表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は眠らない  作者: 支援BIS
第17話 ニーナエ迷宮中層
159/702

15_16_17

15


 翌日の夕食のとき、レカンはエダから、ある報告を受けた。

「なに? カガルがお前に会いにきた?」

「うん。レカンがヘレスさんと素材を売りにいってるときに、宿に訪ねてきたんだ」

 宿の名は、わざと教えていなかった。どこで知ったのだろうとレカンは考えたが、〈ジャイラ〉はこの町では英雄だ。調べる方法はいろいろあるのだろう。

「それで、あたいに、〈ジャイラ〉に入らないかって」

「どう返事した?」

「そんなことは、レカンを通してくれって言った」

「それでいい。えらいぞ」

「えへへへへ」

「成長したな」

「へへへへへ」


16


 その翌日、宿で朝食を食べたあと、〈ラスクの剣〉を預けた武器屋に顔を出してみようかと思っていると、カガルがやって来た。

「少し時間をもらいてえ」

「用事があるならここで聞こう」

 カガルは人目を気にするようにちらちらとあたりをみまわしたが、小さくため息をついて、レカンの前の椅子に座った。

「エダを譲ってくれねえか。この通りだ」

 そう言って頭を下げた。

「断る」

 カガルは懐から金袋を出してレカンに差し出した。

「白金貨が五枚入っとる。今のわしに出せる精いっぱいだ」

「断ると言った」

「〈ウィラード〉にはあんたがいる。一つのパーティーに二人も〈大回復〉持ちはいらんだろう」

「あんたが決めることじゃない」

「いい弓使いがいるのだ。紹介しよう」

「あんたのパーティーで使え」

「まあ聞け。うちの魔法使いのヴェータが、すっかりぶるっちまってなあ。もう潜りたくねえ、って言うのだ。だけんど、エダが一緒に潜ってくれるなら戦えるというのだ」

「オレには関係のない話だ」

「ヴェータは、もともと内気な子でなあ。だけんど、ものすごい魔法の才能があった。面白い話ではねえか。あんな内気な子に、千人に一人という攻撃魔法の才があったのだ。わしがどれほど苦労してあの子を」

「身の上話に興味はない。用はそれだけか」

 レカンは立ち上がった。

「わしがこんだけ頭を下げて頼んどるのに、聞けんというのだな」

「あんたは自分の都合を押し付けているだけだ。そんなやつのところにエダはやれん。いずれにしても、エダは今オレの弟子だ。弟子を売る師匠などおらん」

 カガルはしばらくレカンをにらみつけて、憤然とした足取りで出ていった。


17


 〈ジェイドの店〉で夕食をとっていると、魔法使いのヴェータがやって来て、エダの横に立った。

「エダちゃん」

「ヴェータさん。こんばんは。座りますか?」

「あたしを助けて」

「え?」

「一人じゃ怖くて迷宮に行けない。でも、迷宮に行かないと稼げない。あたし、カガルに借金があるの。たくさんの借金が」

「ヴェータさん……」

「今までは一撃で魔獣を倒してきた。一撃で倒れなくても、二撃目には倒れた。あたしが魔法を撃てば戦闘が終わった。だから怖くなかった」

 この言葉を聞いて、レカンは不審に思った。第三十一階層での戦いのあとをみるに、〈ジャイラ〉は、必殺の一撃で片が付くような戦い方をしていなかったはずである。

(待てよ)

(〈ペザントオルザム〉が一緒だったから手の内を隠したのか)

(手の内を隠したあげくに魔獣に蹂躙されたわけか)

「だけどあのとき、溶解液を浴びて、顔がどんどん溶けていって」

(そうするとヴェータというこの女が〈ジャイラ〉の切り札なのだ)

「怖くて怖くて死にそうだった。もし助かってももう生きていけないと思った」

(そういう戦い方をするパーティーはもとの世界でも多かった)

「でも、エダちゃんがあたしを助けてくれた」

(魔力増幅や攻撃魔法威力倍加の装備をそろえ)

「崩れた顔がもとの奇麗な顔にもどった」

(たっぷり時間をかけて魔法を準備し)

「奇跡だと思った」

(そのあいだ別のメンバーが敵を引きつけておいて)

「回復師のドレンさんが生きてたとしても、あんなことはできない」

(一気に敵をほふる戦い方だ)

「エダちゃんは女神様だ」

(少なくともこれぞという強敵にはその戦法でいくわけだ)

「エダちゃんと一緒なら怖くない。戦える」

(なるほど)

「だからお願い」

(この女魔法使いが使い物にならないと)

「私と一緒に来て」

(パーティとしての能力が一気に下がってしまうんだろうな)

「悪いけど、あたいは一緒に行けないです。あたいの居場所はレカンのそばなんです」

 拒絶されたヴェータは、目に涙を浮かべながらレカンをにらみ、くるっと振り返って走り去った。

「やれやれ」

 アリオスがため息をついてみせた。

「あのカガルという人も、ずいぶんあざといまねをしますねえ」

「そう思うなら、どうしてあの女を追い返さなかったんだ」

「それはレカンさんも同じでしょ?」

 ここでヘレスがこう言った。

「まことに身勝手なやつらだな。自分たちの都合しか考えていない。どんなにずうずうしい申し出をしているのか、わかっておらんのだな」

 朝のカガルとレカンの対話は、ヘレスもアリオスも、少し離れた席で聞いていたのだ。

「ヘレスさん」

「うん? なんだ」

「いえ。何でもないです」

 アリオスは、あなたも同じじゃないですか、と言おうとしたのだろう。

 確かにヘレスも身勝手な頼みをした。

 だが、レカンはヘレスに不快は感じなかった。

 カガルとヴェータには、大いに不快を感じた。

 その差は何なのだろうと考えたが、わからなかった。

 だが、考えるうちに、一つ気づいたことがある。

 迷宮のなかでカガルは言った。

「〈ペザントオルザム〉は、第十九階層に〈印〉を持っとった。わしらは、そこから一気にこの階まで来て、〈印〉を作ろうとしたのだ。事故さえなければ問題なくできたはずなのだ」

 だが、第三十一階層に〈印〉をつけてもらう依頼は、第三十階層に〈印〉を持っていることが条件だと、ヘレスは言っていた。つまり、〈ジャイラ〉が〈ペザントオルザム〉から受けた依頼は、正規の依頼ではなかったのだ。

 どちらが持ちかけたのだろう。

 たぶん〈ペザントオルザム〉のほうだ。

 自分たちは第十九階層に〈印〉があるが、第三十一階層に〈印〉をつけてもらうことはできるだろうかと。カガルに相談したか、あるいは仲間内で話し合っていたのを、カガルが聞きつけたか。

 それをカガルが安請け合いした。

 なるほどカガルが必死でレカンに頼み込んだわけだ。

(やはりあれは断っておいて正解だったな)

 もともとレカンには〈ペザントオルザム〉への同情などなかったが、なおさら同情する気が失せた。

 迷宮で起こることは、すべて自己責任である。敗北や死がいやなら、最初から潜ってはいけないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 3回も迷宮を踏破するくらいパーティとして活動してまだ借金残ってるって何したんだいったい…
[一言] 懸想してます発言的やん 人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んじまえ
[一言] 迷宮を潜っていくのに楽な道はないってことですね 〈ペザントオルザム〉は二十一階層から三十階層までの〈悪夢の中層〉を楽に攻略して稼げる三十一階層に進もうとして、中層を楽に進んだ分のしっぺ返しを…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ