162 帰る日まで
「じゃあ、まず魔法陣で帰るとして、あちこちに作るとかどう? 異世界人にだけ反応するとか」
「いいけど、でもそれって見つけるの大変だよね? 召還魔法陣でよばれたんじゃない人にはどうやって知らせるのさ」
召還魔法陣じゃない人向けにいっぱい作ろうと思ったんだけど、あっさり結花奈に指摘された。
考えたら私たちも旅で結構時間かかったし、この村に辿り着いたのもたまたまだしねぇ。
「魔法の国の図書館に位置を記した本を置いてもらうとか、どうかな?」
「それなら、別に魔法陣はひとつでもいいんじゃないか? それに事故で呼ばれた人が図書館までたどり着くかな?」
シューちゃんが考えながら出してくれた案も、あっさりシーコさんにつっこまれた。
でもその案はわるくない。全国の図書館に、はでも無理か。でも、それはそれとして別の方法を考えれば。魔王が倒された時に帰還が選択できるとか……うーん?
「うーん。あ、すごいこと思いついた。これで全部の問題解決だ」
「え、なになに?」
結花奈が手を鳴らして笑顔で言った。問いかけるとにこーと笑いながら高らかに宣言した。
「最初にチュートリアルつければいいじゃん!」
「ちゅーと、りゃーう?」
「何だい、それ? 2人の国の言葉かな?」
「えっと、初回説明、みたいな感じかしら。チュートリアルねぇ」
異世界人がこちらの世界に来た瞬間に、帰り方を説明するガイダンスが本人にだけ聞こえる、とかってことね。
それいいかも。この世界の魔王はゲーム基盤な訳だし、親和性も高そうね。時間のことも説明すれば、慌てて帰ろうとはしないだろうし。
「来た瞬間に説明のガイダンスが本人に聞こえるようにしましょう。そうすればさっきの、考えただけで帰れる方法一つでいいわ」
「うーん? 2人は納得してるみたいだけど、なんだか、今一想像できないなぁ」
「私もだ。誰がその説明をするんだ? この世界のどこかで転移してきた人を即座に見つけるのもどうするんだ?」
えーっと、システム音声、としか。何て説明しましょう。私の中ではイメージがあるし、できると思うけど。
「神様だよ。あるいは天使かな。そういう存在をつくるんだ」
「ああ、なるほど」
「天使までつくれるなんて、凄いね。でもユウコは神様みたいなものだし、当たり前か」
納得された。そんなので納得するの? うーん、でもまあ、神様というのも言い得て妙ね。
「まあ……そんな感じね。実際にどういう感じにするか、もうちょっと詰めましょうか」
○
異世界から人間が来た瞬間、頭の中に他の人には聞こえないガイダンスを流す。
いらっしゃいませ。あなたは異世界人としてこの世界にやってきました。この世界は元の世界と時間の流れが違います。ここでの一年は元の世界の一秒です。
また元の世界への帰り方は簡単です。帰りたいと頭の中で願ってください。ちょうど30日後、あなたは元いた世界の望む場所へ戻れます。10日前、3日前、24時間前、1時間前、5分前に都度お知らせします。また1分前からカウントダウンを開始します。0になった瞬間に戻ります。
0になる前であればいつでもキャンセルすることができます。何度でも帰還を希望する度に1ヶ月のカウントが始まりますので、安心してください。
この世界では魔法が生活に密着しています。あなたもまた魔法を使えます。いくつかの魔法はすでに修得済みです。100年周期で魔王と魔物が現れます。慌てずに身体能力上昇と口にしてください。逃げ切ることが可能です。その他の魔法に興味がある場合は自分で修得してください。
以上で初回ガイダンスを終了します。存分に異世界生活をお楽しみください。
「………なんだか、思った以上にゲームガイダンスみたいになったわね」
「うーん、まあ、いいんじゃない? 最低限必要なことはわかりやすいし」
「いらっしゃいませ、とか、いる?」
「いいじゃん。めっちゃいるよ」
「2人がそれでいいなら、いいんじゃない?」
「まあ、帰り方はわかるし、いいんじゃないか?」
現地組2人は消極的な賛成だ。まあ、どこまで必要かはなってみないとわからないものねぇ。
この世界に来た人がどう過ごすのかはあくまでその人の自由だ。私にできるのは自由に帰れるようにするだけだ。
「この方法なら特に根回しも必要ないし、じゃあさっさとしてしまいましょうか」
「どーぞー」
よし、じゃあ。
私は頭の中でさっきの文章を復唱し、ガイダンスが流れるように奇跡を実行。また異世界人はルールにのっとり、自由意志で自分の世界の好きな場所へ帰れるようにした。
単純に元の場所でもよかったけど、自分の家に帰りたかったし、そのくらいはオーケーでしょ。
「できたわ」
「実感ないなぁ。とりあえず、さっそく帰還設定する?」
「え」
「1ヶ月あれば、十分でしょ」
1ヶ月は何となく、それくらいなら長すぎず短すぎないかと思っただけだ。でもシューちゃんと1ヶ月後に別れるとしたら、それはあまりに短すぎるように感じられた。
だけど、じゃあ一年なら長いのかというと、そんなことはない。一年だって短すぎる。なら、1ヶ月で覚悟を決めるしかない。
「……そうね。同時に言いましょうか」
「うん」
「せーの」
「元の世界に帰りたい」
『異世界人の帰還意志を確認しました。これより一ヶ月後、望んだ場所へ帰還します』
ガイダンスが頭の中で流れた。そう言えば音声は設定しなかった。聞き覚えのあるような、ないような、不思議な声だ。
「うわ、優姉の声じゃん」
「え……え、マジで?」
「マジで」
「うわー……なんか、恥ずかしい」
「いいじゃん。別に」
私の声がこれから流れ続けるとか、どうせ誰かわからないとはいえ、恥ずかしいなぁ。私こんな声だったのか。
「ユウコ、成功、したの?」
シューちゃんが恐る恐る尋ねてくる。その顔は不安に満ちていて、私はそれに気づかないふりをする。
「ええ。成功だわ」
「そっか……残り一ヶ月後、よろしくね」
「ありがとう。よろしく、シューちゃん」
ちゃんと笑えているか自信はない。だけどシューちゃんが頑張っているんだ。私が泣くわけにはいかない。
笑顔で別れよう。それがいい。
「あ、でも考えたら、シリルリさんには一ヶ月で出るって言ったし、ここを出る時から一ヶ月にしましょうか」
「あー、まあ、いいんじゃない。じゃあ、キャンセル」
「キャンセル」
『帰還設定のキャンセルを受理しました』
おーし、キャンセルもバッチリね。これで帰還は完璧ね。いやぁ、我ながらいい仕事したわ。面識はないけど、前勇者のケイタさんみたいな存在が増えるのはイヤだものね。
○




