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机を挟んで向かいにシューちゃんが座り、私から見て左側に積まれた石の上に手を置く。
何の音もなく、右側に石が現れる。
一つ二つ三つ、シューちゃんの手がゆっくり降りていくのに反比例して石が右側に積みあがっていく。
時々石が揺れるけど、崩れることなく積みあがっていく。
「……」
シューちゃんの手が完全に机についた。右側の山に手をかぶせる。シューちゃんがてをどけたので、元あった左側に動けと祈る。
「……動け」
祈るだけでは足りないので声にだしてみたけど、駄目だったので声にも出したけど、駄目だった。
「……」
駄目だ。こんなんじゃ駄目だ!
ていうか、私の中で完全に駄目だと思いこんでる。一回出来なかったらもう出来ないと思ってしまう。
どうすれば自分の考えをかえられるんだろう。いや、変える必要はないのかな? 自分の中で思いこめるように、自分の中で理屈をつけてやればいいんだ。
石が瞬間移動する……それでは納得できない。手で触ると所定の位置AからBに移動する、なら、うん、転移魔法陣をひいているとするなら納得できる。
魔法陣はないけど、それ自体は起こり得ることだと思える。よしよし、いいぞ、この路線でいこう。
まずさっきの地点をAとして、三角形になるよう綺麗に積み上がったこの形を基本として、今のB地点と見えないだけで魔法陣がある。相互転移式で。
シューちゃんは触れることでそれを発動させて……駄目だ。一つずつ転移しててっぺんの石を下辺に持って行くことを納得できない。
じゃあ石一つ一つに魔法陣が組まれていて、特定の地点へ転移する、は……駄目だ。一方通行ならともかく、戻るときに矛盾する。いや? 複数地点を刻めば、解決する?
いいや、とにかく出来さえすれば、思い込みで何の理屈もなくてもできるようになるはずだし、まず一方通行でいいからやってみよう。
「……」
動かない。そうか、理屈をつけてもそもそも本当は魔法陣がないことを知っているからか。でもそれだと、もうどうしようもない。
机をバラバラにするのはできたし、あれも魔法陣がなくても当たり前だった。なんで瞬間移動ができない? ……魔法を使えばバラバラにできる。それをわかってるし、自分でバラバラにできるとわかってるからかな。瞬間移動は魔法でもシューちゃんしかできないと思いこんでる?
一回でいいから、何とか自分を騙せれば、後はできると思うんだけど。
「ユウコ、もう一回私やろうか?」
「え、あ、そうね。ええ、お願い。あ、シューちゃんの手を握った状態でお願いしてもいい?」
「うん」
シューちゃんがもう一度、今度は右側に手を被せる。その上から私の手ものせる。
考えるのをやめよう。できるだけ考えないようにして、無意識で当たり前だと思えるようにならないと。
「いくよ」
頷く。石がどんどん移動していく。
無心になるんだ。手をおくと、石が移動する。
そっとシューちゃんの手を持ち上げる。移動はもちろんとまる。そのまままた下ろす。黙って移動が再開される。
移動、移動移動。手をおろしたら移動、手を離したらストップ。
そういうシステムだ。それが当たり前。この部屋の、この机の上では、それが当たり前なんだ。理由はない。理屈もない。それでも今現実に起こっているから、それが本当なんだ。
石が全て元の位置に戻ったので、私は自分の手を置く。
「……駄目だわ」
いや、駄目なんていうネガティブな言葉を使っては駄目だ! あ、使っちゃった。今のなし。
「シューちゃん、迷惑かけて悪いんだけど、私が思いこめるまで付き合ってもらっていい?」
「もちろん。最初からそのつもりだよ。ユウコが止めるまでひたすら続けるよ」
「お願い」
そこからひたすら、シューちゃんと手を重ねて石を見つめる。シューちゃんの存在も意識から追い出す。
手をのせれば移動して、離せばとまる。
左から右へ。
右から左へ。
上から石がなくなり、下から生えてくるように石があらわれる。
移動する。移動する。移動する。
○
どれくらい時間がたったのか、わからなくなってきた。時計がなく、ひたすらに石を動かしてきた。
シューちゃんの手が下につく。反対側にのせて、また下へ向かう。反比例して山ができていく。
「…ユウコ、気づいてる?」
「なに?」
ずっと同じことをひたすら繰り返しているからか、何だか頭がぼーっとする。だいぶ、自己催眠できてきている気がする。
「私、三回前から魔法使ってないよ」
「…えっ?」
石の移動はとまらない。だって手を乗せているから。手を乗せれば移動して、離せばとまる。そう言うルール、ではない。
自分の行動を自覚した途端、石がとまる。
「ユウコ、自分の手だけでやってみて」
シューちゃんは自分の手を抜いた。
恐る恐る、そこに手をのせる。シューちゃんの手が触れていて少し暖かい石。
できるの? 私に、できるのか。
いや、できるに決まってる。だって今現実に起こっていた。ならばそれが真実だ。
「…動け」
小さく呟くと、石はさっきと同じように移動を始めた。
私の意志により、瞬間移動をしている。そう、私は今まさに、魔法ではありえない奇跡を起こしている。
「シューちゃん…!」
「おめでとう、ユウコ」
「ええっ、ゆかっ、あ、あら? 結花奈たちは?」
「あ、2人ならだいぶ前に、ユウコに気づかれないよう出て行ったよ」
「え?」
言われてからふと外を見ると、真っ赤になっていた。夕方のお日様が沈む直前のような赤さだ。
「…今何時くらい?」
「さあ?」
確かに夢中になってたし集中してほぼ無言だったけど、だからって黙っていなくならなくてもいいのに。
むー、結花奈め。後でほっぺたつねってやるから覚悟しなさい。
○




