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「きたきたーっ」
デザートが運ばれてきた。小さな歓声で迎える。
「わー、これまた美味しそうっ」
「そうね」
私の頼んだ桃のケーキは、桃なのに果実が赤いことを除けば実においしそうだ。味は桃だし、小粒であることを無視すればいい。
チルラちゃんのレモンケーキは爽やかなオレンジ色で美味しそうだし、シューちゃんのアップルパイはこんがり焼けていて、甘い匂いが私の方まで漂ってくる。
「うん。さくさくしてて、美味しい。私、パイは結構なんでも好きかも」
「いいなー、ねぇシュリ、私の一口あげるから、一口ちょうだいよ」
「いいよ。ユウコもしようね」
「ありがとう! シューちゃん愛してるぅ!」
ああ、なんて気の利くいい子なんだろう。お姉ちゃん冥利に尽きます。暖かいものは匂いがねぇ、やっぱりいいわよねぇ。
「あ、そうそう。そういや、シュリ、私に相談してたあの件はどうなったの?」
「うん? ああ、うん。駄目だった」
「えーっ、そうなの。………そう、元気だして」
「大丈夫だよ」
? 何かシューちゃんはチルラちゃんに相談していたらしい。駄目だったと答えるシューちゃんは全然気にした様子もないので、大したことではないと思うけど。
私、シューちゃんに相談とか全然されてないような。少なくとも重要なことは記憶にない。もしかして私、信頼度低い?
「しゅ、シューちゃん」
「あ、ユウコは聞いちゃ駄目よ。つい聞いた私も悪いけど、今のは聞かないふりしてね」
「えー」
「デリカシーがないわよ」
「……はい」
チルラちゃんに怒られた。しょんぼり。
気になりつつも、デザートを美味しくいただいてから私たちはお店を後にした。
ま、近いからこそ相談しにくいこともあるでしょ。気を取り直して、午後も元気に食べ歩きをした。
○
「じゃあ、しばらくはまだいるのね?」
「うん。えっと」
「うーんと、後5日、うん。5日後に出発するわ」
「じゃあ、あと二回くらいは遊べるわよね!?」
「もちろん」
チルラちゃんとはお昼はできるだけ一緒して、明後日も一緒に遊ぼうと約束をして別れた。
「いいの?」
「うーん、でもほら、帰っちゃったら移動大変だものね。一週間くらいいいでしょ」
「うん。私は嬉しいな」
「ん!? というか、今思ったのだけど」
「え、なに?」
「今からでもシューちゃん家に行って、また空き時間ごとにこっちにくればいいのでは?」
当たり前に滞在前提になっていたけど、考えたら隣の家に行くくらいの気軽さで移動できるのだ。こだわる必要はない。
「……あー、なるほど。確かに、考えつかなかった」
「よし、さっそく行きましょう」
私は一旦とった宿屋に行って結花奈とシーコさんと合流して、さっそく提案した。
「んー? 別にいいけど、向こうって今何時なの?」
「え? あー、時差か」
「? じさ、とはなんだ?」
「なんか、聞いたことあるよ。あれじゃない? 大陸が違うと微妙に時間がずれているってことだよね。確か、長距離移動の船が出発と到着で時計をあわせるんだよ」
「まあ、そんな感じ」
「なるほど。だが、そんなに違うものか?」
この世界では海は船移動、陸は馬移動しかない。時計も各建物に一つとかで、常に時計を見る習慣もない。到着してからずれてると気づいても、体内時計は狂わないだろう。
めちゃくちゃ早く移動しないことには、時差なんて体感しようがないしね。というか私も体感したことないし。
「まあ、物は試しよ。ちょっと行ってみましょうか」
「そだね」
「うん……おじ様と久しぶりに会うのは、ちょっと緊張するな」
「そうだね。私も緊張するよ」
「なんでだよ。ちょっとキイ、変なことしないでよ」
「もちろんだとも」
手を繋いで輪になって、踊らずに転移した。
一瞬で景色が雪景色に変わる。懐かしささえ感じる、シューちゃんの家。頭を空へ向けなければ先端が見えない高い塔。
「うわ、凄い雪。寒っ」
すぐに温もりの魔法を四人にかける。ふう。危ない。気温のことを考えてなかった。
「わ、あ、あれ、なんか、変な感じ…するよね?」
「………もしかして、朝じゃないか?」
「あー、そうっぽいね」
向こうが夜の6時前だったのが、こっちでは朝か。思っていた以上に時差があるらしい。いや、そうでもないのか。基準を知らないからよくわからない。
「一旦、部屋に入って時間を確認しましょうか」
「うん。みんな、どうぞ入って」
「ここがシュリさんの家かぁ。何だかわくわくするな」
「普通の家だよ」
「いや、見た目からして普通じゃないよ」
シューちゃんが鍵をあけて、中にはいる。中は誇りがたまったりはしていなかった。きっと定期的に掃除をしてくれているんだろう。
「あ、そうそうシューちゃん。先にひとつ確認したおきたいんだけど」
「なに?」
暖炉に火をいれながらシューちゃんが振り向く。
「おじさんの名前ってなんだったかしら? ほら、えーっと、ホーイさん?」
「ヒューイね」
「そうそう。いや、ほら、ちょっとど忘れしちゃってね」
伸ばし棒が入っていたことは覚えていたのよ、確実に。
「まだ朝の6時か。ほぼ12時間違いと思っていいのかな」
「うん。さすがにおじさまに迷惑だし、1時間くらい休憩してからいこか」
「7時でも早くない?」
「そうねぇ、ちょうど朝ご飯だろうし。もう少しずらした方がいいんじゃないかしら」
「うーん。そっか」
「ひとまず、お茶をいれるわ。頃合になるまでゆっくりしましょう」
「うん。そうしよっか」
勝手知ったる台所で久しぶりに湯を沸かす準備をする。棚をあけて、おっと、茶葉がない。
「ちょっと一瞬、お茶買ってくるわ」
私は財布だけ掴んで、下の街まで転移した。
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