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翌日の午前中、エダとともに冒険者協会に行った。
「あ、レカンさん、エダさん。こんにちは」
「アイラさん、こんにちは」
「あれ? エダさん、言葉遣い、変わりました?」
「少しね、えへへ」
「おめでとうございます」
「え?」
「エダさんは、このたび、銀狼討伐に参加した功績により、これまでの実績と合わせ、銀級冒険者に昇格されました」
「ほんとっ。やった」
「これが冒険者章です」
「これが、あたいの、銀級冒険者章」
エダは冒険者章を両手で包んで、胸元に押し当てた。
「レカンさん。エダさんをみつめる目は、ずいぶんやさしいんですね」
「報酬はどうなった」
「はい。金貨三枚です。お受け取りください」
「ああ。ほら、エダ」
「えっ?」
「お前が討伐したんだ。この金貨三枚は、お前のものだ」
「だって、レカンが助けてくれなきゃ」
「オレはみてただけだ。お前は、その金を受け取る資格がある」
「……わかった。もらうね。ありがとうレカン」
「レカンさん」
「何だ」
「私ももうちょっと優しい目でみてくれませんか? ……いえ、結構です。それより、今回の討伐について、協会長がお礼を申し上げたいと申しております」
「このあと用事が詰まっている。またにしてくれ」
「そう言わないで、少しだけですから」
「手早くすませてくれ」
「どうぞ、こちらへ」
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協会長というのは、頭をつるりとそり上げた、筋骨たくましい男だった。老人というには少し早いかもしれないが、現役冒険者というには年を食いすぎている、そんな年齢だった。
「やあ、あんたがレカンか。すごい面構えだな。今回は、銀狼の確認と討伐、ありがとうよ」
「いや」
「まさかあんなところに銀狼が出るわけがないと思って、証言を信じなかった。あのまま放置しておいたら大惨事が起きただろう。礼を言う」
「報酬はもらった。礼を言うなら、あの依頼をテルニスには受けさせず、オレに回してきたアイラに言え。用はそれだけか?」
「いや、本題は別だ。確認するが、あんたが〈黒衣の魔王レカン〉なんだな」
「オレはレカンだ。そんな妙な名を名乗ったことはない」
「これは失礼した。あんたが、ゴルブル迷宮を二度にわたって踏破した冒険者レカンだな」
「ああ」
「何人で踏破した? あそこは、三人で行ったら主が出なかったという記録が残ってるらしいんだが」
「一人だ」
「二度ともか」
「ああ」
「ふうっ。あんた、とんでもないやつだな。それと、アイラから聞いたんだが、ニーナエを踏破したって?」
「ああ」
「まさかこれも一人でやったなんて言わないだろうな」
「四人だ」
「メンバーを訊いてもいいか?」
「オレと、エダと、アリオスという剣士と、現地で拾った剣士だ」
「アリオス? 聞いたことのない名だが、この町にいるのか?」
「今はな。すぐに出かける。一度は帰ってくるだろうが、またどこかへ出るかもしれんな。もともと各地を放浪していたようだ」
「あんたはともかく、〈千本撃ちのエダ〉がニーナエを踏破とか、冗談だろうと思っていたが、今本人をみて驚いた。以前にみかけたときとは、まるで別人だ。これならニーナエを踏破したといわれても、信じられる」
「そうか。それで用とは何だ」
「領主から、あんたを金級冒険者に推薦したいと打診がきている」
「ほう」
このときレカンは思い出した。シーラから言われていたのだ。エダが一人で生きてゆける条件を調えるため、まず金級冒険者を目指してはどうかと。
「エダも一緒か?」
「いや、あんただけだ」
「八目大蜘蛛を討伐したニケは金級をもらった。銀狼を討伐し、ニーナエを踏破したエダが金級をもらえないのに、この町と何の関係もないゴルブルの迷宮を踏破したオレだけが金級をもらえるのか?」
「ニーナエのことは、まだ噂も届いていない。それに八目大蜘蛛は、この町の経済と交通に大打撃を与えていたが、銀狼は何の被害も出していない」
「なるほど。魔獣が大きな被害を出してから討伐すればよかったんだな。次はそうしよう」
「意地悪を言わんでくれ。領主には領主の立場があるんだ」
「オレは領主を批判していない。あんたがどう思っているかを訊いているんだ」
協会長は、しばし沈黙した。
「銀狼のことは、ちゃんと領主に報告しとく。ニーナエについては、何か踏破の証拠になるようなものがあるか?」
「ないな。あそこの迷宮主は素材型だったし、持って帰った素材は魔石ぐらいだ」
「迷宮主の魔石! それをみせてくれんか」
「それはシーラにやった。土産としてな」
「そ、そうか」
「オレが急いでいるという話は聞いているな」
レカンは立ち上がった。
「あ、待ってくれ。領主が〈ハルトの短剣〉を買ってくれるそうだ。驚くなよ。なんと白金貨一枚だ。形式上はあんたから献上してもらう格好になるが」
立ち上がってドアに歩いていたレカンは、首だけ振り返って返事をした。
「あの短剣は自分で使う。人には売らんしやらん」
「またあらためていろいろ話を聞きたい」
「今日明日は予定が詰まっている。三十一日からは薬草採取に出る」
「それだ。そのことも訊きたい。あんたがどうやってシーラ師に弟子入りを、おい!」
レカンはドアを開けて歩き去った。
エダはぺこりとおじぎをしてドアを閉めた。
協会の建物を出たレカンは、ノーマのところに向かった。エダには帰っていいと言ったが、エダもノーマに会いたいというので一緒に行った。




