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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第19話 銀狼討伐
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5


「じゃあな」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「なんだ」

「掲示板に貼りだしてありますが、討伐の依頼があるんです」

「いつでも何件かはあるだろう」

「ルモイ村の近くで銀狼(サラジェ)が目撃されたんです」

「銀狼だと? 狼鬼族第一階位の強力な魔獣だな。そんなものが、こんなところをうろうろしているものなのか?」

「私の知るかぎり、いいえ。でも、この町ができる前に、このあたりに銀狼が出没していたといわれてるので、絶対出ないともいえません。ところで、その第一階位って何のことですか?」

「うん? ゴルブル迷宮の便覧にそう書いてあったが」

「ああ。そうなんですか。それ、ゴルブル迷宮の独自基準です。ほかでも階位をつけてる迷宮があると思いますが、階位のつけ方が微妙にちがってたりすると思います」

「ほう」

「冒険者協会では階位は使わないですね。地域によって出現する魔獣はちがいますし、種類が多すぎて統一した分類なんか作れません。ある場所である名前で呼ばれてる魔獣が、別の場所では別の名前で呼ばれたりしてますしね。この種族ではこれが一番強いって思ってたら、もっと強いのがいたというようなこともあるんです」

「なるほど、で、銀狼というのは、装備のいい銀級冒険者のパーティーなら倒せるのか」

 チェイニー商店の専属護衛であるヴァンダムとゼキは、銀級冒険者だった。彼らの腕と装備なら、銀狼も倒せると思えた。もっとも、レカンが銀狼と戦ったのは、ゴルブル迷宮の下層であり、地上に出現する銀狼がどのくらいの強さなのかは、よくわからなかった。

「ところが、この依頼、銅級指定なんです」

「なに?」

「依頼は正確には討伐じゃなくて、目撃情報の確認と報告が主で、可能であれば討伐するという依頼なんです」

「なるほど。だが遭遇したら戦うしかないんじゃないか」

「本当に銀狼である可能性は低い、というのが協会上層部の判断です。幸運なことに、二日間受け手がありませんでした」

「だがお前は銀狼だと思うのだな」

「はい」

「根拠は」

「勘です」

「そうか」

「さっき、テルニスが受けたいと言いました。本当に銀狼だったら危険だと言い聞かせたので受けませんでした。でも、受けたそうでした。明日も依頼票が貼ってあったら、受けてしまうかもしれません」

「報酬は?」

「魔獣の正体確認だけなら銀貨二枚。正体が銀狼で、それを倒した場合には報酬が上がります。いくらになるかは事後に決定します」

 レカンはチェイニーに使いを出した。

 留守にしたら、チェイニーから来る使いに無駄足を踏ませるかもしれない。

「わかった。依頼票をよこせ。この依頼は〈ウィラード〉が受ける」

「ありがとうございます。目撃場所はここです」

 アイラは地図を出し、場所を指し示した。

「近いな。今から行ってみるが、本格的な調査は明日になるかもしれん」

「よろしくお願いします」

 ルモイ村はヴォーカの南にある。そのさらに南側の森かと思ったら、目撃場所はルモイ村の北西だ。ヴォーカの西門からあまり遠くない。

「ところで、レカンさん、お家を買われたんですか?」

「借りただけだ」

「場所を教えてください」

 反射的に教えそうになったが、妙な依頼を持って家に押しかけられても困る。こちらが休みたい気分のときに呼び出されるのはいやだ。

「断る」


6


 レカンが家に着いたとき、まだエダは帰り着いていなかった。

 〈生命感知〉に注意を集中すると、エダとアリオスらしい赤い点がみつかった。

(ふむ)

(だいぶエダの赤い点のみわけがつくようになってきたな)

 ただし今回はアリオスと一緒に移動していたため、エダが一人で移動しているのに比べ、条件がよかった。また、今エダがいるあたりには、魔力を持った者が少ないため、みわけやすかった。もう少し練習を繰り返さないと、確実にエダをみわけることはできないだろう。

「ただいまー。レカン、先に帰ってたんだね」

「帰りました」

「エダ。討伐依頼だ」

「えっ」

「銀狼がルモイの近くに出たという目撃情報がある。放置すると危険だ」

「銀狼! あたい、とてもそんなのとは戦えないよ」

「オレと一緒だ。問題ない」

「私もご同行させていただきましょうか」

「いや。アリオスはこの家にいてくれ。もう少ししたらチェイニー商店から使いがくるはずだ。伝言を聞いておいてくれ」

「わかりました」

「レカン。晩ご飯は?」

「一晩野営するぐらいの食料は、まだある」

「えー。また野営? おうちに帰ったばかりなのに」

「冒険者とは、そういうものだ。行くぞ」



 ヴォーカの町の西門を出たレカンは、〈生命感知〉の探査範囲を前方に移動させ、銀狼の居場所を探った。

 このあたりにはずっと低位の魔物しかいないから、銀狼がいればすぐにわかるはずだ。

 いた。

 本当にいた。

 強い青い点がある。

 こんなにルモイ村に近い場所に、こんな強い光を放つ魔獣がいて、犠牲者が出ていないのだとしたら、それは幸運といわねばならない。

「エダ。止まれ」

「どうしたの?」

「千歩ほど先に、銀狼らしきものがいる」

「えっ」

「ここからは、お前が先に進め。方向はオレが後ろから指示する」

「う、うん」

「接敵したらショートソードで戦え」

「えっ」

「防御の型をアリオスから教わったんだろう」

「う、うん。でも、攻撃の型は教わってないよ?」

「どの程度防御ができるか、オレにみせてみろ。攻撃ができるなら、攻撃もしてみろ」

「わ、わかった」

 そこからはエダに先行させて進んだ。

「よし、止まれ。前方二百歩の位置に銀狼らしきものがいる。いざとなればオレが助けるが、いないつもりで戦え」

「わかった」

「では、行け」

 少し離れてエダのあとを追いながら、レカンは不安を感じていた。

 敵に近づき、〈立体知覚〉が姿を捉えたときは、どきりとした。

 尻尾を除いてエダの身長と同じほどの体長がある。

 それでも、レカンがゴルブル迷宮で倒した銀狼よりは小さいのだが、いざ姿を捉えてみると、不安は一気に増大した。

(こいつの顎ならエダの頭をかじりとれる)

 少々の傷なら〈回復〉で助けられる。

 しかし、手足を失えば、それは治せない。

 まして一撃で死んでしまえば、取り返しはつかない。

(いくらなんでも銀狼の相手をさせるのは早すぎたか)

 だが、逆にいえば、この戦いはエダの試金石となる。大きな傷なしでしばらくしのげるようなら、エダは冒険者としてやっていける。

 そろりそろりと進んでゆくエダの後方で、レカンは右手を上げ、手のひらを前に向けた。いつでも〈炎槍(バンドルー)〉が撃てる体勢だ。

(〈火矢(ベイアーツ)〉のほうが速いが〈炎槍〉の威力でなければ〈銀狼〉は吹き飛ばせん)

 前方のあの茂みのなかに魔獣が潜んでいることを、エダは気づいているだろうか。やきもきしながらレカンは、エダの前進をみまもっている。

 狼鬼族の魔獣は、身を潜めるのがうまい。エダは気づいていないかもしれない。

 そのとき魔獣が茂みから飛び出して、驚くべき速度でエダに駆け寄った。

 そして跳躍した。

 巨大な口を開いて。

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― 新着の感想 ―
やきもきしながら見守る姿は師匠というかお父さんというかw
教えなくても協会の人間ならちょっと調べりゃ家なんかすぐばれそう(笑)
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