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 結花奈の言葉に私はとっさに反論しようとして、口を開いたまま止まった。


「……」

「そんなの無理、とは言わないの?」

「……無理なんて、思わないことにしたの」


 それは今一番やってはいけないことだろう。私は自信家にならなければならない。世界すら私の思い通りだと思わなければならない。

 だからこう言うのが正しい。


「だけどそんなことは、できないわ。やりたくないの」

「……なんで? シュリはきっと、何もかも知らず、親のいなかったことも知らず、幸せな人になれるよ」

「それは………でも、間違ってるわ」


 私はきっと、人が生き返るなんて信じられないだろう。だけどそれとは関係なく、それはいけないことだ。

 私の力は世界すら変えられる。だからこそ、変えてはいけないことがある。


 ああ、そうか。


 私は今まで自分が恐れていたものの一部を自覚した。怖くてたまらなかった。それは自分自身が怖い。私の力が怖い。


「私、この世界のこと好きよ。子供が考えていても、めちゃくちゃでもいいわ。大好き。だから、大事なことを変えたくないわ」


 異世界人が帰れるように世界を書き換えることには抵抗はない。だけど死人が生き返るようにしてしまうことはいけない。大きな差がある。

 それは私の主観による価値観でしかないかも知れない。だけどそれこそが、もっとも重要だ。私は自分自身を信じないといけないんだから。


「だからそんなことはしない。だけど、そうね。シューちゃんが望むなら、少しくらい世界を変えるのもいいかもね」

「そう。ま、よく考えなよ。例えば私たちの後の勇者が帰れるようにしてあげるとかさ」

「ああ、なるほど」


 そう言う、この世界の人に関わらないことならいくらでも抵抗はない。結局のところ、私はやっぱりこの世界の人間ではない。この世界のことは、この世界の人が決めるべきだ。

 もしシューちゃんやシーコさんが望むなら、案外小さなことなら簡単に叶えてしまうかも知れない。私と結花奈は、どこまでいっても、異世界人なんだ。


「そうね、ヒビキちゃん?がめちゃくちゃにした分を、少し整えるくらいはしたほうがいいかも知れないわね」

「うん。いいんじゃない?」

「軽いわよ。私今、結構重大な決意していたわよ。いや、決意というか、意識改革?」

「うん。さっき言ったじゃん」

「え?」

「意識を変えるために提案するってさ」


 そう言えばそうだ。結花奈の言葉があんまりに衝撃的だから、その前の言葉が霞んでいた。

 というか、本当にあっさりと変えてくれたわね。私が無意識に避けていたことを、直球で、だけど考えもしない方向から投げてくるから、向き合わざるをえなかった。


「結花奈、ありがと。好きよ」

「どういたしまして。私も好きだよ」


 こんなにも何の飾り気も気負いもなくあっさりと、私を支えてくれる。そんな素敵な子が私の恋人であることが、本当に頼もしく思えた。

 結花奈がいれば、私はきっとなんでもできるだろう。結花奈が隣で手を繋いでくれるなら、私は必ず元の世界へ帰れるだろう。

 うん、自信が持てた。


「結花奈、そろそろ膝枕交代しましょ」

「えー」

「なによぅ、いいじゃない」

「仕方ないなぁ。今日は添い寝をしてやろう」


 結花奈はだるそうに起きあがってから、浮き上がって布団をめくった。


「うーん。ま、いいわ。許可します」

「えっらそーに。私のこと大好きなくせに」

「なによー。結花奈だって私のこと大好きじゃない」

「うむ。よきに計らえ」


 全く意味がわからないわ。ま、いいか。そういう軽さも、結花奈を構成する好きなところなんだから。

 その夜、私は結花奈を抱きしめて眠った。









「さて、諸君。休み明けだからと言って弛んでいないかね?」


 翌日、朝食を終えてから家を出ると結花奈が振り返って指を振りながら先生ぶった。


「はいはい。そう言うのはいいから」

「ノリが悪いなー」


 特に決まってはいないけど、外で特訓するのが定番みたいになったのでなんとなく歩いている。


「今日は何をするの?」

「そーだなー。考えたら、もう触らなくても転移できるし、ちょっと難易度あげてみようか」


 最初は触っていたけど、くっついてない石を纏めて移動させられたから、触ってないといけないという制約は意識しないうちに途中からとれていた。

 でもここからさらに難しいとは、なんだろう。ちょっぴり身構えながら結花奈に続きを促す。


「どんな?」

「うん、とりあえず見える範囲ならいけるし、見えないところへの転移を挑戦してみようか」

「できるかしら……いや、できる!」

「その意気だ!」


 森の入り口まで行き、まずは結花奈に言われるまま見える山のてっぺん近くまで2人で転移した。

 先日岩の転移を練習した、少しひらけた場所だ。座れる平たい石もあるのでちょうどいい。


「ふむふむ、いい感じだね。よし、じゃあまず、この小石を、あの岩の上にのっかるように落としてみて」

「ええ」


 親指の爪くらいの小石を指差されて、意図はわからないけどそのまま従って五メートルくらいの大きな岩の上に乗るように落とす。

 ぶつかって転がる音がしたけど、落ちてはこないから、見えてないけど乗ったはずだ。


「じゃ、今の石を元の位置に戻して」

「え、ええ」

「あ、不安顔してるね。よし、じゃあまず私が上から位置を指差してあげる。場所がわかれば、できるよね」

「そうね、お願い」


 それならなんとか。あまり失敗を繰り返すと自信がなくなるから、出来る範囲からあげていくのがベストだ。


「で、戻したら次は落とすんじゃなくて私が指示する場所に転移ね」

「わかったわ」


 よし、まずはやってみよう。今やった転移の繰り返しにすぎないんだから、できるはずだ。










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