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「オレたちのこれから?」
「あたいたちの?」
「あたしが自分で〈回復〉を教えてあげるつもりだったんだけどね。やっぱり実際に怪我や病気を診て、それを治す経験を積むのが一番いい。エダちゃんが〈回復〉を使えることは、もう噂になってるし、神殿のほうも取りあえずは心配しなくていい。となると、施療師のとこに修業に行っても、何の差し支えもないだろうさ」
「ほう」
「施療師、ですか」
「この町にノーマっていう女施療師がいる。魔力量は少なくて、魔法の才能も低い。だけど、病気と治療と薬草に関する知識は大したもんだ。ここにひと月ほど、あんたたちを貸し出そうと思ってるんだよ」
「貸し出す?」
「ってどういう意味ですか?」
「深い意味はないよ。あんたたちは、あたしの弟子で、治療の実際を学ぶために、一時的にノーマの弟子になる。ノーマはあんたたちの〈回復〉と魔力を利用して、自分の魔法と薬だけじゃ治せない患者を治す。給料も出ない代わり、授業料も払わない。だからまあ、貸し出しさね」
「期間は?」
「どれくらい行くんですか」
「十日や二十日じゃ中途半端だ。四十日、つまり一か月でどうかと思う。まあ、先方との相談次第だけどね」
「シーラ」
「うん?」
「エダを迷宮に連れていきたい」
「えっ」
「ほう。何でだい?」
「オレが教えられる一番得意なことは、やはり迷宮探索だ。それに、エダに少し稼がせてやらないと、装備もそろえられん」
「そうだねえ。今の装備じゃ、何をするにもお話にならないねえ」
「え? 今の装備じゃだめなの?」
「だめだ。その服には、まるで防御力がない。いくら遠距離が得意でも、接近戦をしないわけにいかない。それと武器も買わないといけない。取りあえず弓と短剣だな」
「えっ? 〈イシアの弓〉は、もう返さないといけないの?」
「あの弓はやる。だが、メイン武器にはするな」
「どうして?」
「〈イシアの弓〉は威力の上限が決まっていて、いくら強く引いても一定以上の威力が出ないから、強い敵には通じない。それに〈イシアの弓〉を使ってると、普通の弓を使う距離感が狂うし、弓使いにとって最も大切な、引く力が育たない。何より、使っていれば、いずれは壊れる。そうしたら、どうする気だ?」
「そうか、いつかは壊れちゃうんだ」
「特定の装備に頼り切った戦いしかできない者は、その装備を失ったとき、死ぬ」
「え」
「それが冒険者だ」
「それが……冒険者」
「なるほどね。そういうことなら、いいんじゃないかい、迷宮探索」
「どこの迷宮がいいだろうか」
「スケルスの北に迷宮があって、そこなら近いけど、物足りないだろうねえ。やっぱりニーナエかねえ。あそこは弓も出るから、うまくすれば恩寵品の弓が直接手に入るし、そうでなくてもいろんな弓を売ってる」
「何階層ある?」
「四十五階層。ただし、いくらあんたでも、ソロで踏破はできないだろうね。エダちゃんの訓練がてらに行くんなら、いいとこ二十階層どまりかね。あそこはまともな迷宮だから、中堅どころの迷宮屋も集まる。油断しないこったね」
「迷宮屋とは?」
「迷宮専門の冒険者をそう呼ぶのさ。たいていの迷宮屋はパーティーを組んでる。たまに、現地でそのつど仲間を捜す迷宮屋もいるけどね」
「よし。そこにしよう」
「じゃあ、ノーマのところでの研修が終わったあと、一か月あげるよ。それだけありゃ、ニーナエまで行って、ある程度探索して、戻ってくることができるだろうよ。そのあとは次の薬草採取が待ってる」
「わかった」
「ノーマのところに一か月といっても、毎日行くわけじゃないからね。時々はあたしのところに顔をお出し」
「わかった」
「わかりました」
「レカンは孤児院にも行かないといけないしね」
「う」
「あたいもついてってあげるから」
「それより先に、やってもらわないといけないことがある」
「何だ?」
「できた薬を薬屋に届けてほしいのさ」
「うほうほっ」
ジェリコはやる気満々のようだ。
「それからねえ、あんたたち、引っ越したらどうだい」
「うん? どこにだ」
「それって、もしかして、一緒にってことですか」
「チェイニー商店が、ここの近くに持ってる貸家が空いてるんだ。あそこなら、ジェリコを使いに出せるしね。あんたたちの今の宿は遠すぎるし、六か月はこの町にいるんだ。家を借りちまったほうがいい」
「それはそうだな。だが近くにうまい食堂があるか?」
「エダちゃんは料理がうまいよ」
「なに?」
「えっ」
「野営の手際みてりゃわかる」
「ふむ。作ってもらえるなら助かるな。頼めるか?」
「えっ。えっ。あ、あたいが? レカンの?」
「作っておやりな」
「は、はい」
「赤くなって、まあ。うぶだね」




