129
「シーコさん? 聞いてます?」
「あ、ああ。聞いているよ。私の突然の行動に驚いているんだろう? わかっているよ。私もつい興奮してしまってね。理解してほしいのは、私がいつもあんな調子ではないと言うことだ」
シーコさんも落ち着いたらしい。今日最初に会ったときのように、多弁でゆったりとした話し方をしている。
「さて、どこから話したものか。シュシリング様の」
「あの」
「ああっ、どうされました? 姫」
シューちゃんが声をかけると途端にシーコさんは興奮したように身を乗り出し、シューちゃんは近づかれた分あからさまにひいて、結花奈の後ろに隠れようとした。
「……私のことは、シュリでいいから、敬語はやめて」
「はっ、いえ、しかし………わかり、わ、わかった。シュリ、さん。で、いいかな?」
「うん。普通にして」
「了解した」
うん、ナイス判断よ、シューちゃん。やりにくいもんね。
シーコさんは赤くなったりにやついたりして一通り変顔してから、改めて話し始めた。
「シュリさんの姿を一目見て、一目惚れした」
「……はい。で、ご主人様と言うのは?」
さらっと言ってるけど、まぁ一目惚れまではいい。同性じゃん、とか突っ込める立場ではないし。
「私は幼い頃、お姫様のように美しい人を見たことがある。そしてその人の側にはむかつく顔の男が寄り添っていた。まるで姫と騎士のように。私はそれからずっと憧れていた。姫のように美しい人に仕えたいと」
「むかつく顔?」
「すでにわかると思うが、私は同性愛者だ。イケメンな男は顔を見るだけでむかつく」
はあ、そっすか。ま、まぁ、それはいいか。うん。
「5つになるころに一度、ほんの数分言葉を交わしただけだが、今でも覚えている。金の髪、緑の瞳を持った実に美しい人であった。シュリさんはどことなく似ている気さえする」
それは単に好みの系統の問題でしょ。それにしても、五歳から同性愛者と自覚してるとか早くない? 私なんか性別の差があることもよくわかってなかった気がする。
「惚れたと言え、いきなり恋人にしてくれと言うつもりはない。まずは私の主として、騎士として側にいさせてほしい」
「嫌だ」
黙って聞いていたシューちゃんだけど、視線と共に尋ねられて間髪入れずに断った。
シーコさんは物凄い傷ついた顔をする。うーん、ちょっと罪悪感がないでもないけど、恋人の前にいきなり騎士とか意味分からないし。普通に初対面だし、旅の途中だから友達になるのも難しいしね。
「そ、そう言わずに。まずは私の人柄を見てだね」
「いやさぁ、普通に考えてよ。優姉とは友達かも知れないけど、こっちは他人だよ? なに、騎士とか姫とか。マジドン引きだし」
「ちょっと結花奈、友達ってほどではないわよ」
シーコさんを諦めさせようとする結花奈だけど、友達ではないので訂正する。知り合いと言えば否定はできないけど、友達ではない。
結花奈はちらっと私を見てから、無視してシーコさんに再び視線をやる。
「とにかく、本当に騎士として働いてるわけでもないのに自称騎士とか痛すぎ」
「い、いや、ちょっと待ってくれ。一応、本当に一応だが、故郷では名誉騎士の役職を得ている」
「名誉騎士ぃ?」
「うむ。私は村をでて、きちんと元騎士の方から剣技を学んでいる。そのため、村長から名誉騎士と評してもらった。名前だけで、村で働いていないし給金もないが。一応、自称ではない」
「あやしーなー」
と言うか、だとしてもシューちゃんを姫と呼ぶのは妄想でしかないよね。お姫様みたいに可愛いのは全く同意ではあるけど。
「あ、怪しくない。そうだ、これから一緒に故郷へいこう。そうすればはっきりするはずだ。うん。それがいい。私のことも理解していただけるはずだ」
「は? 嫌だし。私らこれから行くとこあるから」
「うむ。だから一緒に行こう」
「はぁ?」
「えっと、ちょっと齟齬があるから説明するわね」
物凄い胡乱げな顔でシーコさんにメンチを切る結花奈をなだめるように、二人の間の視線をチョップできる。
「さっき私たちがケイタリスに行くこと話したんだけど」
「まず話すなよ。優姉はほんとに、警戒心なさすぎ。これから自由行動なしにするよ」
「ごめんなさいってば。でも仕方ないじゃない。シーコさんがなんか変な人だと知らなかったんだもの」
「どこの世界に、自分変人です、てな札下げて歩いてる人がいるんだよ。全く」
うう、結花奈手厳しい。確かにシーコさんは変な人だけど、ドン引きしたけど、でも、悪い人ではないんだけどなあ。
実際助けてもらったし、話している感じでも。ちょっとお馬鹿だけど、馬鹿正直って感じで、嘘が付けなさそうだ。
「で? 話してなんだって?」
「ええ、実はシーコさん、ケイタリス出身なんですって。ついでだから送ってもいいけど、私が怪しいかとか言うようなお人好しさんなのよ」
「本当に怪しいとしか思えないけど」
「いやいや」
シューちゃんに会うまでは本当に普通だったんだから。ちょっと可哀想になってきた。
「頼む、ユウコ君だけが頼りだ。なんでもするから、ケイタリスまでついて行くことを許可してくれないか」
「え、えーっと」
えー、だからってそれはなぁ。さすがに。シーコさんが帰郷するのを止めさせる権利はないけど、一緒って言うのは。悪い人ではないけど、友達でもないし。
「私はそれなりに腕も立つ。荷物持ちでもなんでもする」
「えっと、二人はどう思う?」
「……私はユウコがそうしたいなら、別にいいけど」
「えー、やだよ。それに、一人増えたら時間かかることわかってる?」
時間? あ、そうか。シーコさんの目の前で空を飛ぶわけには……はっ。
「シーコさんは、シューちゃんが好きってことだけど、もちろんシューちゃんが嫌がるなら指一本もふれない紳士よね? 騎士なんだもの」
「もちろんだとも」
シーコさんは重々しく頷く。うんうん。それに滅多なこともないと思うけど、もし何かあっても結花奈がいれば大丈夫よね。
「じゃあ、シューちゃんが嫌じゃないなら一緒に行きましょう」
「うーん、まぁ、ユウコが言うなら、いいけど」
シューちゃんはちょっと考えるように首を傾げたけど、上目遣いに見つめてくるシーコさんを見て、渋々頷いた。
「いやいや、なんでそうなるのさ」
「旅は道連れ、世は情けよ」
「シュリに変な虫がつくじゃんか」
「大丈夫よ。むしろ、人見知りの改善にちょうどいいわ」
それに空を飛べないと言うことは、つまり大地の上を走って、一つずつ街を回ると言うことだ。ちょっと大回りだけど、北の山を右回りで迂回するコースなら、あのスープの街によれる!
それに、シューちゃんの人見知り改善も嘘ではない。シューちゃんが気持ち悪いとか人の悪口を言うのも珍しい。シューちゃんは自分の感情を表現するのはまだ苦手な方だし、シーコさんとしばらく一緒にいるのもいい刺激になるかも知れない。
悪口言ってたら、案外、気の置けないいい友達になるかも知れないしね。それは高望みだとしても。
と言うことで、一時的に4人パーティーになります。ちょっと勇者っぽいかも?
○




