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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第20話 金級昇格
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 ヴォーカの町に帰ったレカンは、その足で武器屋に行き、研ぎ上がった〈アゴストの剣〉を引き取った。

 翌日からは、薬草の処理に追われることになった。

 体力回復薬の主材料であるキュミス草は、水気のあるうちに処理をほどこさないと、薬効が抜けてしまう。

 だから、ほかの薬草の整理もしないうちに、まずはキュミス草の処理をすることになった。

 最初はシーラにやり方を教わり、あとはもくもくと作業を続ける。

 シーラのほうは、ごくわずかな時間で作業を終え、採取してきたほかの薬草の仕分けに取りかかった。

 レカンはといえば、二日目になっても、まだキュミス草の処理が終わっていなかった。

 なにしろキュミス草が採れるのは、五の月から七の月にかけてだけだ。つまり、一年分の体力回復薬を作りためておかねばならない。そう思って、つい多めに採取してしまったのだ。

 エダにも最初手伝わせたが、すぐに飽きたようで作業が雑になったので、シーラの家の掃除をさせた。

 今は庭の入り口に立って、飽きもせず、庭の毒草を相手に〈睡眠〉の練習をしている。

 これは薬草採取をしていたときニケから教えられた方法だ。

 森に生える木々は、〈睡眠〉の練習相手に最適なのだ。

 意識がないから眠りはしないが、魔法をかけたときに手応えがある。

 太く巨大な木ともなれば、その手応えは大きい。

 手前の木にかけてみたり、奥側の木にかけてみたり、移動しながらかけてみたりと、いろいろなかけかたを練習した。

 二本の木に同時に〈睡眠〉をかけることができたとき、エダは喜んだが、シーラはしかった。

「それをやると、発動が雑になるよ。しばらくは、一つ一つの相手にきちんと術をかけるようにおし。何人もにいっぺんにかけるような術は、あんたにはまだ早い」

 今は庭の薬草に〈睡眠〉をかけているが、これは魔力量が少なくてすむので、いくらでも繰り返して練習ができる。

 〈探知〉のほうも時々使って、ご近所のようすを探ったりしているようだ。

 ちなみに、ニケはまた用事で遠出をしたことになっている。

 二日目の昼過ぎ、シーラが言った。

「おや? 誰かが訪ねてきたね」

「今、忙しい。上のエダが相手してくれるだろう」

 夕方、ようやくキュミス草の処理を終えたレカンが上にあがると、エダが困った顔をしていた。

「何かあったのか」

「あ、さっき、アイラさんが来たんだ」

 アイラは、このヴォーカの町の冒険者協会の職員である。

 レカンの知るかぎり、アイラがシーラの家を訪ねたことはない。

「明日の朝、盗賊団の討伐隊が出るんだ。レカンに同行してほしいんだって」

 話を聞いてみると、二年ほど前から近隣で旅人を襲う盗賊がいて、あちこちを移動していたのだが、最近になって盗賊団が大規模化し、大きな商隊なども襲われるようになったらしい。

 この町にもかなりの被害を及ぼしており、領主の依頼により情報収集と探索を続けていたのだが、今ならこのあたりにいるはずだという場所が絞り込めたので、討伐隊を結成したのだという。

 討伐隊の主力は冒険者だ。銀級五人、銅級十二人の編成で、これに領主直属のヴォーカ守護隊隊員が六人参加する。全体の責任者は、三人いる守護隊隊長のうち、町の警邏を担当するリットンという男だが、現場の指揮をとるのは魔法使いで銀級冒険者のゼキだ。

 ゼキはチェイニー商店専属護衛なのだが、領主側からチェイニー商店に協力依頼が出たらしい。ところが、領主の側は、冒険者協会と相談して、ヴァンダムとゼキの派遣を依頼したのだが、あいにくヴァンダムは護衛任務でバンタロイに行っており、しばらく帰ってこない。

 この絶好の機会をのがしたくないので、討伐隊派遣は決定事項だが、相手は二十人前後の人数がいると思われるし、頭目が非常に強い。

 銀級冒険者といっても、戦いが強いとはかぎらない。

 そこで冒険者協会は、ニケもしくはレカンを派遣してもらえないかと考えた。だからシーラの家にアイラがやって来たのだ。

 エダから、ニケが遠出してしばらく帰らないと聞いたアイラは、それならレカンさんに参加してもらいたいと言い残して帰ったのだ。レカンは、地下の作業場のことは秘密だとエダに言っておいた。だからエダは、レカンは留守だとアイラに言ったのである。

「討伐というのは、何日かかるんだ?」

「一日ぐらいで着ける場所らしいんだけど、ようすをみる時間も入れて、全部で四日間ってことになってる」

「オレは明日は行きにくい。薬草の仕分けをして吊っておかなくちゃならん」

「そうだよね。ねえ、レカン」

「なんだ」

「あたい、行っちゃだめかな?」

 この問いかけに、レカンは即答できなかった。

 盗賊討伐となると、対人戦だ。捕縛を狙ったとしても、一人も殺さずに戦闘が終わるわけはない。

 エダには、まだ人殺しは早い、とレカンは思った。

 まだ十四歳なのだ。人の命を奪うことがどういうことなのか知るのは、もう少しあとでよい。

 しかし、エダは冒険者である。先では別の何かになるかもしれないが、今は、そしてこれからしばらくは、冒険者だ。とすれば、対人戦はさけて通れない。

 むしろ、同行者がいる今回は、よい機会かもしれない。

 しかも指揮をとるのが、あのゼキだ。

 レカンもエダも、チェイニー商店の馬車の護衛などでゼキとは顔見知りである。あの男は堅実な戦い方をするし、エダをひどくは扱わないだろう。

「よかろう。行ってこい」

「うん!」

「ただし、〈浄化〉は絶対に使うな。〈回復〉は使ってもいい」

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― 新着の感想 ―
なんだかんだエダには過保護気味になるレカン、好き
[気になる点] 生命力が上がっても寿命で死ぬの?
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