬間だぞ」
「この世界では賄賂は普通よ」
けしからん世界ですわ。
「旦那、話は通したから行くぜ」
ゲルドが笑顔で戻ってきた。
「悪い大人だなー」
「旦那にだけは言われたくないな…………前にここを通った時は嘘八百だったじゃねーか」
通行手形は本物なのにー。
ゲルドは馬車に乗り込むと、馬を走らせ、進み始める。
そして、関所を越えて、エスタ領へとやってきたのだった。
「ここからは揺れるから気を付けろよ。何を見てるか知らんが、酔うぞ」
「薬を飲むから大丈夫だよ」
酔い止めの薬も持ってきているのだ。
「便利なものがあるなー。各地の門で売ったら儲けられそうだ」
「売れるかな?」
俺はマネージャーのフィリアに聞いてみる。
「薬はマズいよ。薬師ギルドの領分だし、薬は下手すると、捕まる」
薬はダメか……
変な薬とかあるし、用法用量を守らないと毒だしな。
「ゲルドも飲むかー?」
「俺はいらねーよ。商人が馬車酔いしたら恥もいいところだ」
やっぱそういうのがあるのかね?
俺達は多少、揺れが強くなったものの、海外ドラマの視聴を続け、進み続けた。
なお、ずっとドラマの字幕を読んでいた俺もレティシアも演技がちょっと上手くなった。




